逃げるが勝ち

うりぼう

文字の大きさ
8 / 8

6

しおりを挟む



結論から言おう。
春日とはやっていない。
いや途中まではんとかかんとかいったんだけれど。

「……テメェ、秋吉」
「っ(ああああああああ)」

あまりの痛さに、火事場の馬鹿力というものなのだろうか、思い切り突き飛ばしてしまったのだ。

油断していた春日は気持ちいいくらいに吹っ飛んで壁に激突し、直後にギロリと睨んでくる。
下半身丸出しという間抜けな格好なのに今までで一番怖い眼光は、こいつの怖さに慣れたはずだったオレの心臓をきゅっと締めた。
この時ばかりは本気で殺されるかと思った。
即座に逃げ出したかったが、シャツ一枚羽織っただけの状態で外に飛び出したりなんかしたら間違いなく変質者の仲間入りだ。

「……はあ」
「……っ」

聞こえた溜め息にびくりと肩を震わす。
頭鷲掴まれてぶん投げられるのだろうかそれともそのままボコボコにされてしまうのだろうか。
ああ怖いすごく怖い。
オレ終わった、と覚悟を決めたのだが、予想に反して春日が怒りを鎮めてその辺にほっぽり出していた服を投げてよこしてきた。

「え?」
「着ろ」
「……」

着ろ。
着ろとは服の事か。
どういう風の吹き回しだろうと疑ったのも一瞬。

「着ないとまた襲うぞ」
「着させていただきます!」

本気で襲われそうなその目に、お言葉に甘えて即座に制服を身につけさせていただいた。

そのままどうしようかとそわそわするオレを春日が手招きする。

「来い」
「え」
「……なんもしねえから」

そのセリフを信じておずおずと近付き促されるがまま隣に座ると、ぴったりとくっつくように肩を抱き寄せられた。

(なんだこれ恥ずかしい!!!)

ただ隣に座っているだけなのに半身がくっついているだけで恥ずかしさが半端じゃない。
何これどこのバカップルだよ普通こんなにくっつくものなのか?
これ正解なのか?
付き合った事なんてないから正解がわからない。

暫くガチガチに緊張していたオレだったが、春日はさっき言った通りその後は比較的大人しかった。
あくまで比較的、である。

ベッドの上で隣通し。
いつになくのんびりとした雰囲気。
他愛ない話をしながらも春日の手はオレの頭だったり肩だったり腰だったり足だったりを撫で回していて、たまに唇を啄まれたりまた撫でられたり。
いたたまれないにも程がある程いたたまれなかった。

だってあの春日が。
視線だけで人を殺せそうなあの春日が。
目を細め口は弧を描き、優しく、今までの怖さはどこに行ったんだというくらい優しく見つめてくるんだからそりゃいたたまれないっていう話で。

オレ達の関係には一体どんな名前が付くのか。
これは恋人同士というものになったのだろうか。

好きだのなんだのもなしに何となく始まってしまっている関係を改めて問うのは恥ずかしい。
まあ、春日に触れられてもそんなに嫌じゃないという時点でお察しであるのだが……

さて、そんな事があった日から早一週間。

「おい、秋よ」
「!!!」
「おい!何逃げてんだ!!!」

春日から逃げ回る日はまだ続いていた。

だって次に捕まったら確実に絶対そういう雰囲気に持ち込まれてしまう。
何より我に返った今、あんな恥ずかしいこと良く出
来たと思う。
それにあんな痛い事出来るわけがない。
ちょびっと入っただけであんなに痛かったのに、実際にはアレが入るんだろう?
パンツの上からでもわかるあの膨らみを思い出し頭を抱える。

「絶対無理」
「何がだ」
「うわ!?」

隠れてぼそりと呟いた言葉に返事が返ってきた。
しかも今一番聞きたくない声だ。
ちくしょうもう追いつきやがったのか。

とっさに駆け出そうとしたのに肩を掴まれそれは叶わない。

「そう何回も逃がすと思ってんのか」
「今までは逃がしてくれたじゃん!」
「今までは、な」

背を向けていた体勢から正面へ。
肩を掴まれたまま、壁へと押しつけられる。

「もう逃がさない」
「……っ」
「何回も言わせんな」

まっすぐに見つめられ頬を撫でられ、ゆっくりと降りてくる唇を避ける事は出来なかった。













「ん……っ」
「秋吉」
「ッ、ちょ」
「……」
「ちょっと待て!」
「…………んだよ」

長々と貪られ、首筋に舌を這わせられ腰を抱いていた手が不穏な動きをし始めたのに気付き慌てて止める。
案の定不機嫌そうな表情が返ってきた。

「ど、どこまでするつもりだよこんなところで!?」

人目のない場所ではあるが、ここは外だ外。
こんな事をする場所ではない。

「もう少し」
「もう少しって、ちょっ、わ!わー!!!」

路地裏で散々セクハラされた後、心身共にへろへろになったオレは抵抗虚しく春日家へとお持ち帰りされるのであった。








end.



しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

彼らは××が出来ない

庄野 一吹
BL
少女漫画の悪役として転生した主人公は、自分が最低な悪役にならないため画策することにした。ヒーロー達がヒロインに惚れさえしなければ、自分が悪役になることは無い。なら、その機会を奪ってしまえばいいのだ。

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

政略結婚したかった

わさび
BL
御曹司 朝峰楓× 練習生 村元緋夏 有名な事務所でアイドルを目指して練習生をしている緋夏だが、実は婚約者がいた。 二十歳までにデビューしたら婚約破棄 デビューできなかったらそのまま結婚 楓と緋夏は隣同士に住む幼馴染で親はどちらも経営者。 会社のために勝手に親達が決めた政略結婚と自分の気持ちで板挟みになっている緋夏だったが____

知らないうちに実ってた

キトー
BL
※BLです。 専門学生の蓮は同級生の翔に告白をするが快い返事はもらえなかった。 振られたショックで逃げて裏路地で泣いていたら追いかけてきた人物がいて── fujossyや小説家になろうにも掲載中。 感想など反応もらえると嬉しいです!  

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

処理中です...