異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

異世界生活:王都レグナム編

異世界強化訓練:男性陣②

一度目の魔法は奇跡的に躱すことができた。
ゲイルはそう判断した。
現実を受け入れられないのか、それとも本当に気付いないのか。
魔素を練り、次なる魔法へと行動を移した。

「時をも凍てつかせる氷風ひょうふうよ！」

ゲイルの言葉に蓮は耳を疑った。

ついに出るのか！？出てしまうのか！？
正式魔法が始まることへの恥ずかしさと驚きが蓮の脳内を駆け巡る。

「ゲイル！やりすぎですよ！」

「いかん！シュバルツ！」

蓮は詠唱を聞きたいが聞けないほどの恥ずかしさに襲われていた。
しかし、周囲の様子は蓮とは異なる慌ただしさを帯びていた。

遠くから見ていたアクアは声を荒げてゲイルを制止しようした。
傍で見ていたノームは危険と判断し、シュバルツに声をかけ、魔素を練り始めた。
すぐさま、自身らと騎士団長、そして観覧席で見ていた王や精鋭部隊をも守れるほどの大きな結界魔法を発動した。

「ま、まさか本当にやるなんて……」

ゲイルの詠唱を聞いているだけで恥ずかしさが込み上げてくる。
正式詠唱を自身が唱える姿は想像を絶する。

蓮が慌てて想像をかき消そうとしていると『今更慌ててももう遅い！』とさらなる勘違いを口にしながらゲイルは詠唱を続けた。

「竜となりて、愚者へと終焉を与えよっ！氷風竜の息吹ブリザード・ドラゴン・ブレスっ！」

ダサい。
あまりにもダサい。
技名も詠唱もダサすぎて聞いてる方がつらい。
ある意味は凍り付いて時が止まりそうになった。

吹雪が竜を模しながら、訓練場を凍てつかせながら、蓮を襲う。
光を反射しながら煌びやかに迫る美しい吹雪と氷竜ひょうりゅう。
竜は細部まで細かく作られており、魔力制御のレベルの高さを感じた。

「無駄なことが好きだなぁ」

ゲイルの魔法で生み出された氷の竜は、その言葉ごと蓮を飲み込んだ。
訓練場の床を削りながら凍り付かせ、轟音とともに氷の竜は崩れ落ちた。

「ふはははっ！どうだ！見たか！」

凍り付いた訓練場に蓮の姿はない。
蓮の立っていた場所には鉱脈のように氷塊が連ねている。

どこに行ったのか。
殺してしまったのではないか。
実力が足りないものは慌て、心配の表情を浮かべ、桜たちは呆れた表情を浮かべた。

「ねぇね！かきごおりできるかな！？」

向日葵は心配するどころか、かき氷が作れるのではないかと心躍らせている。
その向日葵に『今度シロップ作れるか試してみるね』と桜は笑顔で返した。

「い、今はそれどころでは……」

アクアが言葉にし、ソフィリアも同様に蓮の身を案じている。

「ほら。よそ見してないで始めるわよ」

蓮の試合があまりにもレベルが低いため、見る価値がないと訓練開始を促すドラコ。
しかし、ガーネットとココも蓮の安否が気になり、訓練どころではない。

「え……」

「なんと……」

数名の者が気が付き声を漏らした。
しかしゲイルは気付いていない。

「フェリクスさんにも、その自信と容赦のなさを見習ってほしいね」

唐突に後ろから聞こえる声。
ゲイルは驚き、振り返りながら略式詠唱で魔法を放とうとする。
しかし、その動きは蓮からすればあくびが出るほどに遅い。
魔素を練る速さも、振り返ろうとする体の速さも遅すぎる。

蓮は余裕をもって、躱す素振りすらも見せないまま無詠唱で闇魔法を発動。
訓練場の壁とゲイルに引力を発生させた。

「おぉ？おお！？なんだこれは！？」

想像もしていなかった方向からの強く引く力。
ゲイルは驚き、理解ができないまま叫びながら壁へと叩きつけられた。

「グフッ！く……そ……」

痛々しい音が宙に溶けていくのと同時に、ゲイルはゆっくりとずり落ち、訓練場の床へと伏し、気を失った。

「しょ、勝負あり！」

フェリクスがゴングを3回鳴らし、蓮の勝利を告げる。

「この氷って何とかできますか？」

蓮が声をかけフェリクスを見るが、困った表情を浮かべるだけだ。
ここは騎士団員の訓練場。
魔法師の訓練場のように大規模魔法に備えた結界魔法もなにも施さていない。

「ドラコ！これ溶かせないかな？」

蓮が遠く離れたところにいるドラコに声をかけると、ドラコはため息交じりに肩を揺らし、火魔法と風魔法で氷塊を蒸発させた。

風氷帝の氷魔法に生み出された氷塊を瞬時に霧散させたドラコを見て、場内ではどよめきが走った。
ゲイルと同格の他の四魔帝テトラゴーノンでも、ゲイルの氷を溶かせるのは地炎帝のノームだけだ。
それも、これほどの規模を瞬時に霧散させることはできない。

「とんでもねぇ奴らだな」

実力の底は全く見えていない。
しかし、圧倒的な強さを目の当たりにしつつある。
おそらく、そのほかの者も同等かそれ以上の力を有している。
シュバルツは息をのみながら言葉にした。

そして蓮はユグドラシルと見て『お願いします』と目で訴えかけた。
蓮の思いをくみ取りユグドラシルは支援魔法を発動。
ゲイルを瞬時に全回復させた。

「痛むところはないですか？」

「あ、ああ……」

ゲイルは理解が追い付かず、意識ははっきりとしているが呆けるように返事をした。
蓮は無礼な言葉を責めるでもなく、指摘するでもなく、『次の戦いを始めるので、あちらへ移動お願いします』と言葉にした。

蓮は開始線に立ち、少し考えるようなそぶりを見せたのち、シュバルツとノームを見て言葉にした。

「あの……。お二人同時にかかってきてもらえませんか？」

訓練時間を短縮した。
訓練場の修復の手間を省きたい。
魔法師の連携を見てみたい。
もっといろいろな魔法を見てみたい。
自身にとっても経験となる時間にしたい。

様々な思いからの提案だった。

しかし、その言葉はレグナム最高戦力たる四魔帝テトラゴーノンのプライドに火をつけた。

「嘗なめられたもんだぜ。じいさん。1対1サシでやって勝てる自信あるか？」

「ふん。ふざけたことを聞くんじゃねぇよ」

自身らのプライドなどどうでも良い。
ここで無様な姿を見せればレグナムの名折れ。
王に恥をかかせることになる。

シュバルツとノームは、心は燃え上がっているが、頭はいたって冷静。
誇りよりも結果を重視し、最善策を練りながら、蓮の申し出を受けて開始線に2人で並び立った。