短編集(1)(BL)

kotori

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honey

#3(2)

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しばらくして、雨の音に気づいた。
窓の外はもうだいぶ暗くなっている。

……あいつ……傘…

朝は降ってなかったから、たぶん持ってない。

「………」

思わず笑った。
ワケわかんねえな、俺も…。

……もう関係ねえのに

イライラしてテーブルを蹴っ飛ばしたら、上に置いてあった物がばさばさと床に落ちた。

「……くそッ」

ビールでも飲もうと思って立ち上がる。
すると、床に落ちていたあるものが目に入った。
それは、前に悠里と観にいった映画のパンフだった。

ヌーの大群に、惚けた顔で感動していた悠里。
シマウマがライオンに襲われるシーンでは、泣きそうな顔で俺の手をぎゅっと握った。

俺は動物には大して興味はなかったけど、その壮大な景色には素直に感動した。
サバンナの燃えるように赤い夕日に、今にも降ってきそうな満天の星。
そして、どこまでも続く大海原。

本物を見てみたいと言ったら、悠里はふわりと微笑んだ。

――俺も、見たいな

どこにあるのかもわからない、でも確かに存在するその場所で。

――いつか一樹と、見れたらいいな

まだ見たことのない景色を。
こうやって手をつないで…。

「……っああ!くそッ」

次の瞬間、俺は部屋から飛び出していた。





「悠里っ」

その頼りない後ろ姿はふらふらしてて、今にも倒れそうだった。

「悠里!」

肩を掴むと、ようやく悠里が顔をあげる。

「……か、ず」
「………」

全身びしょ濡れで、泣いていたのか眼は真っ赤だった。

「……なんで…」
「………戻るぞ」
「……え」

いいから来いと手を引いた瞬間、べしょっという音がした。

「……っ、何してんだよ」

振り返るとバランスを崩したのか、悠里は地面に膝をついていた。

「うわ、どろどろじゃねーか」
「ご、ごめ」
「……ったく、」

ほれ、と悠里の前にしゃがむ。

「……え」
「さっさとしろ、おぶってやっから」
「……で、でも一樹も濡れちゃう…」
「いいから、」
「………」

急かすと悠里は戸惑い気味に、俺の首に手をまわした。

「傘、持て」

そう言って、もと来た道を歩きだす。
ほんとに何やってんだ、俺は。





家に戻ると、仕事から帰っていたらしいババァに驚かれた。

「あんたまさか、また喧嘩したんじゃないでしょうねえ?!」
「ちげえっつの。さっさと風呂沸かせ」
「その子泣いてるじゃない!どうしたの?大丈夫?」
「は、はい…」
「いーから風呂!!」
「わかってるわよ!タオル持ってくるからそこで待ってなさい!」



「……お風呂、ありがと…」

ドアの隙間から遠慮がちに顔を出して、悠里が言った。

「……。やっぱ俺、かえ」
「……入れよ」
「………」
「いいから」
「………」

悠里はすごすごと部屋に入ってきて、床に座った。
ババァが用意したらしい俺のTシャツとジャージはサイズがでかすぎたらしい。
ぶかぶかなそれを着ている悠里は、まるで小さな子どもみたいだった。

「……とりあえず飲め」
「………」

ココアが入ったコップを差し出す。

「………」
「………」
「……一樹って、お母さんとあんまり似てないね」
「あぁ…あいつほんとの母親じゃねーから。親父の再婚相手」
「……そ、なんだ…」
「すげえウゼえの。喧嘩すんなだの髪染めんなだの、しかも何食ったらあんなデカくなんだよって」
「……そ、そんな言い方…」
「メシはうまいけどな」

