4 / 7
4
しおりを挟む
日曜の昼間、人でごった返す駅前に立つ蒼弥は、やっぱり目立っていた。黒シャツにズボンのシンプルな格好。しかし、背も高いし顔も整ってるし、どこかモデルっぽい。すれ違う女の子たちがちらちら振り返っていくのが見える。
「悪い、待たせたか?」
俺が声をかけると、蒼弥は少し笑って首を振った。
「今来たところ」
……おい、ど定番のセリフじゃねえか。相談相手が聞いたらドン引きしないか?まあ、練習だしな。
「で?今日の映画って、恋愛映画なんだろ?」
「そう。勉強のためにも、こういうの見ておこうかなって」
ふむふむ、確かに恋愛映画は参考になる。
俺が妙に納得していると、蒼弥が軽く肩を叩いてきた。
「ほら、行こ。チケット取ってあるから」
――チケット?取ってある!?俺まだ買ってなかったんだが。流石モテ男。抜かりなし。……これで落とせないやつって何者なんだ?
おまけに案内されたのは……カップルシート。
「お、おい蒼弥!?なんだこれ!俺は男同士だろ!?」
「練習には雰囲気も大事だろ?それに今どき同性でもいけるんだぜ」
ニヤッと笑う。やばい、この男ノリノリだ。
まあ確かに、相談相手とこういうとこ来るかもしれないし……仕方ない、ここは本気でシミュレーションだ。
「うんじゃ俺、ポップコーンと飲み物奢るわ」
「サンキュ」
蒼弥が慣れた様子で無人販売機に向かう。最近は便利だなぁとぼんやり眺めていると、ポップコーン片手に飲み物を抱えた蒼弥が、爽やかな笑顔で戻ってきた。
「よ、直!待たせたな」
「おう。……にしても、お前買いすぎじゃね?」
「映画といえばポップコーンだろ?」
そう言って俺の腕にぐいっと飲み物を押し付けてくる。近い。いや近いって。けどまあ、こいつは人懐っこいからな……。
「なあ直、どこ座る?端っこ?真ん中?」
「そりゃ真ん中だろ。スクリーン全体見やすいし」
「だよな。……はい、ほら」
蒼弥は俺の手を引いて、まるで当然のように隣の席に座らせた。距離、近っ。肩が触れるレベルなんだけど。普通もうちょい空けないか?
でもまあ、映画館って混むしな……。
暗くなると、スクリーンの光だけが俺たちを照らす。
ふと横を見ると、蒼弥が身を寄せてきて、小声で囁いた。
「直、これ始まる前に食べちゃおうぜ」
ポップコーンを差し出してくる。……俺の口元まで。
「……いや、自分で食うから」
「いいから。ほら、あーん」
「……っ、やめろよ!公共の場で」
思わず声が裏返った。
慌てて自分でつまもうとしたが、蒼弥がにやにや笑って引かない。
仕方なく、差し出されたポップコーンを口に入れると――やけに満足そうに笑った。
「な、似合ってる」
「は?」
「いや、なんでも」
……何がだよ。意味わからん。
スクリーンが光を帯び、映画が始まった。
俺はただストーリーを追うことに集中――しようとしていた。
――カサリ。
隣で蒼弥がわずかに動いた気配がした。
そして、俺の手の甲に、ぬくもりが触れる。
え?
ゆっくりと、指先から絡むように、蒼弥の手が俺の手を覆っていった。
うわ、なにこれ。恋愛相談の実践練習って、ここまで本格的にやるもんなの!?
声を出して突っ込みたい。でも映画館。しゃべったら完全にマナー違反だ。
仕方なく、俺はただ固まったまま画面を見つめる。
……けど。
意外と温かい。蒼弥の手って、こんなに大きかったっけ?
しかも力強いのに、握り方は妙に優しい。なんだよこれ。俺まで変に意識するだろ。というか今俺は長年の片想い相手と手を繋いでる…?
映画の派手なラブシーンが進む中で、俺の意識は完全に隣の手に持っていかれていた。
指を少し動かしたら、蒼弥が反応する。ぎゅっと握り返してくる。
やめろ。そんなの、相談でも練習でもないだろ。
……でも、手を振り払えなかった。
映画のクライマックスが終わってエンドロール。ようやく館内に明かりが戻る。
手を解こうとした瞬間――蒼弥は何事もなかったかのように、自然に手を離した。
「どうだった?映画」
平然とした顔で聞いてくる。
「え?あ、ああ……面白かったな!」
声が裏返る。誤魔化すように笑うけど、頭の中は「映画」じゃなくて「手の感触」でいっぱいだ。
「なあ直」
「ん?」
「やっぱ一緒に来て正解だったわ」
不意に真剣な顔で言われ、目を逸らせなくなる。
近すぎる距離にドキリとするが――いやいや、俺は恋愛相談に付き合ってるだけだ。
「……そ、そりゃ友達と映画見るのは楽しいに決まってんだろ」
俺がわざと軽く返すと、蒼弥は少し肩を震わせて笑った。
「そうだな、今は」
小さく呟いたその言葉は、映画の余韻にまみれて、俺に聞こえなかった。
「お!谷田じゃん!」
映画館を出た先で、ゼミ仲間と出会った。
「あれ?男友達?この映画、彼女と見に行かなくてよかったのか?カップル映画だぞ?」
びっくりしたような顔で言われる。あまり覚えてないが、やはりそう言う映画だったか。周りほぼカップルだったし。……そこまで徹底するな!
