王子の恋

うりぼう

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(アスター視点)



好きな相手がいる。
自分の歌は全てその人に捧げると決めている。
そしてその相手には他に好きな人がいて、自分からは求められないと首を振るノエル。
その姿に俺の頭にカッと血が上った。

(俺よりも、他に好きな相手のいるそいつの方が良いのか)

それはどこの誰だ。
シャノンが話していた『初恋の君』というのがそれか。
あの庭で、俺と会ったあの時に他の奴にも出会っていたのか。
あの優しい歌を聞かせたのか。

俺の知っている奴か。
それとも知らない相手か。
あの話しぶりではシュベリアの人間なのだろう。
男なのか、女なのか。
そいつはお前に少しでも優しくしてくれるのか。
そいつもお前の歌声を知っているのか。

俺ならノエルを想っているのに。
あの日からずっと、勘違いこそあったがずっとあの歌声の持ち主を望んでいたというのに。

(くそっ)

どこの誰とも知らない相手への嫉妬で目が眩む。

久しぶりに感じる激しい怒りと苛立ち。
ギリ、と強く拳を握り締め、ノエルに近付く。

「……アスター様?」
「それなら俺で良いだろう」
「……え?」
「俺にしておけ」
「何……ッ!?」

気付いた時にはノエルの唇を塞いだ。

驚き抵抗するその腕を力で押し込め、強引にその身体を奪う。
行為は夜通し続けられ、途中で意識を手放したノエルが目を覚ましたのはすっかり日が昇ってからだった。









(ノエル視点)



「あ……」

ぼんやりとした頭。
身体を起こすと身体全体がだるく、あらぬ所の痛みに顔をしかめる。

(……っ、俺は、昨日……!)

された事を思い出し、ぎゅっと自分の身体を抱き締める。
清められており真新しく着心地の良い寝衣を身に付けてはいるが身体の痛みが昨夜の出来事が現実だと教えてくれる。

「起きたか」
「……っ」

傍らの椅子に座っていたらしいアスターが声をかけてきた。
びくりと震え怯えた目を向けると、アスターはゆっくりと立ち上がった。

「昨夜の事は謝らない」
「……」
「……また今晩も来る。準備しておけ」
「……っ」

そう言い残して扉を開き、部屋から出て行った。
呆然と扉の閉まる音を聞き、アスターの言葉を反芻する。
また今晩もやって来ると言った。
また今晩も、昨夜のように抱かれるのだろうか。
準備をしておけという事は、つまりはそういう事なのだろう。

(何故、俺を……?)

アスターはあの時何と言ったか。

『俺で良いだろう』
『俺にしておけ』

あの言葉は一体どういう意味なのだろうか。
客観的に見ればすぐにわかるその意味を把握しきれない。
アスターはシャノンを好きなのだから、まるで自分を奪いたいと言っているようなセリフを受け入れる事が出来ない。
そればかりかそのセリフは歪められ……

(……まさか、シャノンの代わり?)

そう思うのが一番しっくりときた。

俺がそれを誰かに相談出来ていれば、すぐさま否定の言葉が帰ってきただろう。
アスターは身代わりを求めるような方ではないと。
身代わりを立てるくらいならばどんな手を使ってでもその人を手に入れると。
だがこの国に友人すらいない俺がそんな事を誰かに相談出来るはずもなく。

(そうか、身代わりか……)

勘違いを真実だと思い込み、涙を一粒零した。
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