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柔らかな唇
turn4.圭
しおりを挟む――俺はもう、君以外の人とこういうことをする気はないよ
俺に向けられる眼差しは優しくて、頬に触れた手はとてもあたたかかった。
――……ははっ、そんなによかった?
――……そうじゃなくて
――俺はするよ?
そう言うと、亮二さんは悲しそうな顔をした。
そして俺の頬に触れながら言った。
――……俺は君に、教えてあげたい
――何を?
――ひとを愛する、気持ち
「……これが、君の答え?」
「………」
いつものように、部屋で南とセックスしていた時だった。
狭い玄関に立ち尽くしている亮二さんを、俺は床に転がったままじっと見つめた。
今日、彼がここに来ることは知っていた。
「……そうだよ」
目を逸らさずに言う。
「……言ったじゃん、ゲームだって」
「………」
彼は何も答えなかった。
俺は別に、愛なんて知らなくていい。
むしろ知りたくなんてない。
だって部屋を出ていった彼を今すぐ追いかけたいっていう、この感じがそうだというなら。
彼に抱かれて眠る時のあのぬくもりが、耳元で囁かれる甘やかな言葉のひとつひとつが、そうだというなら。
きっと愛は優しくて、同じくらい苦しくて、せつないものだと思うから。
そんなものを抱えて生きるなんて、俺には無理だ。
turn5.亮二
今度ばかりは、別にいいよとは言われなかった。
早紀はただ微笑んで、今までありがとう、と言った。
それなりの覚悟はしていた。
自分がどんなに愚かな選択をしようとしているのか、これから歩んでいく道がいかに険しいものであるか、それはわかっているつもりだ。
でも、それでも。
――……圭、
――なに?
――愛してる
――………
――君を愛してるんだ
――……そう
――……笑わないのか?
――……笑えない
圭と他の男との情事を目の当たりにしたその翌日。
俺は圭を、バイト先から連れだした。
一時の情欲で身を滅ぼすなんて、どうかしてる。
ずっとそう思ってきたけど、今ならその気持ちが理解できる。
理屈では説明できない。
とめられない衝動と、そこに芽生えた感情。
圭はそれを信じないと言ったけど。
大切だと思う気持ちも、伝えたい言葉も、きっといつか君に届く。
俺はそう、信じてる。
仮住まいとして借りた、古いアパートの一室。
狭いベットの中で抱きあいながら好きだよと言うと、圭は少し寂しそうに笑った。
turn6.南
――初めは驚いたの
少し前に、早紀さんと会って話をした。
――亮二にはね、打算的な考えがまったくないの。なんの見返りも求めずに、ただ与えてくれる。……そういう人もいるんだって、驚いた
――ほら、理想の家庭ってあるじゃない?
私もあの人となら作れるかもしれないと思った。だから結婚したの
――でもね、やっぱり無理
あわないのね、と彼女はばっさりと言った。
――根本的なところが違いすぎるから、わかりあえない。理解しようとすればするほど、わからなくなる
コーヒーを飲みながら、早紀さんは小さく笑う。
――……皮肉な話よね。きっと何よりも、求めてたはずなのに…
その手にはもう、指輪はなかった。
圭があの男と姿を消して、半年が経った。
その間、俺はこの部屋でずっと待ち続けていた。
とはいっても、普段の生活と殆ど何も変わらない。
ただ、圭を抱けないだけ。
行方を探したりすることはなかった。
その必要はないって、わかってたから。
――深夜。
静かな部屋にガチャリとドアノブが回る音が響いたら、俺はなんでもない顔でおかえりと言うだろう。
「なんか食うもん、ある?」
おまえもまるで近所を散歩して帰ってきた時のようにそう言って、俺の隣りに座るだろう。
そしてすべてがまた、元に戻っていくんだろう。
きっとまるで何事もなかったかのように、日々は流れていくんだろう。
「……圭、」
テレビ番組から目を離さずに、何?と圭は言った。
「おかえり」
「……ただいま」
end.
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