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終章
ベッド
しおりを挟む辺境伯の屋敷が空くまでの期間。辺境伯領の様子を見て回る前に屋敷に持ち込む物などを買うことにした。
先に買っておけば、屋敷が空き次第運び込めばいいし、特注の物であれば今の内に発注しておけば丁度屋敷が空く位に出来上がるだろう。それに私は空間収納を使えるので、先に物を買いこんでも問題はないのだ。
そんな訳で、ロイドと一緒に王都にある屋敷関係の物が集まる商店が多く建ち並ぶ場所へ来ていた。
「ロイドは、どういう感じの家具がいいのかしら」
「俺は別にこだわりがあるわけじゃないし、レイアが領主になるわけだから、自由に選べばいいと思うよ」
「それはそうなんだけど、ロイドも一緒に使うわけだからあまり好みではない見た目の家具は使いたくないでしょう?」
屋敷の構造とか、雰囲気とかはまだわからないから大き目の家具は変えないけれど、小さ目のチェストとかなら買っても大丈夫なはず。
「そうかもしれないけど。それに、他の人が来る場合もあるわけだから、無難な見た目のものがいいんじゃないかな」
「それはわかっているわ。そういうんじゃなくて、私たちの寝室に使う家具のこと。それなら他の人に見られるようなこともないし、自由に選んでもいいでしょ?」
人が訪れるような場所は無難な見た目の家具の方がいいのはわかる。でも、私室であればその辺を気にするようなことは必要ないわよね。
「ああ、まあそうだね。じゃあやっぱりレイアの好きなように選んだらいいんじゃない?」
「だから、私とロイドの部屋に使う家具を選びたいって言っているのだけど」
ここまで言わないとわからないのかしら。明言しなかった私も悪いと思うけれど、なんのためにロイドと一緒にこんな場所に来ているのかくらい少しは考えてほしいところね。
「そういうことか。といっても、自分の好みって正直わからないんだよな。昔から俺が使っていた物はおさがりが多かったし、自分で選んだ物ってほとんどなくて」
そういえばロイドって魔法が使えなかったから立場が弱かったんだったわ。まあ、私も公爵家にいたときは自由に物を選ぶなんてできなかったけれど、養子に入る前は自分で物を選ぶこともあったしその差が大きいかも。
「ならこの際に自分がどういったものが好きなのか、確認してみるのもいいかもしれないわね。これからは身の回りの物をすべて選んでもらうなんてできないだろうし」
一応私が辺境伯になってロイドはその配偶者になるわけだからその辺りはしっかり把握しておかないといけないと思うのよね。今回は単に私がロイドと一緒に買い物をしたかっただけなのだけど。
「それもそうか。立場を考えるなら、自分のことを他の人に任せるのはよくないよな」
「そうね。他の人に任せっぱなしだと変な物を買わされるかもしれないし、お金の横領とかをされていても気づきづらいから」
私もその辺はしっかり気を気を付けないとね。ともかく。ロイドが買い物に前向きになってくれたならよかったわ。
そうしているうちに最初の目的地にしていた家具屋に到着した。
「あの、レイア。ここって…」
「寝室で使う家具を売っているお店ね」
私たちが最初に訪れたのは王都でも一番か二番目に大きな寝具店。特にベッドを多く扱っているお店だ。
最初に出てきた店主の案内をそこそこに、私たちは2人で店内に置かれているベッドを見て回ることにした。
「あのレイアさん?」
「ベッドって大事だと思うのよね」
睡眠のためにも、今後のことを考えても。
「大きい方がいいわよね。ロイドはどう思う?」
「えっと、それは一人で寝るのにも大きい方が快適ってことかな」
そんなわけないでしょう。まあ、意図はわかっているみたいだけど、焦った表情をしているロイドも悪くないわね。ちょっといじめたくなるわ。
実のところ、今まで同棲しいている時も一緒のベッドで寝たことはあまりないのよね。日中くつろぐ時なんかは一緒のベッドでくっついたりはしていたのだけど、夜に一緒のベッドで、ってことはほとんどなかったし。
「ロイドは別々のベッドがいいの?」
「え、普通はそうじゃないかな」
「普通って言っても、全員が全員そうというわけではないでしょう?」
「それはそうだけど」
「ロイドは私と一緒のベッドで寝たくないっていうのね」
少しだけ悲しんでいる風を装って顔を下に向ける。
「あーいや、そういうのじゃなくて」
あれ? 想像していたのとは違う反応ね。もうちょっと照れた感じの反応が返ってくると思っていたのだけど。
「そういうの?」
「恥ずかしいとかじゃないんだけど…」
「うん」
「ちょっと加減ができなさそう、というか……」
ロイドがそう申し訳なさそうにかつ、恥ずかしそうに頬をかきながら言う。
加減? 何を? 首を傾げそう考えたところで私はそれが何を指すのかに思い至る。
まさかの返しに顔が熱くなるのを感じながらロイドの顔を見上げる。そこには少しはにかみながらもしてやったり、みたいな表情をしているロイドがいた。
「からかった?」
「いや、割と本気……かな。普段も結構抑えているから」
あれで? 過去の記憶を呼び起こしながら何度も、そう思う。
ほぼ婚約者の状態で1年以上も同棲していれば、そういうことは1回や2回やそれなりの回数はあるわけで……
「ろ、ロイドがそうしたいのならいいわよ」
「本当に?」
おかしいわね。さっきまでは私が攻めていたような気がするのだけど、いつの間にか立場が逆転しているような気がするわ。
「え、えぇ。いいわ」
「そうか。それならしっかり選ばないとな。あぁでも、見た目の方はやっぱりレイアが好きなものでいいよ。俺は見た目にこだわりはないから」
「う、うん。わかったわ」
「それじゃあまだ見ていない物から見ていこうか」
いつの間にか主導権がロイドに移っていたことに困惑しながら、ロイドに連れられて店内に飾られているベッドを見て回ることになり、最終的にベッドは私好みの白系の木材を使った、見た目がおとなしめのもので一番大きなものを注文することになった。
―――――
今日の21時頃の更新をもってこの作品は完結となります。残り3話となりましたが、最後までお付き合いしていただけたら幸いです。
※今日の更新は12時過ぎ・18時過ぎ・21時過ぎ頃になります
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