13 / 14
13
しおりを挟む(アスター視点)
「同情じゃない、同情じゃないんだ……!」
そうして必死に思いで告げた気持ち。
俺の正直な想いをどう受け取られているのだろうか。
名前も呼んでくれないというノエルの言葉に、呼びたくて仕方がなかった名前をそっと唇で紡ぐ。
両頬を包み、まっすぐに瞳を見つめて更に想いを告げる。
ノエルの瞳は俺の言葉を信じられないと語っていた。
我ながら酷い態度を取り続けたのだからそれも仕方がないとは思う。
けれどそのままでは嫌だ。
どうしたら俺の気持ちを信じてくれるだろうか。
ノエルに信じてもらう為なら何でもすると言ったのは本当だ。
信じられないというのなら毎日望むだけ愛を囁こう。
ノエルが望むのなら世界にひとつしかない宝石も探し出してみせる。
望むのならノエルの為に城でもなんでも建ててやる。
望むのなら国のひとつでもふたつでも喜んで差し出す。
俺から離れる以外の願いなら何だって叶えてやりたい。
「どうしたら信じてくれる?」
いつにない弱々しさでノエルに問う。
レイが見たら影で笑われてしまうに違いない。
それくらい余裕がなく、どうにかしてノエルを繋ぎ止めたいと思っているのだ。
「……」
「!何だ!?」
小さく呟かれた言葉に全力で耳を傾ける。
「……名前を」
「え?」
「……もう一度、名前を呼んで下さい」
「……!」
告げられたのは可愛らしい、そんな小さな小さな願い。
それにぎゅうっと胸を締め付けられた。
「ノエル」
「……っ」
愛しい人の名前を呼ぶと、その瞳からぽろりと涙が溢れる。
「ノエル」
「アスター様」
名を呼ぶと静かに返されるが、余計な物が付いているのでなしにしてもらいたい。
「様はいらない」
「ですが……」
「良いんだ、ノエルにはそう呼んでもらいたい」
「……アスター?」
「何だ?ノエル」
「……っ」
名前を呼ぶと嬉しそうに頬を緩めるノエル。
幸せを噛み締めるようなその笑みに何度も胸を締め付けられる。
これが愛おしいという気持ちなのだろうか。
ノエルを見ているとずっとそんな思いが溢れて止まらない。
そしてノエルの様子から、きっと俺の言葉は信じてもらえたのだろう。
それがまた嬉しくて、更に好きな気持ちが増していく。
自分の気持ちを理解して受け止めてくれるのがこんなにも嬉しい事だったのか。
もっと早く伝えるべきだった。
何度も機会はあったのに何も告げずにただただノエルを傷付けただけの過去の自分を殴り飛ばしに行きたい気分だ。
「ノエル、好きだ、愛してる」
「……俺も」
嬉しそうに返される言葉に、俺は再びその身体をきつく抱き締めた。
257
あなたにおすすめの小説
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
闇を照らす愛
モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。
与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。
どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。
抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。
【BL】無償の愛と愛を知らない僕。
ありま氷炎
BL
何かしないと、人は僕を愛してくれない。
それが嫌で、僕は家を飛び出した。
僕を拾ってくれた人は、何も言わず家に置いてくれた。
両親が迎えにきて、仕方なく家に帰った。
それから十数年後、僕は彼と再会した。
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
君と秘密の部屋
325号室の住人
BL
☆全3話 完結致しました。
「いつから知っていたの?」
今、廊下の突き当りにある第3書庫準備室で僕を壁ドンしてる1歳年上の先輩は、乙女ゲームの攻略対象者の1人だ。
対して僕はただのモブ。
この世界があのゲームの舞台であると知ってしまった僕は、この第3書庫準備室の片隅でこっそりと2次創作のBLを書いていた。
それが、この目の前の人に、主人公のモデルが彼であるとバレてしまったのだ。
筆頭攻略対象者第2王子✕モブヲタ腐男子
目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる