36 / 72
辺境伯領での生活
1月半ほどが経ちました
しおりを挟むグレシア辺境伯領の領軍で働き始めてから1カ月半ほどが経ちました。
辺境伯軍は普段、領都の見回りをして訓練をしています。
魔物などの討伐依頼や出現の通報を受けた時はその場に向かうことになるのですが、私が辺境伯軍で仕事を始めてからそのような事があったのは10日に1度くらいの頻度です。
見回りは治安維持に必要な事ですが、領軍に所属している騎士が全員で行う訳ではなく、日替わりで行うため殆ど訓練が主な活動のようです。
私は回復士として領軍に居ますが、とある理由で回復士としての仕事自体はそれほど多くはありません。
魔物などの討伐から帰ってきた時は多少忙しくなる時もありましたが、元より鍛えている方たちなので大怪我をして帰って来る、という事は今のところありません。
それでも打撲や斬り傷などは多く負っているのですけれど。
まあ、このようなことは頻度が低いため、私が普段領軍でしているのは訓練の補助程度です。補助と言っても、水や汗を拭くためのタオルを用意するくらいしかやることは無いのですけれどね。
「レミリア」
訓練場の端で投げ捨てられたように散らばっているタオルを拾っていると後ろから声を掛けられました。声からしてアレスだと思いますが訓練中に声を掛けて来るのはそれほど多くはないです。
「何でしょう?」
「足を怪我した奴が出たからヴァルグを呼んできて欲しいんだが」
ヴァルグという方は、私と同じようにグレシア辺境伯軍の回復士をしている男性の名前です。基本的に訓練の際に負った怪我は彼が治療しているのですが、現在は水分補給のための水を汲みに行っているためここには居ません。
「彼は水を汲みに行っているので呼びに行ったとしてもすぐには難しいですね。というよりも、ここに居る私が治療するべきだと思うのですが」
「いや……」
何故でしょうか。毎回このような状況になると私には治療をさせてくれないのですよね。その割にアレスが怪我をした時はすぐ私に治療させるのです。他に理由があるのかもしれませんが、そういう事……なのでしょうか?
ですがこれは仕事なのですよね。
「ヴァルグは先ほど行ったばかりなので帰って来るまで時間が掛かると思います。なので、私が治療しますね」
「いや、駄目だ」
「ですが、ヴァルグが帰って来るのを待っているのは時間の無駄だと思います」
「そうなんだが。あー、うーん。ここだけの話だが、レミリアが治療すると目立つ可能性があるから、出来るだけこういった場での治療をさせないように父上に言われているんだよ」
なるほど、そういう事だったのですか。アレスの私情という訳ではなかったのですか。これは少し反省しないといけませんね。ですが……
「遠征の後では普通に治療しているのに今更ではないでしょうか?」
「まあ、そうなんだけどな。遠征の時とは違ってどうしても訓練中だと目立つだろう? 遠征の時は怪我しているやつは他の奴らと別行動になるからその分目立たないからな。その差だ」
別に治療した程度で目立つ、という事はないと思うのですけれど、グレシア辺境伯様からの指示となると無視するのも良くないですよね。うーん。
「おや? アレクシス様とレミリア様。ここで何をされているのですか……ああ、なるほど怪我をした方が出たのですね」
アレスと話している内にヴァルグが戻って来てしまいました。そして、私とアレスの様子を見た後、訓練場の方へ視線を向けて怪我人が居ることを把握したようです。
このようなやり取り、実は何度もやっていますからね。理由を聞いたのは今回が初めてでしたけど。
残念ですがヴァルグが戻ってきた以上、私の出る幕はないでしょう。仕方ありません。
しかし、このままでは碌に領軍の回復士としての仕事が出来ませんね。この指示を緩和するか撤廃してもらえるように、辺境伯様に少し話を伺った方が良いでしょう。出来ればこういった状況でも私が治療して良いとの許可を頂ければいいのですが。
後日、グレシア辺境伯様に話を伺ったところ、そのような指示は出していないとの事でした。どうやらアレスの独断だったようですね。しっかり、辺境伯様に叱られてきてくださいな。
あら? という事は、私の予想は強ち間違っていなかった、という事なのでしょうか?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
820
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる