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スローライフは遠い
亜人には生き辛い世界
しおりを挟む残りの男たちにとどめを刺し、それが終われば服をはぎ取る。そうして2人のもとに戻ると、先ほどの態度とは打って変わって打ちひしがれた様子の獣人の女性が地面に座り込んでいた。
「この後、どうすればいいのよ。行く当てなんてないし」
「…はい」
どうやら俺が前からいなくなったことで感情の向ける先がなくなり、マイナス方面に感情や思考が流れて行ってしまっているようだ。
「もともと住んでいた場所に戻ればいいんじゃないか?」
無理やり連れてこられたのならもともと住んでいた場所に戻ればいい。まあ、一度捕まったということはそこが完全に安全というわけではないだろうが。
「そうもいかないのよ。私の場合はね」
「どうしてだ?」
「獣人の村ってどんな理由があっても、村から出ていった者を改めて受け入れることってないのよ。人間に攫われたとしてもそれは自業自得。そいつが迂闊だっただけって考えなの」
だいぶ極端な考え方だな。自分の意思じゃなかったとしても一度村の外に出てしまえば完全に他人扱いするって、それは同じ種族の者に対してすることか?
というかそんなことをして村としてやっていけるのだろうか。人間に攫われる獣人が増えたら速攻で立ち行かなくなりそうだが。
「確かにそんな感じで無くなった村もあったらしいわ。でも、獣人が住んでいる場所ってあまり作物が育たないから食料が手に入りにくいのよね。だから、誰かがいなくなったら喜ぶ人の方が多かったりするのよね」
「マジか」
なんか絶滅に向かっている種族の話に聞こえてくるだが、本当に大丈夫なのかこの世界。
「私も帰る場所はありません」
「え、そうなの?」
まさかもう1人の方も元の生活に戻れないとは思っていなかったようで獣人の女性が驚いて声を上げた。
「はい。私が捕まったのは村を追い出されて、どうしていいかわからなくてさまよっていたところだったので」
追い出されたって、この世界の常識を鑑みれば人間以外だと死刑宣告みたいなものだろ。
「どうしてそんな状況になったんだ?」
「私、見ての通りエルフではあるんですが、実は人間と交わったことで出来た子なんです。それで、私みたいな存在をデミエルフっていうんですけど、エルフの住んでいる場所では人間と交わることは禁忌に近い扱いなんですよね」
ああ、なんとなくそうかもなって思っていたがやっぱりエルフでよかったのか。というか言い方が人間限定っぽいところからして、エルフからも嫌われているんだな人間って。この分だと獣人に限らず、人間以外の存在は差別の対象なのかもしれないな。
「当然、その結果できた子も同じような感じに扱われまして、場所によって対応は様々らしいんですが、私の住んでいた場所では村に住むことが禁止されていまして……」
「あぁ、なるほど。ばれちゃったのね」
「はい」
追い出されたその時のことを思い出しているのか、デミエルフの女性は今にも泣き出しそうな表情で虚空を見つめていた。
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