「いや~それはな、」
俺が言い訳をしようとした時、蒼弥が腕を掴んできて、
「それは俺が彼女より深ーい関係にあるからかな?なんてね。」
「は!?お前何言って――」
何言ってるんだ!?突然この幼馴染が変なこと言い始めた。というか、俺の恋人(妄想)にマウントを取るなよ!
ゼミ仲間は爆笑しながら「浮気すんなよ~」なんて言って去っていった。
腕を離した蒼弥は、何事もなかったようにさらりと口を開く。
「感想会は俺の家でするでいいか?」
いやいや、さっきの爆弾発言をスルーするな!
でも、もう突っ込んだら負けな気がして、俺も明るい声で返した。
「お、おう!いいぞ!」
「悪い、待たせたか?」
俺が声をかけると、蒼弥は少し笑って首を振った。
「今来たところ」
……おい、ど定番のセリフじゃねえか。相談相手が聞いたらドン引きしないか?まあ、練習だしな。
「で?今日の映画って、恋愛映画なんだろ?」
「そう。勉強のためにも、こういうの見ておこうかなって」
ふむふむ、確かに恋愛映画は参考になる。
俺が妙に納得していると、蒼弥が軽く肩を叩いてきた。
「ほら、行こ。チケット取ってあるから」
――チケット?取ってある!?俺まだ買ってなかったんだが。流石モテ男。抜かりなし。……これで落とせないやつって何者なんだ?
おまけに案内されたのは……カップルシート。
「お、おい蒼弥!?なんだこれ!俺は男同士だろ!?」
「練習には雰囲気も大事だろ?それに今どき同性でもいけるんだぜ」
ニヤッと笑う。やばい、この男ノリノリだ。
まあ確かに、相談相手とこういうとこ来るかもしれないし……仕方ない、ここは本気でシミュレーションだ。
「うんじゃ俺、ポップコーンと飲み物奢るわ」
「サンキュ」
蒼弥が慣れた様子で無人販売機に向かう。最近は便利だなぁとぼんやり眺めていると、ポップコーン片手に飲み物を抱えた蒼弥が、爽やかな笑顔で戻ってきた。
「よ、直!待たせたな」
「おう。……にしても、お前買いすぎじゃね?」
「映画といえばポップコーンだろ?」
そう言って俺の腕にぐいっと飲み物を押し付けてくる。近い。いや近いって。けどまあ、こいつは人懐っこいからな……。
「なあ直、どこ座る?端っこ?真ん中?」
「そりゃ真ん中だろ。スクリーン全体見やすいし」
「だよな。……はい、ほら」
蒼弥は俺の手を引いて、まるで当然のように隣の席に座らせた。距離、近っ。肩が触れるレベルなんだけど。普通もうちょい空けないか?
でもまあ、映画館って混むしな……。
暗くなると、スクリーンの光だけが俺たちを照らす。
ふと横を見ると、蒼弥が身を寄せてきて、小声で囁いた。
「直、これ始まる前に食べちゃおうぜ」
ポップコーンを差し出してくる。……俺の口元まで。
「……いや、自分で食うから」
「いいから。ほら、あーん」
「……っ、やめろよ!公共の場で」
思わず声が裏返った。
慌てて自分でつまもうとしたが、蒼弥がにやにや笑って引かない。
仕方なく、差し出されたポップコーンを口に入れると――やけに満足そうに笑った。
「な、似合ってる」
「は?」
「いや、なんでも」
……何がだよ。意味わからん。
スクリーンが光を帯び、映画が始まった。
俺はただストーリーを追うことに集中――しようとしていた。
――カサリ。
隣で蒼弥がわずかに動いた気配がした。
そして、俺の手の甲に、ぬくもりが触れる。
え?
ゆっくりと、指先から絡むように、蒼弥の手が俺の手を覆っていった。
うわ、なにこれ。恋愛相談の実践練習って、ここまで本格的にやるもんなの!?
声を出して突っ込みたい。でも映画館。しゃべったら完全にマナー違反だ。
仕方なく、俺はただ固まったまま画面を見つめる。
……けど。
意外と温かい。蒼弥の手って、こんなに大きかったっけ?
