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アニス編
イメージチェンジ
しおりを挟む色々とやってきたが、思えば実家でアニスの母が父にやっていたことと似ていた。他に母は何してただろう?と思いをはせ、服装に気が行った。
侍女時代は毎朝丁寧に櫛を入れた黒髪を艶やかに背中に垂らしヘッドドレスをつけていた。異性のウケがとても良かったのだが、意中のあの馬鹿は気が付きもしない。今思えば無駄なことだったと黒歴史を思い起こす。
執務室にエプロンとか今まで浮いてただろうなと思いエプロンを取ってみる。ヘッドドレスもおかしいので外す。そうすると紺の膝下ワンピースになった。
これだけだとなんとも地味なので、襟元にスカーフを巻いてみた。邪魔な髪を結い上げピンで留める。実用一点張りだ。シンプルなフープピアスにナチュラルメイクをして完了。
すごく楽だ。これでいい。どうせあいつは見ないのに無駄な努力をする時間が惜しい。
バースに変更した服で問題がないか確認をとる。少し驚かれたがメイドではないのでとOKをもらった。
「わぁ、アニス様。すごく素敵!」
事務方にあげた一人、シャーリーが廊下で歓声を挙げた。事務方の三人は仕事にも慣れていい感じになってきた。当初起こっていたトラブルも最近かなり減っていた。
「執務室にお仕着せは浮くからちょっと変えてみたの。」
「アニス様、かっこいいです!!」
「ふふっありがとう。」
握り拳で褒めてくれたのは二つ年下のロイド。こちらもアニスによく懐いていた。まだあどけなさを残す少年顔がメイド達に人気があるようだかアニス的にはツボらなかった。
とはいえ褒められれば嬉しい。実は手抜きなんだよねとも言えず、笑顔で二人に応えた。
「そうだ!アニス様。お仕事にも慣れてきたのでみんなで今日ご飯食べに行こうって言ってるんです。アニス様もどうですか?」
笑顔が素敵なシャーリーが無邪気に誘う。ほんとにかわいいなぁ。ロイドが傍でそわそわしている。ん?これは?
「うーん、仕事次第かな?」
「え?それなら旦那様に直談判しましょうよ!ね!」
シャーリーはパタパタと廊下を駆けていき、ロイドと二人廊下に残された。
「どうでしょうか?ガーランドさんも参加するんですよ。お子さんの話も聞けそうですよ。」
唯一の事務職経験者のガーランドも参加するのか。子煩悩そうだし面白そうな話が聞けそうだ。アニスより頭一つ大きいロイドがアニスの側でこそっと囁く。
「すみません、女性がシャーリー一人だと居心地悪いかもしれないので、‥その、是非お願いします。」
頬を染めるロイドにアニスは合点した。なんて可愛らしい二人なんだろう。お似合いじゃないか。シャーリーが気が付いていないみたいだから苦労しそうだけど。アニスの方がくすぐったくて笑ってしまった。
その時——
「———アニス。」
「グライド?!」
背後にいつの間にかグライドがいた。全く気配がなくてアニスはびっくりした。ぶっ倒れた初日以来グライドは邸にいなかった。訓練中だとバースはいっていたのだが。見た目といい髪型といい、なんだか色々ボロボロだ。
グライドは無言でアニスの手を取って廊下を歩き出した。
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