短編集(1)(BL)

kotori

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Happiness

4.

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二年前。

俺は潰れかけのホストクラブで働いていた。
その店は少し前までは、その業界で名を知らぬ者はいないほどの繁盛店だった。

ところが不景気の煽りや新規参入店の増加、そしてそれに伴い相次いだ主力メンバーの引き抜きで客が流れ、またたく間に店は経営不振に陥った。
どんどんメンバーが減っていくなかで、残った俺は気づいたら暫定的No.1ホストになっていた。





――おまえなら、どこに行っても上手くやっていけるよ

ベット越しに、加賀は言った。

――俺に遠慮なんかしなくていいから

言葉は優しいけれど俺が離れられるはずがないとわかっていたから、そんな事が言えたんだろう。
その頃の俺は加賀の所有物、もしくは拾得物のようなものだった。



なるが店に来たのは、店の経営状態が更に悪化していた時だった。
連れてきたのは常連客の一人で、そのなかでも上得意。
松添美也子という女。

いつも小綺麗な和服姿で店に来る彼女は、某有名企業の社長夫人だった。
社会的な身分や立場があるからかその佇まいには品があり、それなりに年齢を重ねてもなお、独特の女の色香を漂わせていた。

――ちょっと、相談があるんだけど

彼女に店の外へ呼び出された俺は、二人とともに近所の喫茶店に入った。

――この子を、お店で使ってくれないかしら

席に着くなり、なんの前置きもなく美也子は言った。

――……ええ…っと、

商売柄、多少無茶なフリでも笑顔でかわす自信はあったけど、さすがに戸惑いを隠せなかった。
美也子の隣りに座る彼は、確かに見栄えはいいけれど。

――……あの、でも…どう見てもまだ、

――今年で…十六、になったのかしら?

隣りに座る少年に視線すら合わせずに彼女は言った。

――……はい

彼は緊張しているのか、俯いたまま返事をする。
何かワケありらしい事は一目瞭然だった。

――……申し訳ありませんが、その歳ではさすがに…

――あら、あなたは随分前からあの店にいるじゃない

――それは…

行き場を失くしていた俺を、加賀が拾ってくれたからで。

――店に出せないなら、下働きでもなんでもさせたらいいわ

――美也子さん、

――勿論タダでとは言わない。この子を引き取ってくれるなら、あの店を援助してもいい

――………

滅茶苦茶な話だった。

――美也子さん…どうしてその話、オーナーじゃなくて俺に…?

――あなたの方が、話ができそうだったから。あの人は少し、頑固なところがあるでしょう?

彼女はにっこりと笑った。
それは妖艶な女のそれで、背筋がぞくりとした。





「あっ、あっ、も、もうだめえ、っ!」

激しい律動になるが悲鳴をあげる。
折れそうに細い腰を抑えつけ、乱暴に突いた。

「んああっ!あっ、あ」

なるは嫌々言いながらも犯されている自分の姿に興奮しているようで、いつも以上に締めつけてくる。

鏡に映るなるの顔は、壮絶に色っぽかった。

……遺伝かな

あの頃は、俺が鳴かされていたけれど。





店への援助を持ちかけられた事で、俺はその話を引き受けた。
加賀は時間をかけて説得すれば、どうにかなると思った。
店はそれほど切迫した状況だったし、俺はそれをなんとかしたかった。

加賀が大事にしている店を潰したくなかった。
たとえ便利なものとしか思われていなくても、性的な捌け口としての扱いしか受けなくても、それでも俺は本気だった。

ところが、物事は思わぬ方向に進んでいく。
とりあえずなるは店には出さないという話をした翌日、加賀は姿を消した。
理由は一つしか思い当たらなかった。



――……どういうことですか

加賀がいなくなってしばらく経ってから、美也子と会った。

――何が?

美也子は涼しげな表情で訊きかえす。

――知ってたんでしょう、こうなること

――さあ、どうかしらね。……ところで、お店はどう?

――……おかげさまで。新しいオーナーも決まりました

――そう

店は加賀がいなくなった直後、人手に渡った。
まるでそうなる事が、前もって決まっていたかのように。

――……復讐、

――……そうね。そうなっちゃったわね

あの男の大切なものを全部奪ってやりたかった、と彼女は言った。

――あの男は最低よ。狡くて、弱くて、そのくせ強欲で、なんでも自分のものにしたがる

――………

ぎゅっとコートのポケットの中の、冷たくて固い感触を確かめる。

――……でも単に、見てみたくもあったのよ

美也子は煙草に火を点けながら微笑んだ。

――愛人に、自分の子どもを紹介されるあの男の顔

一瞬、言葉を失った。
そしてはっとする。
前に、加賀に無理矢理いれさせられたタトゥー。
それは、彼の背中にあるものと同じだった。

――……悪趣味だ

そう呟くと、彼女はそうねと言って笑った。

――あの男もそう言って、笑ってたわ



――あのひとの事を、あいしてた?

別れ際に美也子が言った。

――……はい

――そう。私もよ

彼女は最後まで、なるの事は何も訊かなかった。





何度目かの射精の後、鏡の前で気を失ったなるをソファーに横たえた。
その無垢な寝顔を見ていると、不思議と心が安らぐ。
また同時に、そんな自分が恐ろしく滑稽に思えた。

あの時殺意が失せたのは、昔、美也子が加賀に酷い仕打ちを受けていたからではない。
なるの事が頭をよぎったらでもない。
ただ、彼女と同じで自分もまた、あの男に囚われていた事に気づいたからだった。



あれから二年。
俺はまだあの店でホストとして働いている。
そして初めて愛した男の子どもと、一緒に暮らしていた。


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