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日曜の昼間、人でごった返す駅前に立つ蒼弥は、やっぱり目立っていた。黒シャツにズボンのシンプルな格好。しかし、背も高いし顔も整ってるし、どこかモデルっぽい。すれ違う女の子たちがちらちら振り返っていくのが見える。
「悪い、待たせたか?」
俺が声をかけると、蒼弥は少し笑って首を振った。
「今来たところ」
……おい、ど定番のセリフじゃねえか。相談相手が聞いたらドン引きしないか?まあ、練習だしな。
「で?今日の映画って、恋愛映画なんだろ?」
「そう。勉強のためにも、こういうの見ておこうかなって」
ふむふむ、確かに恋愛映画は参考になる。
俺が妙に納得していると、蒼弥が軽く肩を叩いてきた。
「ほら、行こ。チケット取ってあるから」
――チケット?取ってある!?俺まだ買ってなかったんだが。流石モテ男。抜かりなし。……これで落とせないやつって何者なんだ?
おまけに案内されたのは……カップルシート。
「お、おい蒼弥!?なんだこれ!俺は男同士だろ!?」
「練習には雰囲気も大事だろ?それに今どき同性でもいけるんだぜ」
ニヤッと笑う。やばい、この男ノリノリだ。
まあ確かに、相談相手とこういうとこ来るかもしれないし……仕方ない、ここは本気でシミュレーションだ。
「うんじゃ俺、ポップコーンと飲み物奢るわ」
「サンキュ」
蒼弥が慣れた様子で無人販売機に向かう。最近は便利だなぁとぼんやり眺めていると、ポップコーン片手に飲み物を抱えた蒼弥が、爽やかな笑顔で戻ってきた。
「よ、直!待たせたな」
「おう。……にしても、お前買いすぎじゃね?」
「映画といえばポップコーンだろ?」
そう言って俺の腕にぐいっと飲み物を押し付けてくる。近い。いや近いって。けどまあ、こいつは人懐っこいからな……。
「なあ直、どこ座る?端っこ?真ん中?」
「そりゃ真ん中だろ。スクリーン全体見やすいし」
「だよな。……はい、ほら」
蒼弥は俺の手を引いて、まるで当然のように隣の席に座らせた。距離、近っ。肩が触れるレベルなんだけど。普通もうちょい空けないか?
でもまあ、映画館って混むしな……。
暗くなると、スクリーンの光だけが俺たちを照らす。
ふと横を見ると、蒼弥が身を寄せてきて、小声で囁いた。
「直、これ始まる前に食べちゃおうぜ」
ポップコーンを差し出してくる。……俺の口元まで。
「……いや、自分で食うから」
「いいから。ほら、あーん」
「……っ、やめろよ!公共の場で」
思わず声が裏返った。
慌てて自分でつまもうとしたが、蒼弥がにやにや笑って引かない。
仕方なく、差し出されたポップコーンを口に入れると――やけに満足そうに笑った。
「な、似合ってる」
「は?」
「いや、なんでも」
……何がだよ。意味わからん。
スクリーンが光を帯び、映画が始まった。
俺はただストーリーを追うことに集中――しようとしていた。
――カサリ。
隣で蒼弥がわずかに動いた気配がした。
そして、俺の手の甲に、ぬくもりが触れる。
え?
ゆっくりと、指先から絡むように、蒼弥の手が俺の手を覆っていった。
うわ、なにこれ。恋愛相談の実践練習って、ここまで本格的にやるもんなの!?
声を出して突っ込みたい。でも映画館。しゃべったら完全にマナー違反だ。
仕方なく、俺はただ固まったまま画面を見つめる。
……けど。
意外と温かい。蒼弥の手って、こんなに大きかったっけ?
しかも力強いのに、握り方は妙に優しい。なんだよこれ。俺まで変に意識するだろ。というか今俺は長年の片想い相手と手を繋いでる…?
映画の派手なラブシーンが進む中で、俺の意識は完全に隣の手に持っていかれていた。
指を少し動かしたら、蒼弥が反応する。ぎゅっと握り返してくる。
やめろ。そんなの、相談でも練習でもないだろ。
……でも、手を振り払えなかった。
映画のクライマックスが終わってエンドロール。ようやく館内に明かりが戻る。
手を解こうとした瞬間――蒼弥は何事もなかったかのように、自然に手を離した。
「どうだった?映画」
平然とした顔で聞いてくる。
「え?あ、ああ……面白かったな!」
声が裏返る。誤魔化すように笑うけど、頭の中は「映画」じゃなくて「手の感触」でいっぱいだ。
「なあ直」
「ん?」
「やっぱ一緒に来て正解だったわ」
不意に真剣な顔で言われ、目を逸らせなくなる。
近すぎる距離にドキリとするが――いやいや、俺は恋愛相談に付き合ってるだけだ。
「……そ、そりゃ友達と映画見るのは楽しいに決まってんだろ」
俺がわざと軽く返すと、蒼弥は少し肩を震わせて笑った。
「そうだな、今は」
小さく呟いたその言葉は、映画の余韻にまみれて、俺に聞こえなかった。
「お!谷田じゃん!」
映画館を出た先で、ゼミ仲間と出会った。
「あれ?男友達?この映画、彼女と見に行かなくてよかったのか?カップル映画だぞ?」
びっくりしたような顔で言われる。あまり覚えてないが、やはりそう言う映画だったか。周りほぼカップルだったし。……そこまで徹底するな!
「いや~それはな、」
俺が言い訳をしようとした時、蒼弥が腕を掴んできて、
「それは俺が彼女より深ーい関係にあるからかな?なんてね。」
「は!?お前何言って――」
何言ってるんだ!?突然この幼馴染が変なこと言い始めた。というか、俺の恋人(妄想)にマウントを取るなよ!
ゼミ仲間は爆笑しながら「浮気すんなよ~」なんて言って去っていった。
腕を離した蒼弥は、何事もなかったようにさらりと口を開く。
「感想会は俺の家でするでいいか?」
いやいや、さっきの爆弾発言をスルーするな!
でも、もう突っ込んだら負けな気がして、俺も明るい声で返した。
「お、おう!いいぞ!」
「悪い、待たせたか?」
俺が声をかけると、蒼弥は少し笑って首を振った。
「今来たところ」
……おい、ど定番のセリフじゃねえか。相談相手が聞いたらドン引きしないか?まあ、練習だしな。
「で?今日の映画って、恋愛映画なんだろ?」
「そう。勉強のためにも、こういうの見ておこうかなって」
ふむふむ、確かに恋愛映画は参考になる。
俺が妙に納得していると、蒼弥が軽く肩を叩いてきた。
「ほら、行こ。チケット取ってあるから」
――チケット?取ってある!?俺まだ買ってなかったんだが。流石モテ男。抜かりなし。……これで落とせないやつって何者なんだ?
おまけに案内されたのは……カップルシート。
「お、おい蒼弥!?なんだこれ!俺は男同士だろ!?」
「練習には雰囲気も大事だろ?それに今どき同性でもいけるんだぜ」
ニヤッと笑う。やばい、この男ノリノリだ。
まあ確かに、相談相手とこういうとこ来るかもしれないし……仕方ない、ここは本気でシミュレーションだ。
「うんじゃ俺、ポップコーンと飲み物奢るわ」
「サンキュ」
蒼弥が慣れた様子で無人販売機に向かう。最近は便利だなぁとぼんやり眺めていると、ポップコーン片手に飲み物を抱えた蒼弥が、爽やかな笑顔で戻ってきた。
「よ、直!待たせたな」
「おう。……にしても、お前買いすぎじゃね?」
「映画といえばポップコーンだろ?」
そう言って俺の腕にぐいっと飲み物を押し付けてくる。近い。いや近いって。けどまあ、こいつは人懐っこいからな……。
「なあ直、どこ座る?端っこ?真ん中?」
「そりゃ真ん中だろ。スクリーン全体見やすいし」
「だよな。……はい、ほら」
蒼弥は俺の手を引いて、まるで当然のように隣の席に座らせた。距離、近っ。肩が触れるレベルなんだけど。普通もうちょい空けないか?
でもまあ、映画館って混むしな……。
暗くなると、スクリーンの光だけが俺たちを照らす。
ふと横を見ると、蒼弥が身を寄せてきて、小声で囁いた。
「直、これ始まる前に食べちゃおうぜ」
ポップコーンを差し出してくる。……俺の口元まで。
「……いや、自分で食うから」
「いいから。ほら、あーん」
「……っ、やめろよ!公共の場で」
思わず声が裏返った。
慌てて自分でつまもうとしたが、蒼弥がにやにや笑って引かない。
仕方なく、差し出されたポップコーンを口に入れると――やけに満足そうに笑った。
「な、似合ってる」
「は?」
「いや、なんでも」
……何がだよ。意味わからん。
スクリーンが光を帯び、映画が始まった。
俺はただストーリーを追うことに集中――しようとしていた。
――カサリ。
隣で蒼弥がわずかに動いた気配がした。
そして、俺の手の甲に、ぬくもりが触れる。
え?
ゆっくりと、指先から絡むように、蒼弥の手が俺の手を覆っていった。
うわ、なにこれ。恋愛相談の実践練習って、ここまで本格的にやるもんなの!?
声を出して突っ込みたい。でも映画館。しゃべったら完全にマナー違反だ。
仕方なく、俺はただ固まったまま画面を見つめる。
……けど。
意外と温かい。蒼弥の手って、こんなに大きかったっけ?
しかも力強いのに、握り方は妙に優しい。なんだよこれ。俺まで変に意識するだろ。というか今俺は長年の片想い相手と手を繋いでる…?
映画の派手なラブシーンが進む中で、俺の意識は完全に隣の手に持っていかれていた。
指を少し動かしたら、蒼弥が反応する。ぎゅっと握り返してくる。
やめろ。そんなの、相談でも練習でもないだろ。
……でも、手を振り払えなかった。
映画のクライマックスが終わってエンドロール。ようやく館内に明かりが戻る。
手を解こうとした瞬間――蒼弥は何事もなかったかのように、自然に手を離した。
「どうだった?映画」
平然とした顔で聞いてくる。
「え?あ、ああ……面白かったな!」
声が裏返る。誤魔化すように笑うけど、頭の中は「映画」じゃなくて「手の感触」でいっぱいだ。
「なあ直」
「ん?」
「やっぱ一緒に来て正解だったわ」
不意に真剣な顔で言われ、目を逸らせなくなる。
近すぎる距離にドキリとするが――いやいや、俺は恋愛相談に付き合ってるだけだ。
「……そ、そりゃ友達と映画見るのは楽しいに決まってんだろ」
俺がわざと軽く返すと、蒼弥は少し肩を震わせて笑った。
「そうだな、今は」
小さく呟いたその言葉は、映画の余韻にまみれて、俺に聞こえなかった。
「お!谷田じゃん!」
映画館を出た先で、ゼミ仲間と出会った。
「あれ?男友達?この映画、彼女と見に行かなくてよかったのか?カップル映画だぞ?」
びっくりしたような顔で言われる。あまり覚えてないが、やはりそう言う映画だったか。周りほぼカップルだったし。……そこまで徹底するな!
「いや~それはな、」
俺が言い訳をしようとした時、蒼弥が腕を掴んできて、
「それは俺が彼女より深ーい関係にあるからかな?なんてね。」
「は!?お前何言って――」
何言ってるんだ!?突然この幼馴染が変なこと言い始めた。というか、俺の恋人(妄想)にマウントを取るなよ!
ゼミ仲間は爆笑しながら「浮気すんなよ~」なんて言って去っていった。
腕を離した蒼弥は、何事もなかったようにさらりと口を開く。
「感想会は俺の家でするでいいか?」
いやいや、さっきの爆弾発言をスルーするな!
でも、もう突っ込んだら負けな気がして、俺も明るい声で返した。
「お、おう!いいぞ!」
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