そして問題ばかり起こす俺に、いつもなんの遠慮もなく正面からぶつかってくる。
俺はあの人のことは、嫌いじゃない。

……ってそんな事はどうでもいいんだよ

「……悠里」
「……なに?」
「おまえは俺より、兄貴が好きなんだな?」
「………」

何も答えない悠里は、また泣きそうな顔をした。

「……わかった」

俺はそっと、悠里の濡れている髪に触れた。

「俺が幸せにしてやる」
「……え」
「兄貴に負けねえくらい、おまえを大事にする」
「……かず、き?」

見開かれる瞳。

「……俺は負けるのは、大っ嫌いなんだよ」

……でも結局は、惚れた奴の負けなんだろうけどな…

また泣き始めた悠里を抱きしめながら、だとしたら俺はこいつには一生勝てねえなと思った。





「……一樹、やっぱり…恥ずかし…」

明るい部屋のなか、真っ赤な顔で訴えてくる悠里の言葉をあっさりと無視して、俺はその震える唇を強引に塞いだ。

「…ん…うっ、……」

何度もキスを繰り返しながら身体に触れていると、悠里の緊張が徐々に解けていくのがわかる。
そしてその表情は、どこまでも甘くとろけていく。

「……ぁ、んっ」

小さな胸のふくらみを口に含むと、悠里は小さく悲鳴をあげた。

「……や、だぁ、かずき…」
「目ぇ、閉じるなよ。俺を見ろ」
「……でも…、や、こんな…っ」

恥ずかしがる悠里の下で、俺はにやりと笑った。

「だってこっちのほうが、よく見えるし」
「……!!や、やだぁ…っ」

下から突き上げると、悠里はその細い身体をびくびくと震わせる。

「ああっ、あ…ぁ、かずっ、」
「……ちゃんと自分でいいトコ、あてろよ?」
「……あ、あたって、あんッ、ぁ、やだっ…」

いやいや言いながらも、俺の上で腰を動かすのを止めない悠里。
自ら快感を追っているその様子は、ハンパなくエロい。

「……すげえ、ヤラシイ…」
「……!や、やだ見ないで…っ」
「……そんなに、気持ちい?」
「……っ…」

泣きそうな顔で小さく頷く悠里があんまり可愛くて、我慢できずにその細い腰を掴むと思い切り突き上げた。

「……っあああッ」
「……う、わ」

……すっげぇ…

「んっ…!もぅ、だめ…ぇ!」
「……っ、イキたいなら、自分で扱けよ」
「……や…ぁ、む、りッ」
「見ててやるから」
「……か、ずきの、バカぁ…あ、」

悠里は涙目で俺を睨んでたけど、そのまま突きまくってると観念したのか自分でソレに触れた。

「んッ…あッ、ああんッ」

それは視覚的にもかなりキたけど。
相当感じてるのか、悠里のなかはきゅうきゅうと締まった。

「かっ、かずき、かずきッ」
「……ゆー、りっ」
「あ、あっ…!だめ、出ちゃうっ…」

イく瞬間、悠里は俺の名前を呼んだ。



それから何度もセックスをした。
互いにクタクタになるまで、互いの存在を刻みつけるかのように。

「………」
「……悠里、」

まだぼーっとしている悠里を抱きしめた。

「……ごめん、意地悪して」
「………」

悠里は小さく首を傾げて、俺を見上げる。

「……。俺、一樹になら…何されても、いいよ?」
「……っ」
「……一樹?」

思わず息を飲む俺を、きょとんとした顔で見つめている悠里。

……やばい

もう、引き返せない。



 

「一樹、また呼び出しくらったろ」
「なんのことー?」
「とぼけんなよ。あんまり無茶ばっかりしてたら、お母さん心配するよ?」
「知らねーよ、あんなババァ」
「ババァとか言わない!」

つきあい始めてから三ヶ月が経った。
俺と悠里の関係は順調だ。

しかし。

「あっ!律兄!」

大好きな兄貴の姿を見つけてまるで子犬みたいに走り寄っていこうとした悠里は、ハッとしたように俺を見た。

「ごっ、ごめ…」
「……いいよ別に」
「一樹…」

不安げに見上げてはくるけど。

……尻尾が見えてんだよ…

「……。今日の夜頑張ってくれるなら、よし」
「……わかった!!」

満面の笑顔を浮かべる悠里。

……わかったって…そこは頬を赤らめて何言ってんのって恥ずかしがるとこだろ…

尻尾をふりふり兄貴に駆け寄る後ろ姿を見送りながら、がくんと肩を落とす。
今日は律さんの提案で、一緒に夕飯を食べに行くことになっていた。

……っ負けてたまるか!!

「お久しぶりです」

永遠のライバルであり、未来のお義兄さん…になるかもしれないその人に笑顔で挨拶をする。
そして俺のなかでバトルのゴングが鳴ろうとした、その時。

「ごめんなさい、遅くなって!」

まさかのイレギュラー。
突然現れた謎の美女は、にっこりと微笑んだ。

「久しぶりね、悠里くん」
「………」
「………」

隣りで完全に固まっている悠里を見て、俺はなんとなく空気を読む。

「さぁ、行こうか」

そんな事はお構いなしに、律さんが笑顔で言う。
そして新たなる参戦者も加わった、その日の夕食会は…予想以上の混戦を極めたのだった。



end
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