しかも力強いのに、握り方は妙に優しい。なんだよこれ。俺まで変に意識するだろ。というか今俺は長年の片想い相手と手を繋いでる…?
映画の派手なラブシーンが進む中で、俺の意識は完全に隣の手に持っていかれていた。
指を少し動かしたら、蒼弥が反応する。ぎゅっと握り返してくる。
やめろ。そんなの、相談でも練習でもないだろ。
……でも、手を振り払えなかった。
映画のクライマックスが終わってエンドロール。ようやく館内に明かりが戻る。
手を解こうとした瞬間――蒼弥は何事もなかったかのように、自然に手を離した。
「どうだった?映画」
平然とした顔で聞いてくる。
「え?あ、ああ……面白かったな!」
声が裏返る。誤魔化すように笑うけど、頭の中は「映画」じゃなくて「手の感触」でいっぱいだ。
「なあ直」
「ん?」
「やっぱ一緒に来て正解だったわ」
不意に真剣な顔で言われ、目を逸らせなくなる。
近すぎる距離にドキリとするが――いやいや、俺は恋愛相談に付き合ってるだけだ。
「……そ、そりゃ友達と映画見るのは楽しいに決まってんだろ」
俺がわざと軽く返すと、蒼弥は少し肩を震わせて笑った。
「そうだな、今は」
小さく呟いたその言葉は、映画の余韻にまみれて、俺に聞こえなかった。
「お!谷田じゃん!」
映画館を出た先で、ゼミ仲間と出会った。
「あれ?男友達?この映画、彼女と見に行かなくてよかったのか?カップル映画だぞ?」
びっくりしたような顔で言われる。あまり覚えてないが、やはりそう言う映画だったか。周りほぼカップルだったし。……そこまで徹底するな!
「いや~それはな、」
俺が言い訳をしようとした時、蒼弥が腕を掴んできて、
「それは俺が彼女より深ーい関係にあるからかな?なんてね。」
「は!?お前何言って――」
何言ってるんだ!?突然この幼馴染が変なこと言い始めた。というか、俺の恋人(妄想)にマウントを取るなよ!
ゼミ仲間は爆笑しながら「浮気すんなよ~」なんて言って去っていった。
腕を離した蒼弥は、何事もなかったようにさらりと口を開く。
「感想会は俺の家でするでいいか?」
いやいや、さっきの爆弾発言をスルーするな!
でも、もう突っ込んだら負けな気がして、俺も明るい声で返した。
「お、おう!いいぞ!」
183
あなたにおすすめの小説
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
消えることのない残像
万里
BL
最愛の兄・大貴の結婚式。高校生の志貴は、兄への想いが「家族愛」ではなく「恋」であったと、失恋と同時に自覚する。血の繋がりという境界線、そして「弟」という役割に縛られ、志貴は想いを封印して祝福の仮面を被る。
しかし数年後、大貴の息子が成長し、かつての兄と瓜二つの姿となったとき、止まっていた志貴の時間は歪な形で動き出す。
志貴(しき):兄・大貴に長年片思いしているが、告げることなく距離を置いていた。
大貴(だいき):志貴の兄。10歳年上。既婚者で律樹の父。無自覚に人を惹きつける性格。志貴の想いには気づいていない。
律樹(りつき):大貴の息子。明るく素直だが、志貴に対して複雑な感情を抱く。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
人並みに嫉妬くらいします
米奏よぞら
BL
流されやすい攻め×激重受け
高校時代に学校一のモテ男から告白されて付き合ったはいいものの、交際四年目に彼の束縛の強さに我慢の限界がきてしまった主人公のお話です。
既読無視の年下幼馴染みの部屋に行ったら、アイドルグッズだらけだった。しかも推しは俺
スノウマン(ユッキー)
BL
国民的アイドルの朝比奈 春人(あさひな はると)はいつもラインを既読無視する年下の幼馴染、三上 直(みかみ なお)の部屋をとある理由で訪れる。すると部屋の中はアイドルのグッズだらけだった、しかも全部春人の。
『幼馴染の弟ポジジョン×国民的アイドルのお兄さん』になる前のドタバタコメディです。
嘘をついたのは……
hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。
幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。
それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。
そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。
誰がどんな嘘をついているのか。
嘘の先にあるものとはーー?
何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら
たけむら
BL
何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら
何でも出来る美形男子高校生(17)×ちょっと詰めが甘い平凡な男子高校生(17)が、とある生徒からの告白をきっかけに大きく関係が変わる話。
特に秀でたところがない花岡李久は、何でもできる幼馴染、月野秋斗に嫉妬して、日々何とか距離を取ろうと奮闘していた。それにも関わらず、その幼馴染に恋人はいるのか、と李久に聞いてくる人が後を絶たない。魔が差した李久は、ある日嘘をついてしまう。それがどんな結果になるのか、あまり考えもしないで…
*別タイトルでpixivに掲載していた作品をこちらでも公開いたしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる