逃げるが勝ち

うりぼう

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結論から言おう。
春日とはやっていない。
いや途中まではんとかかんとかいったんだけれど。

「……テメェ、秋吉」
「っ(ああああああああ)」

あまりの痛さに、火事場の馬鹿力というものなのだろうか、思い切り突き飛ばしてしまったのだ。

油断していた春日は気持ちいいくらいに吹っ飛んで壁に激突し、直後にギロリと睨んでくる。
下半身丸出しという間抜けな格好なのに今までで一番怖い眼光は、こいつの怖さに慣れたはずだったオレの心臓をきゅっと締めた。
この時ばかりは本気で殺されるかと思った。
即座に逃げ出したかったが、シャツ一枚羽織っただけの状態で外に飛び出したりなんかしたら間違いなく変質者の仲間入りだ。

「……はあ」
「……っ」

聞こえた溜め息にびくりと肩を震わす。
頭鷲掴まれてぶん投げられるのだろうかそれともそのままボコボコにされてしまうのだろうか。
ああ怖いすごく怖い。
オレ終わった、と覚悟を決めたのだが、予想に反して春日が怒りを鎮めてその辺にほっぽり出していた服を投げてよこしてきた。

「え?」
「着ろ」
「……」

着ろ。
着ろとは服の事か。
どういう風の吹き回しだろうと疑ったのも一瞬。

「着ないとまた襲うぞ」
「着させていただきます!」

本気で襲われそうなその目に、お言葉に甘えて即座に制服を身につけさせていただいた。

そのままどうしようかとそわそわするオレを春日が手招きする。

「来い」
「え」
「……なんもしねえから」

そのセリフを信じておずおずと近付き促されるがまま隣に座ると、ぴったりとくっつくように肩を抱き寄せられた。

(なんだこれ恥ずかしい!!!)

ただ隣に座っているだけなのに半身がくっついているだけで恥ずかしさが半端じゃない。
何これどこのバカップルだよ普通こんなにくっつくものなのか?
これ正解なのか?
付き合った事なんてないから正解がわからない。

暫くガチガチに緊張していたオレだったが、春日はさっき言った通りその後は比較的大人しかった。
あくまで比較的、である。

ベッドの上で隣通し。
いつになくのんびりとした雰囲気。
他愛ない話をしながらも春日の手はオレの頭だったり肩だったり腰だったり足だったりを撫で回していて、たまに唇を啄まれたりまた撫でられたり。
いたたまれないにも程がある程いたたまれなかった。

だってあの春日が。
視線だけで人を殺せそうなあの春日が。
目を細め口は弧を描き、優しく、今までの怖さはどこに行ったんだというくらい優しく見つめてくるんだからそりゃいたたまれないっていう話で。

オレ達の関係には一体どんな名前が付くのか。
これは恋人同士というものになったのだろうか。

好きだのなんだのもなしに何となく始まってしまっている関係を改めて問うのは恥ずかしい。
まあ、春日に触れられてもそんなに嫌じゃないという時点でお察しであるのだが……

さて、そんな事があった日から早一週間。

「おい、秋よ」
「!!!」
「おい!何逃げてんだ!!!」

春日から逃げ回る日はまだ続いていた。

だって次に捕まったら確実に絶対そういう雰囲気に持ち込まれてしまう。
何より我に返った今、あんな恥ずかしいこと良く出
来たと思う。
それにあんな痛い事出来るわけがない。
ちょびっと入っただけであんなに痛かったのに、実際にはアレが入るんだろう?
パンツの上からでもわかるあの膨らみを思い出し頭を抱える。

「絶対無理」
「何がだ」
「うわ!?」

隠れてぼそりと呟いた言葉に返事が返ってきた。
しかも今一番聞きたくない声だ。
ちくしょうもう追いつきやがったのか。

とっさに駆け出そうとしたのに肩を掴まれそれは叶わない。

「そう何回も逃がすと思ってんのか」
「今までは逃がしてくれたじゃん!」
「今までは、な」

背を向けていた体勢から正面へ。
肩を掴まれたまま、壁へと押しつけられる。

「もう逃がさない」
「……っ」
「何回も言わせんな」

まっすぐに見つめられ頬を撫でられ、ゆっくりと降りてくる唇を避ける事は出来なかった。













「ん……っ」
「秋吉」
「ッ、ちょ」
「……」
「ちょっと待て!」
「…………んだよ」

長々と貪られ、首筋に舌を這わせられ腰を抱いていた手が不穏な動きをし始めたのに気付き慌てて止める。
案の定不機嫌そうな表情が返ってきた。

「ど、どこまでするつもりだよこんなところで!?」

人目のない場所ではあるが、ここは外だ外。
こんな事をする場所ではない。

「もう少し」
「もう少しって、ちょっ、わ!わー!!!」

路地裏で散々セクハラされた後、心身共にへろへろになったオレは抵抗虚しく春日家へとお持ち帰りされるのであった。








end.



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