短編集(1)(BL)

kotori

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honey

#1

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……かわいい

でかい犬と戯れる悠里(ユウリ)を見て、軽い眩暈がした。

……まじ、なんなのコイツ…



今日俺は、生まれて初めて告白をした。
東高始まって以来の不良と名を馳せた俺が好きになったのは、なんと男だった。
自分でもびっくりだ。

今、目の前で犬とじゃれあっているのは園村悠里。
女みたいな名前だけど、れっきとした男だ。
童顔で背は低くも高くもなく、何もかもが至って平凡。
家が金持ちだって事は今さっき知ったけど。

なんでそんな奴(しかも男)を好きになったのかというと、それはむしろ俺が知りたい。
好きになるのに理由なんてないというのはあながち嘘ではないのかもしれない。

ほとんど、一目惚れ。
でもなかなか言いだせなくて(あたりまえだ)、昨日まではただの友達だった。
これまでだって、特に仲が良かったわけではない。
だけど悠里は、俺の気持ちに応えてくれた。

――……俺も一樹(カズキ)のこと、好き

これが運命じゃなかったら、なんだっていうんだ。
恥ずかしそうに俯く悠里は恐ろしくかわいくて、両思いだった嬉しさも相まってあやうくその場(屋上)で押し倒してしまうところだった。

それでもなんとか理性をたぐりよせ、とりあえず段階を踏むためにキスだけで留めておこうと抱き寄せたらちょっと待って、と悠里。

――……なんで?

――………

真っ赤に染まる頬。

――……一樹、今日の放課後、ヒマ?

――え?あ、あぁ…

がっつこうとした事に今更恥ずかしくなり、なんだかバツが悪い。
けれどそんな俺をよそに、悠里は赤い顔をしたまま俺を見上げてきた。

――……じゃあ、俺んち来て…

そんな事を言われて期待しない男は、この世にはいないだろう。
さすがは同性、生物学的なことが理解できているからか話が早い。

……そうなったら我慢できるわけねーし…つーかする必要もねーのか…

自然と口元がにやけた。

「……どうしたの?」

いつの間にか玄関の前にいた悠里が、首を傾げて俺を見ている。

 ……か わ い い !!

はやる気持ちを抑えつつ、俺は広々とした玄関に向かった。

「おじゃましまー…」
「……律(リツ)兄!」
「……へ?」

ぽかんとしている俺の前で、悠里は靴を脱ぎ捨てると家の中に消えた。



 
いきなり放置された俺は、しばらくそのただっ広い玄関先に突っ立っていた。
戻ってきた悠里と一緒に出てきたのは、エプロン姿の見知らぬ男。

「駄目じゃないか悠里、お客様をこんなところでお待たせして」
「ごめんなさい…つい…」

男の隣りで、しゅんとする悠里。

「……あ、あのう?」

あんた誰?

「あぁ、これはこれは失礼しました、悠里の兄の律です。初めまして」

……兄っ?!

「はっ、初めまして…。榎本一樹…です」

どうぞあがってください、と悠里の兄が笑顔で言う。

「……おじゃま、します…」



悠里の兄は物腰の柔らかい人だった。
歳は三十手前くらいだろうか。
背が高く精悍な顔立ちをしていて、悠里とは全然似てない。
通された広いリビングでお茶を出された。

「どうぞ」
「……どうも、」

穏やかな笑みを浮かべる兄。
なんか見るからに優しそうだし、事実そうなんだと思う。思うけど…。

「……あ、あのう…」
「あぁ、こら悠里。降りなさい」
「……えぇーっ」

ぷうっと頬を膨らます悠里。かわいい。
すごくかわいいけど。

……なんでそこにいるんだ…?

今日俺の恋人になったはずの悠里は、なぜか兄の膝の上にのっている。

「だってここがいいんだもん」
「いつまでたっても甘えんぼうだな、悠里は」

兄はよしよしと悠里の髪を撫でながら、すいませんねえと困った顔を俺に向ける。
悠里はというと、兄の肩に頭をのせて気持ちよさそうにしていた。

「………」

……なんか、おかしくね?

うん、おかしい。すげえおかしい。
ていうか、いろいろ意味がわからないんですけど。

「それで、ええと…榎本くん、だっけ?」

兄がにこやかに笑って言う。

「……はい」
「悠里とは、どういう…」
「あのね律兄!俺、一樹とつきあうことになった!」

ぶうっとお茶を吹きだす。
げほげほと盛大にむせかえっていると、兄に大丈夫?と手拭きを渡された。

「……あぁじゃあ榎本くんって、前に悠里が言ってた…」
「そう、両思いだったんだー」

いや、だからなんでそこで兄に抱きつくんだよ!

