【完結】公爵閣下付き侍女の恋愛

ユリーカ

文字の大きさ
11 / 17
アニス編

残りわずか

しおりを挟む



「本日は午後から予定通りお休みでよろしいですか?」
「ああ、そのつもりで頼む。」

 異動から十ヶ月目。

 メリッサは双子の赤ん坊を出産した。アレックスの喜びようはものすごく、忙しい中でも休みを入れては双子の子守りをしていた。
 男の子はアレックス似の赤茶の髪に新緑の瞳、女の子はメリッサ似の銀髪に青い瞳。あれほど可愛ければ無理もない。

 午後から主不在。事務室も休みとなった。久々の休暇をどうしようかと思っていたら、珍しくグライドが執務室に来た。異動以来、頑なに来ようとしなかったのに。

「うわっ 同じ部屋とは思えないな。ここがあの地獄の執務室か。いい腕してるな、アニス。」
「今更ね。二週目で片付けたわよ。珍しいわね。どうしたの?旦那様はお休みよ。」
「知ってる。午後休みだろ?俺も休みだから街まで付き合えよ。」

 さらりとデートに誘われた?いやいや、暇な独り身同士つるんでこうというやつ?

「異動の時の借りがそのままだったろ?何か奢るぞ?」
「そういやそうだったわね。覚悟なさい!利息含めきっちり返してもらいますからね!」

 するりとエスコートされて気がついたら廊下に出ていた。アニスの手から鍵を受け取り執務室に施錠までする。魔法のように外に連れ出された。
 バース様の紳士教育、徹底してるなぁ、と感心した。

 グライドは執事服なので二人でいるとお嬢様と執事といった風に見えそうだ。それも面白い。
 アニスの思惑を悟ったグライドが澄ましてアニスをお嬢様扱いした。クスクス笑うとつられてかグライドも破顔した。いつものグライドの笑顔だ。
 二人で遅めの昼食をとり、いつものように取り止めのないことを話しながら街の中を歩く。

 たまにグライドは執事の笑顔を貼り付けることがあった。作り物の笑顔が気に入らなかった。だから思いっきりグライドの足を踏みつけてやるとグライドはゲラゲラ笑った。
 これでいい。これからもずっとそうやって笑ってて欲しい。作り物なんて寂しすぎる。

 予感があった。もう執事教育は完成してる。あと二ヶ月で節目の一年。おそらくもうあまり時間は残っていない。

「アニスは今の仕事楽しいか?」
「そうね。侍女の頃と違うけど、すごく充実してる。こんなにハマると思わなかった。推薦してくれてありがとね。」
「いや。俺は死にそうだったのに、お前は軽々やってるもんな。すごいよほんと。よかったな。」

 アニスの前を歩いているのでグライドの表情は見えない。アニスは俯いた。後ろを歩いてよかった。多分、グライドの顔を見られなかっただろうから。
 すごいのはあんただよ。公爵家の家令だなんて、大抜擢だ。旦那様の幼馴染だしきっといい縁談だってくるだろう。私なんか全然釣り合わない。昔みたいに馬鹿もやらないから膝枕もできなくなった。もうすぐ接点もなくなる。

 グライドが振り返ったのでアニスも足を止めた。
 予感があった。耳を塞ぎたい衝動をぐっと飲み込んだ。

「俺、二ヶ月後に配置換えになる。内示が出た。本邸だそうだ。」
「本邸?すごいじゃん!おめでとう!!」
「仕事はまだ決まってないんだがな。」
「当然執事でしょ?頑張ってね!」

 アニスはこぼれるように笑う。よかった、ちゃんと笑えた。震える手を背中に隠した。

「——ありがとな。離れ離れになるけど、お前も頑張れよ。」

 グライドは眩しそうにアニスを見て微笑む。そして右手を差し出したので、アニスは握手で握り返した。

 これでいい。きっと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...