9 / 14
9
しおりを挟む(アスター視点)
好きな相手がいる。
自分の歌は全てその人に捧げると決めている。
そしてその相手には他に好きな人がいて、自分からは求められないと首を振るノエル。
その姿に俺の頭にカッと血が上った。
(俺よりも、他に好きな相手のいるそいつの方が良いのか)
それはどこの誰だ。
シャノンが話していた『初恋の君』というのがそれか。
あの庭で、俺と会ったあの時に他の奴にも出会っていたのか。
あの優しい歌を聞かせたのか。
俺の知っている奴か。
それとも知らない相手か。
あの話しぶりではシュベリアの人間なのだろう。
男なのか、女なのか。
そいつはお前に少しでも優しくしてくれるのか。
そいつもお前の歌声を知っているのか。
俺ならノエルを想っているのに。
あの日からずっと、勘違いこそあったがずっとあの歌声の持ち主を望んでいたというのに。
(くそっ)
どこの誰とも知らない相手への嫉妬で目が眩む。
久しぶりに感じる激しい怒りと苛立ち。
ギリ、と強く拳を握り締め、ノエルに近付く。
「……アスター様?」
「それなら俺で良いだろう」
「……え?」
「俺にしておけ」
「何……ッ!?」
気付いた時にはノエルの唇を塞いだ。
驚き抵抗するその腕を力で押し込め、強引にその身体を奪う。
行為は夜通し続けられ、途中で意識を手放したノエルが目を覚ましたのはすっかり日が昇ってからだった。
*
(ノエル視点)
「あ……」
ぼんやりとした頭。
身体を起こすと身体全体がだるく、あらぬ所の痛みに顔をしかめる。
(……っ、俺は、昨日……!)
された事を思い出し、ぎゅっと自分の身体を抱き締める。
清められており真新しく着心地の良い寝衣を身に付けてはいるが身体の痛みが昨夜の出来事が現実だと教えてくれる。
「起きたか」
「……っ」
傍らの椅子に座っていたらしいアスターが声をかけてきた。
びくりと震え怯えた目を向けると、アスターはゆっくりと立ち上がった。
「昨夜の事は謝らない」
「……」
「……また今晩も来る。準備しておけ」
「……っ」
そう言い残して扉を開き、部屋から出て行った。
呆然と扉の閉まる音を聞き、アスターの言葉を反芻する。
また今晩もやって来ると言った。
また今晩も、昨夜のように抱かれるのだろうか。
準備をしておけという事は、つまりはそういう事なのだろう。
(何故、俺を……?)
アスターはあの時何と言ったか。
『俺で良いだろう』
『俺にしておけ』
あの言葉は一体どういう意味なのだろうか。
客観的に見ればすぐにわかるその意味を把握しきれない。
アスターはシャノンを好きなのだから、まるで自分を奪いたいと言っているようなセリフを受け入れる事が出来ない。
そればかりかそのセリフは歪められ……
(……まさか、シャノンの代わり?)
そう思うのが一番しっくりときた。
俺がそれを誰かに相談出来ていれば、すぐさま否定の言葉が帰ってきただろう。
アスターは身代わりを求めるような方ではないと。
身代わりを立てるくらいならばどんな手を使ってでもその人を手に入れると。
だがこの国に友人すらいない俺がそんな事を誰かに相談出来るはずもなく。
(そうか、身代わりか……)
勘違いを真実だと思い込み、涙を一粒零した。
635
あなたにおすすめの小説
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)
turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。
徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。
彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。
一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。
ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。
その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。
そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。
時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは?
ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ?
読んでくださった方ありがとうございます😊
♥もすごく嬉しいです。
不定期ですが番外編更新していきます!
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる