【完結】公爵閣下付き侍女の恋愛

ユリーカ

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グライド編

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 グライドを自分の下につけて欲しい。

 バースからそう言われたのはグライドの異動の二日前。グライドはアレックスの親友で唯一無二の腹心。バースはそれをわかった上で言ってきたのだ。

「一年で仕上げて見せましょう。その上でどのようにお使いなるか決めてくだされ。あの男は化けますぞ。」

 グライドは軽口を叩きながらいつもアレックスについてきた。口に出さないが、裏で必死に努力していたことは知っている。
 騎士訓練も脱落者が多い中、二年で騎士団を指揮するまで成長した。相性が必要な飛竜にも懐かれた。危険な局面でも打破する策を必ず出してきた。不思議なやつだと思った。
 試しに領地運営補佐をさせてみたが、当主不在でも雑務をさばけるようになった。

 本人は気が付いていないようだが、恐ろしい程の適応能力だ。

 おそらく魔術訓練にも適応できるだろう。バースのしごきに耐え抜けたら、だが。あれは短期間で魔力をあげられるが、あのエグさはやった経験がある者にしかわからない。

「あの男は己がいかに幸運か分かっていない。私はそれが無性に腹立たしいのです。」

 昔アレックスとグライドが共にいる時、バースはたまに含みのある視線をグライドに向けることがあった。その時は意味がわからなかったが、バースの言葉で理解した。

「私があるじに、先代様に巡り会うのに三十年を費やしたのです。あの男は生まれながらに主と共にある。その意味をきちんと理解させねばなりません。」

 ラウエン家に来る前バースは王宮にいた。先代たるアレックスの父に出会い、王宮を出奔して家令になったと昔聞いた。
 アレックスのことを若と呼ぶのは愛称であり、主たる父の息子であるという意味なのだろう。
 もちろんアレックスにも忠誠を誓ってくれているが、こういう時その忠誠心が少し危ういとも思う。

「私の元で徹底的にしごきます。一年後、あれは若のお役に立つ駒になっていることでしょう。そのように育てます。」
「俺はグライドをそんな風に思ったことはない。バース、お前もだ。」

 バースは無言で礼をとり部屋を辞した。

 バースにしてみれば俺は為政者としてぬるいのだろう。冷徹に手駒と割り切れない。
 領地運営も補助しか置かない。獣の本性なのか、本当に信頼できるものが、自分の命を預けられるものがいない。グライドが一番近いが、いざという時に、大義の犠牲として切り捨てられない。自分の駒として近くに置くには二人は付き合いが深すぎた。

 これだからお前はまだまだ甘い。

 陛下のそう言う声が聞こえるようだ。アレックスはため息を落として天井を仰ぎ見た。

 バースはあいつが化けると言った。ならば待ってみよう。あいつがもし本当に鉄壁の駒となっていたのなら、その時は身を切って覚悟を決めよう。あいつを駒にする覚悟を。



 この翌日グライドは配置換えを言い渡される。

 グライドは知らない。二人の思惑も異動の意味も自分の可能性も。
 そして自分の望みが形になったと理解したのはそれから一年後のことだった。



グライド編 完
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