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第98話 活動記録
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今日も爽やかな朝がきた。
ちゃんちゃっちゃっちゃらら~~ちゃ、ちゃららららちゃっちゃ~~~~。ちゃんちゃっちゃちゃらら~~らちゃらりららったった~~~~♪
鉄の結束荘の校庭スピーカーから陽気なラジオ体操のメロディーが流れる。
それに合わせて六段とアルテマは元気に手を上げ、息を吸う。
「うむ、やはり夏の朝と言ったらこれよ。アルテマよ、今日から毎日ここで体操にはげもうではないか」
「うむ、そうだな。稽古前の準備運動にこれはちょうどいい感じだぞ」
「……て、ちょっとちょっとお二人とも朝っぱらから人んちの庭で何やっているんですか!??」
遠慮のない騒音に、寝ぼけ眼のヨウツベが教室の窓を開けて文句を言ってくる。
「おう起きたか。なに、今日からアルテマが剣の鍛錬を再開したいと言うのでな、それならばここの校庭を使えば良いと言ったのだ」
「うむ、そうしたら六段がついでにラジオ体操とやらも教えてくれると言うのでな、いま教わっている。さんさんと降り注ぐ朝の日を浴び、吸い込む空気のなんと美味いことよ」
帝国の空気も澄んではいたが、生ゴミや排泄処理がこの世界よりは遥かに劣っていた。なのでどこかしこから若干の嫌な匂いが常に漂ってきていたものだ。それとくらべるとこの集落の空気は素晴らしい。
山や森の木々の青々とした香りと土の芳ばしさ、朝露の甘い風が胸を豊かに満たしてくれる。なによりこの眩しいほどの陽の光は、身体の内に眠る活力をメラメラと燃やしてくれた。
「お前もそんなところで目を擦っていないでこっちで私と踊ろうではないか、体の内から活力がみなぎってくるぞ?」
「いや……僕は遠慮しときますよ……」
時計を見たらまだ朝の六時だ。
ヨウツベを始め、結束荘のメンバーは基本夜行性。
普段は昼まで、貫徹した日は夕方まで寝ている。
アルテマが来てから朝から動くパターンが増えはしたが、それでもまだまだこの時間帯は全員熟睡していた。
「……ときに今日は注文した荷物が届く日じゃなかったか? ちゃんと受け取りに行く準備は出来ているんだろうな?」
「ふぁ~~~~ぁ……あふぅ……ええ……出来てますよ六段さん。今回は物が多いんで小分けにして運ぶことにしてるんですよ」
大あくびをしながら、もう少し寝かせて下さいとヨウツベは奥へと引っ込んだ。
そして昼過ぎ。
桟橋に集まったメンバーはヨウツベ、アニオタ、ぬか娘、モジョ、の四人。
そしてそれらを見送るアルテマと六段。
今回はこのメンバーで物資を集めてくる手筈となった。
年寄り組はみんな畑仕事やお祓いなど、やることが多いので、こういうときは暇な若者が働くべきだと六段が言い出したのだ。
ルナ目当てのアニオタ以外、労働にトラウマがある若者三人は少し不満げな顔をしたが、他ならぬアルテマやジルの為ならば『働いたら負け』の教示も、いまは伏せて頑張ろうと協力体制を約束してくれた。
もちろんその労働対価は帝国の交換物資から支払うとアルテマは約束している。
今日の荷物はじゃがいもの種芋、サツマイモの苗、蕎麦の種、合わせて約1トンぶん。
それだけの重量を小型ボートで一度に運ぶのはさすがに無理がある。
なので元一が知り合いに連絡して川向うの広場にトラックを用意してもらった。
それを使って各所に局留めしている物資を回収し、戻ってきたらあとは小分けにしてボートなり、橋を使うなりして渡せばいい。
「では行ってきますよ」
「うむ、頼んだぞ。お前たちの働きに帝国の未来がかかっているのだからな!!」
熱い視線で送り出してくれるアルテマを背に、ヨウツベたちが桟橋を渡る。
その手には自撮り棒に装着された携帯がかかげられていた。
異世界との貿易。
いずれこれが本格化すれば、今日このときの自分たちの働きは、永遠に記録に残る偉業として後世に語り継がれるだろう。
そしてそのようすを一から記録している自分は伝説のレポーターとして歴史に名を残すのだ。
将来の栄光を夢見てヨウツベは咳払いをひとつ、
「ごほん。え~~我々はいま飢餓に苦しむ異世界の人々たちを救うため、今日もまた人知れず物資を引き取りに参ります。いまはまだ公に出来ない行動ですが、いつか、いつの日にか両国の存在が世に認知され、その友好関係も認められたそのとき、我々のこの地道な活動は、必ずや未来の両世界の人々の心を打ち――――」
「……長い長い、そしてくどい……30点」
カクカク動きながらぎこちなく喋っているヨウツベに、あきれたモジョが面倒くさそうに突っ込んだ。
「え、いやだって……この映像、近い将来ぜったいに貴重になるよ? きっと全世界の人たちが感動して観てくれると思うし……だったらちゃんとレポートしなきゃと思って……」
「……逆だ。こういうのは何も喋らないほうがいい。淡々と映像だけ残してろ……それから値段が付くようになったらギャラは請求するからな……?」
「ちょっとちょっと!! 公開しないって約束だったでしょ!?」
「将来の話だよ。発表しても差し支えなくなるまでは絶対に秘密にしとくから。歴史的にも記録は必要だろう?」
ガヤガヤ言いながら四人は途切れた橋に板を渡して、なに喰わぬ顔で向こう岸に渡った。