「それはよかった」

兄も満面の笑顔で悠里を抱きしめかえしている。
それはもう、どっからどう見ても熱烈なラブシーンだ。

……てゆうか納得すんのか?!

弟が男とつきあうことに?!

「悠里のことを、よろしくお願いします」

絶句している俺に、兄が悠里をぶら下げたまま頭を下げる。

「……は、い…」

俺は引きつった笑顔を浮かべたまま、頷いた。





「……悠里…おまえ、ブラコン?」
「え?うん」
「………」

……自覚あんのかよ…

兄に是非夕飯を一緒にと言われて、今こうして二人で悠里の部屋にいるけれど。

……言いたいことがありすぎて、まとまらねぇ…

ソファで頭を抱えていると、隣りに悠里が座った。

「……俺ね、律兄のことが大好きなんだ。ずっと二人で暮らしてきたし…」
「………」

悠里の両親は彼が幼い頃から、ずっと海外にいるらしい。

「……一樹は、そういうのって変だと思う?」
「………」
「俺がブラコンだったら、嫌いになる?」

不安げな表情で見上げてくる悠里。

「……ならねぇよ」

そっとその柔らかい髪に触れる。

……ならねぇけどさぁ…

髪を撫でてるとくすぐったそうに笑う悠里はやっぱりかわいくて、キスしたくなった。

「……一樹?」
「………」

そっと抱き寄せて、唇を重ねる。

「……ん、」

その小さくて柔らかい唇をこじ開けるようにして、舌を差し込むと、悠里は頬を染めながらも拒否することなく俺を受け入れた。

「……一樹、」

長いキスのあと、悠里はうるんだ眼で俺をみつめた。

「好き…」

そう言って、ぎゅっとしがみついてくる。

「……俺も」

まぁ、ちょっと(てかかなり)予想外の展開ではあったけど、俺たちは両思いなわけだし。
しかも悠里の兄も、それを認めてくれたわけだし…。
それによくよく考えたら、家族が好きだなんて…幸せなことじゃないか。





「あっ、ビーフシチューだ!」
「悠里、好きだろ?」
「うん!!」

好物を前に目をキラキラさせている悠里はかわいい。
かわいいけれど。

……なんでまた(俺じゃなくて)兄の膝のうえ?

てゆうかこの家では、礼儀作法とかそういうのはもう二の次なのか?

「………」
「一樹っ、律兄のビーフシチューすっごくおいしいんだよ!」
「沢山作ったから、どんどん食べてね」
「……ありがとう、ございます…」
「あぁほら悠里、口の周りについてるよ?」

悠里の口を丁寧に拭いてあげながら、兄は笑った。

「まったく…悠里はいつまでたっても子どもだな、」

……ちょっと待て、おい

「えー、じゃあ律兄、食べさせて?」
「仕方がないな」

……待て待て待てコラ!!

「悠里っ!!」

俺はとうとうキレて立ち上がった。

「……一樹?」
「……っ俺が食わせてやる!」
「………」
「………」

……あれ?

無反応?

「よかったな、悠里」
「………」

兄にほら、と促されて悠里が立ち上がる。

「……いいの?」

俺の前に来ると、悠里はまた不安げな顔をした。

「……いいよ!!」

ヤケになった俺は、ほれどんとこい、とばかりに膝を叩く。

「………」

俺の膝の上にちょこんと座った悠里は、俺を見上げて嬉しそうに笑った。

「………っ(かわいい)!!」


それからかなり苦心して、ビーフシチューを悠里に食べさせた。

「ね、おいしいでしょ?」

確かに、すごくうまい。
シチューはかなり煮込まれていたようで、肉はトロトロだし玉ねぎの甘みがでていておいしい。

「……あの、これすごくおいし…」

兄の方を向き直ってぎょっとする。

「……え、何してんですか?!」
「え?ほら、記念に写真をと思ってね」

唖然とする俺の膝の上で、撮って撮って!とはしゃぐ悠里。

「……いや、おい、」
「両親に送ろうかと思って。きっと喜ぶから」
「……ちょっ、それはちょっと待ってください?!」
「一樹っ、だめだよ笑わないと」

笑えるか!!

「あっ、あのお兄さ」
「……俺は君のお兄さんじゃないよ?」

……てゆうかなんかキレてるし?!

茫然とする俺の首に悠里がしがみついた瞬間、シャッターの切れる音がした。


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