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ハブられ勇者の付き人やってます 別の場所に旅立った屑王子の体が、いつの間にか魔王に乗っ取られているんだが、どう言うことなんだ?

王子()・聖騎士()

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「王子。そろそろお時間ですが」
「は? んなことわかってんだよ! 一々言って来るんじゃねぇ!」

 勇者と同じく魔王を倒すことを目的とした旅をしている王子一行。しかし、肝心の王子はある町の食堂を貸し切ってそこで働いていた女性を隣に侍らせ、食事をしている。
 王子の体は半年も旅をしていると言うのに、実に恰幅が良い。明らかに他のメンバーに比べても、人一倍豪華な食事をとっているようだ。

「おい、手を止めるんじゃない」
「申し訳ありませんっ」

 侍らせている女性に指示を飛ばす。女性は持っていたスプーンで目の前の料理を掬い、王子の口元まで運ぶ。俗に言う、あーんであるが、女性の表情を見るに無理やりやらせているようだ。

「もういい」

 満足したらしい王子は横に侍らせていた女性を雑にはらうとそのまま店の外に出て行ってしまった。

「お待ちください。王子!」

 それに続いて従事している他の魔導士もそれに続いた。王子が座っていた所のテーブルにはまだたくさんの料理が手を付けていない、もしくは殆ど手を付けていない状態で残っている。しかし、王子一行の中でそれを気にする者は誰も居なかった。いや、最初の頃は居たのだが、ここ半年で当たり前に成ってしまったと言うことだろう。

 そうしてその店には大量に残った料理と、安堵の表情を浮かべた関係者以外は居なくなった。


「さて、そろそろ魔王の所にでも行くか」
「よろしいので?」
「何が言いたいのかはわからんが、さすがに飽きて来たのでな」
「そうですか」

 実は王子一行は、魔王がどこを根城にしているのかを知っている。そもそも、この討伐の旅を始める段階で魔王がどの辺りに居るのかの情報は王のもとに届いていたのだ。それを他の討伐隊に知らせていないのは、王子を必ず勝たせるために他はない。

「魔王と言えど、生き物だ。俺らが一斉に魔法を撃ち込めば一溜まりも無いだろうよ」
「でしょうなぁ」
「これで俺は魔王殺しの英雄だ! 実に素晴らしいことだなぁ!」

 そうして王子が周りも気にせず笑う中、王子一行は魔王が居る場所へ向かって歩き出した。

 果たして王子の思惑は上手くいくのか。それはまだわからない。

 ◇

 ある場所の街道の脇、そこから少し離れた所に停泊している馬車が一台。そしてその近くにはテントが複数張られていた。

「兄さんは元気にやっているのでしょうか?」

 テントの中、ではなく馬車の中に居る少女が馬車の窓から空を見上げ、呟いた。

「まあ、大丈夫ですよ。何だかんだ私の扱きについて来れるくらいには根性がありますし」
「でも、お姉ちゃん」
「聖女様。ここはプライベートな空間ではありませんので、名前でお呼びください」
「でも、誰も聞いていないし、それに…」
「いえ、他の聖騎士も完全に信頼がおけるという訳ではない以上、下手な発言は駄目ですよ」

 現在、この隊に残っている聖騎士は4人だけだ。初日には10人いたはずであるにも関わらず、ここ半年の間にここまで減ってしまった。
 別に道中の戦闘で殉職した訳ではない。半年に及ぶ長旅で心が病んだり体調を崩したりして4名は隊を離脱しているのだ。
 他の2人については、長旅によるストレスにより暴走し、聖女に襲い掛かった。そして付き人でもあるこの隊の聖騎士を纏めている女性聖騎士によって成敗された結果、隊から除名されたのだ。除名の方法についてはここには記載しない。
 まあ、旅の疲れとは言えでも聖騎士であるにも関わらず、守護するべき聖女に襲い掛かったのであるから、どうなったところで気にする者は居ないだろう。

 不意に馬車の外側から馬車のドアをノックする音が響いた。

「すいません隊長。今お時間よろしいですか?」
「……ああ、何だ?」

 女性騎士は直ぐ聖女に声を上げないように手振りで指示を出す。どうやら立場上、聖女が上のはずだが実質的には女性騎士の方が力は上のようだ。

「レグスの体調がすぐれないようです。このままですと、明日の旅路に影響する可能性があります」
「……そうか」

 また1人の聖騎士が脱落する知らせだった。これで女性騎士を除く聖騎士は3人になった。

「無理について来てもらっても足手纏いにしかならない。前に離脱した者と同じように」
「了解しました。あの…それで、ですね。私も…」
「離脱したいと?」
「……はい」

 この聖騎士が離脱してしまえば残りは2人。さすがに聖女が乗る馬車を守りながら旅を続けるには人数が少なすぎる。いや、そもそも聖騎士の数が半分になった段階で無理が出て来ていたのだ。それによるしわ寄せで、今回体調を崩した聖騎士が出た可能性が高い。

「さすがにお前まで居なくなると聖女様の守りが薄くなりすぎる」

 そう言った後、女性聖騎士は上を見上げ多くにため息をついた。

「仕方ない。明日になったら一旦国に戻ることにする。このまま戻れば教会本部から叱責されるだろうが聖女様を危険にさらすよりはマシだろう」
「了解しました。他の者にも伝えておきます」
「ああ」

 そう嬉しそうな声色で返事をした聖騎士は馬車から離れて行った。その聖騎士が完全に離れて行ったことを確認した女性聖騎士はあからさまに舌打ちをした。

「腰抜けどもが、修業が足りなさすぎる。もっと根性を見せて欲しい所だな」
「えぇ? こんな長旅を想定した訓練はしていないのですから当然なのでは?」
「いえ、確かにしては居ませんがこうなることくらい想定して然るべきでしょう。それが出来ていないのなら聖騎士としては失格だと思います」
「えぇ…?」

 この女性聖騎士、かなりの脳筋である。
 いや、正確には行動理念が脳筋と言うだけで、しっかり考え、予想し、それに合わせた計画を立てているのだから完全にそうではないのだが、最終的に根性論になっているから余計にそう見えるのだろうが。

「話は聞こえていたでしょうが、そう言うことなので、聖女様。明日の予定は変更です」
「わかりました」

 そうして聖女一行は、予想外の聖騎士の離脱により国に戻らざるを得なくなったのだった。

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