そのようすをプレハブの中で忌々しげに睨みつける偽島と『なるほどな……』と不敵な笑みを浮かべて見送るクロードがいた。
ちゃんちゃっちゃっちゃらら~~ちゃ、ちゃららららちゃっちゃ~~~~。ちゃんちゃっちゃちゃらら~~らちゃらりららったった~~~~♪
鉄の結束荘の校庭スピーカーから陽気なラジオ体操のメロディーが流れる。
それに合わせて六段とアルテマは元気に手を上げ、息を吸う。
「うむ、やはり夏の朝と言ったらこれよ。アルテマよ、今日から毎日ここで体操にはげもうではないか」
「うむ、そうだな。稽古前の準備運動にこれはちょうどいい感じだぞ」
「……て、ちょっとちょっとお二人とも朝っぱらから人んちの庭で何やっているんですか!??」
遠慮のない騒音に、寝ぼけ眼のヨウツベが教室の窓を開けて文句を言ってくる。
「おう起きたか。なに、今日からアルテマが剣の鍛錬を再開したいと言うのでな、それならばここの校庭を使えば良いと言ったのだ」
「うむ、そうしたら六段がついでにラジオ体操とやらも教えてくれると言うのでな、いま教わっている。さんさんと降り注ぐ朝の日を浴び、吸い込む空気のなんと美味いことよ」
帝国の空気も澄んではいたが、生ゴミや排泄処理がこの世界よりは遥かに劣っていた。なのでどこかしこから若干の嫌な匂いが常に漂ってきていたものだ。それとくらべるとこの集落の空気は素晴らしい。
山や森の木々の青々とした香りと土の芳ばしさ、朝露の甘い風が胸を豊かに満たしてくれる。なによりこの眩しいほどの陽の光は、身体の内に眠る活力をメラメラと燃やしてくれた。
「お前もそんなところで目を擦っていないでこっちで私と踊ろうではないか、体の内から活力がみなぎってくるぞ?」
「いや……僕は遠慮しときますよ……」
時計を見たらまだ朝の六時だ。
ヨウツベを始め、結束荘のメンバーは基本夜行性。
普段は昼まで、貫徹した日は夕方まで寝ている。
アルテマが来てから朝から動くパターンが増えはしたが、それでもまだまだこの時間帯は全員熟睡していた。
「……ときに今日は注文した荷物が届く日じゃなかったか? ちゃんと受け取りに行く準備は出来ているんだろうな?」
「ふぁ~~~~ぁ……あふぅ……ええ……出来てますよ六段さん。今回は物が多いんで小分けにして運ぶことにしてるんですよ」
大あくびをしながら、もう少し寝かせて下さいとヨウツベは奥へと引っ込んだ。
そして昼過ぎ。
桟橋に集まったメンバーはヨウツベ、アニオタ、ぬか娘、モジョ、の四人。
そしてそれらを見送るアルテマと六段。
今回はこのメンバーで物資を集めてくる手筈となった。
年寄り組はみんな畑仕事やお祓いなど、やることが多いので、こういうときは暇な若者が働くべきだと六段が言い出したのだ。
ルナ目当てのアニオタ以外、労働にトラウマがある若者三人は少し不満げな顔をしたが、他ならぬアルテマやジルの為ならば『働いたら負け』の教示も、いまは伏せて頑張ろうと協力体制を約束してくれた。
もちろんその労働対価は帝国の交換物資から支払うとアルテマは約束している。
今日の荷物はじゃがいもの種芋、サツマイモの苗、蕎麦の種、合わせて約1トンぶん。
それだけの重量を小型ボートで一度に運ぶのはさすがに無理がある。
なので元一が知り合いに連絡して川向うの広場にトラックを用意してもらった。
それを使って各所に局留めしている物資を回収し、戻ってきたらあとは小分けにしてボートなり、橋を使うなりして渡せばいい。
「では行ってきますよ」
「うむ、頼んだぞ。お前たちの働きに帝国の未来がかかっているのだからな!!」
熱い視線で送り出してくれるアルテマを背に、ヨウツベたちが桟橋を渡る。
その手には自撮り棒に装着された携帯がかかげられていた。
異世界との貿易。
いずれこれが本格化すれば、今日このときの自分たちの働きは、永遠に記録に残る偉業として後世に語り継がれるだろう。
そしてそのようすを一から記録している自分は伝説のレポーターとして歴史に名を残すのだ。
将来の栄光を夢見てヨウツベは咳払いをひとつ、
「ごほん。え~~我々はいま飢餓に苦しむ異世界の人々たちを救うため、今日もまた人知れず物資を引き取りに参ります。いまはまだ公に出来ない行動ですが、いつか、いつの日にか両国の存在が世に認知され、その友好関係も認められたそのとき、我々のこの地道な活動は、必ずや未来の両世界の人々の心を打ち――――」
「……長い長い、そしてくどい……30点」
カクカク動きながらぎこちなく喋っているヨウツベに、あきれたモジョが面倒くさそうに突っ込んだ。
「え、いやだって……この映像、近い将来ぜったいに貴重になるよ? きっと全世界の人たちが感動して観てくれると思うし……だったらちゃんとレポートしなきゃと思って……」
「……逆だ。こういうのは何も喋らないほうがいい。淡々と映像だけ残してろ……それから値段が付くようになったらギャラは請求するからな……?」
「ちょっとちょっと!! 公開しないって約束だったでしょ!?」
「将来の話だよ。発表しても差し支えなくなるまでは絶対に秘密にしとくから。歴史的にも記録は必要だろう?」
ガヤガヤ言いながら四人は途切れた橋に板を渡して、なに喰わぬ顔で向こう岸に渡った。
そのようすをプレハブの中で忌々しげに睨みつける偽島と『なるほどな……』と不敵な笑みを浮かべて見送るクロードがいた。
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