(完結)婚約破棄ですか…いいでしょう!! おい国王! 聞いていましたね! 契約通り自由にさせてもらいます!!

にがりの少なかった豆腐

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追加閑話

泥沼からの逃避

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「おえっ」

 暗い穴の底。あたりにはここへ落ちて来た魔物が山積している。ほとんどは落ちて来た衝撃で動けなくなっているが、中には運よく動ける存在もいる。

 慣れない濃厚な獣臭さにえずきながら、俺を見つけて襲い掛かって来る魔物を動けなくしていく。そうしなければあの子を助ける前にこっちがやられてしまう。

 しばらくすると上から魔物が落ちて来るのがパタリと止んだ。ちょうど迫って来ていた最後の魔物を動けなくしたところだったので、すぐさまあの子の落ちたと思われる場所に山積している魔物を排除していく。

 どんどん魔物を退かしていく。
 ほとんどの魔物は死んでいた。辛うじて生きていたのは表層に居た少しだけで、他は上から潰されたのか嫌な表情をしたものが多い。しかも、下に行くにつれて見るのも拒みたくなるような状態の魔物も出て来た。

「うっ」

 これではあの子はどうなっているかがわからない。潜伏場所からここへ来る前に王宮から密かに持って来ていた魔道具をいくつか渡しているから、それが上手く機能してくれればまだ大丈夫かもしてない。

 そんな淡い期待を無理やり維持しながら、血で染まった魔物を必死に退かしていく。


 あの子はまだ見えない。
 既に日は傾き、空が暗くなり始めている。ただでさえ暗い場所なのに、これ以上暗くなると魔物を退かす作業もし難くなる。

 そろそろ地面に届く位なはずだ。そう思い必死に魔物を退かしていく。まだあの子の姿は見えない。
 そこから数体の魔物だった物を退かしたところで、淡い光が下から漏れていることに気付いた。

 これは、事前に渡していた魔道具がしっかり発動している証拠だ。
 
 それを確信したことで諦めかけていた気持ちが一気に逆転する。

 はやく、はやくと気が急くが、丁寧に、少しでも衝撃を与えないように魔物だった物を退かしていく。

 魔道具は使用者の魔力を元に発動する。今発動している魔道具は登録した魔力を持つ者以外からの干渉を防ぐ物で、掛かる圧によって消費される魔力量が変動してしまう。
 この魔道具が発動してから相当時間が経過しているはずだ。そうなれば何時魔道具の効果が切れるかもわからない。雑に退かして、上から他の魔物が落ちて来た瞬間に魔道具の効果が切れるかもしれない。

 そしてようやくあの子の姿がしっかり確認できるようになった。魔道具が発動しているということはまだ生きているということだ。

「アイリ……?」

 しかし、あの子は気を失っているのかピクリとも動かなかった。辛うじて動く胸に彼女の生を感じた。

「っ!? これはすぐに回復させないと拙い」

 アイリは生きていた。しかし、利き腕である左腕を肘の上から失い、右足が膝からあらぬ方向に向いていた。
 それに暗くて確認し辛かったが、よく見ればかなり顔色が悪い。自力で傷は塞げたのか血は止まっているが、相当血を流してしまったのだろう。魔物と戦ったのか服もところどころ破け、はだけていた。

 すぐにどうにかしなければと、血だまりの中に横たわるアイリを優しく抱え出す。

 魔物が上から落ちて来なくなったとはいえ、今後絶対に落ちてこないということはないだろう。それに退かした魔物は周囲に積み上げたままだ。これがぐずれないとは言えない。

 それにアイリもそうだろうが、俺の魔力はもう殆ど残っていない。回復魔法をかけるにしてもどこかで休む必要があった。

 転ばないよう慎重に死んだ魔物の上を移動していく。出来れば退かしながら進んで行きたいが、そんな余力はない。

 堀からは出られていないが、魔物がほとんど落ちていない場所を見つけ、アイリをそっと横たわらせ、その横に腰を下ろす。
 
 どうしてこんなことになってしまったのか。そんなことが頭をよぎるが、今はそれよりも歩いている間に回復した魔力を使って、アイリに回復魔法をかけることを優先する。

 俺の腕では一気に怪我を治すことは出来ない。そもそも、魔法自体、王族として最低限出来ればいいと思っていたため、それほど得意とは言えない。

 出来る限りの魔力を使いゆっくりとアイリの脚に回復魔法をかけていく。腕の方は状態が酷く、俺ではどうすることは出来ない。

「くそっ」

 今更ながらあいつの凄さを実感する。あの夜会の時もさっと切られたアイリの腕を治していた。そんなことは俺には出来ないし、何事もなかったように魔法を使うことも出来ない。

 ゆっくりではあるがアイリの脚が治り始める。変な方向に向いていた脚が徐々に元に戻り始め、俺の魔力が尽きる頃には違和感がない程度には回復していた。

 アイリはまだ目覚めない。
 これからどうするべきか。俺は堀の底から見える夜空を仰ぎ、次の事を考えることにした。
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