19 / 42
19.レイチェル過去
しおりを挟む
薬の効果が現れ始めたのは三日たった頃からだった。
初めは父の行動が変わった。
いつものように掃除をしていると父がチラチラと視界にはいるようになった。挙動不審というのだろうか、そわそわしているのがわかった。
その二日後には今まではありえない発言をしてきたのだ。
「庶子とはいえ、伯爵の令嬢がメイドのような事をするな」と。
その言葉に誰もが驚いた。
姉たちさえも。
そしてあたしでさえも・・・。
本当に。
あたしを見てくれた。
あぁ、神様。あなたは本当にいるのね。
今まで馬鹿にしてごめんなさい。心からそう思った。
それからだ。あたしの暮らしは変わっていった。
今までのような下働きをしなくて良くなった。
髪を整えてられた。自分の部屋を与えられ、ふわふわのベッドで眠る事ができた。綺麗な服を買い与えくれたので、感激で泣いてしまったほどだ。
食事も食べたことないくらい美味しいものがでた。
自分の生活が百八十度変わった。
マナーや一般教養を学ぶ羽目になってしまったが、楽しかった。知りえなかったことを学ぶことがどんなに面白いのか。
だけど日が経つにつれて怖くなっていった。
後1週間でひと月が来る頃、恐怖しかなかった。
どれもこれも、あの薬のおかげ。
もし、この効果が切れてしまえば、また以前の生活に戻るのかもしれない。そう考えるとぞっとしてきた。一度知ってしまった心地よさを手放したくない。
無断で外出することにした。
前よりも外に出にくくなったからだ。以前はメイドたちの目がきつかった。でもどうにかこうにか理由をつければ街に行くことはできた。でも、今はその理由が通用しない。
下働きの頃に見つけた、庭の隅にある抜け穴を使い無断に外出するしかない。こんな所で今までの経験が役に立つなんて。
ボロ服を来て街へと行った。
いつもの店に行く。
店主はあたしを見てため息をついて、また二日後に来るように言った。
すぐに会えないのか・・・。
たかが二日とはいえ、いつ薬の効果が切れるのか心配でしかたがなかった。夜、寝ていても夢でうなされた。
あの悪夢がー。
冷たい水。手がかじかみ指先が切れて血が滲む。水でカサカサになり、ドブのような臭く香る手のひら。
髪はボサボサで、光沢もない。
唇は乾燥してザラザラだし、肌も日焼けと煤や汚れで汚い。
思い出すだけでも嫌だというのに、夢で見た日には吐き気がしそうだった。
あんな惨めな思いなんかもうしたくない。
二日後、再び屋敷を抜け出して店に行った。
今度は男は店の2階にいた。
前回は宿を取っていたのに?
「あんた、ここに住んでるの?」
「いや、宿提供してもらってるだけだ」
「じゃぁ、なんで前はあんな宿にいたのよ?」
前回の事を思い出して腹が立った。
「君の覚悟を知りたくて。で、どうだった?」
この男の思う壺なのだろうか?あんな治安も良くないような宿まで訪ねさせる事で、あたしを試したのか?
まあ、いい。それより・・・。
「薬頂戴」
あたしは手を差し出した。
男は意外そうな顔をした。男は小瓶を出してきただが、それはまるで勿体ぶっているように渡してはくれなかった。
「何?お金がいるの?」
あたしは父から貰った初めてのお小遣いが入った袋を置いた。
「これだけあれば買える?」
これで買える?
お金であたしの欲しいものが買えるなら・・・。
「効果はなかった?」
「あったわ。だからこそまた欲しいの」
「あれは多用するものじゃないんだけどなぁ。前回ので効いたなら、それで良かっただろう」
「ダメなの。もう前みたいな生活に戻りたくないの。だから薬を頂戴」
あたしは叫ぶように言うと、男は顎に手を当て考えこんだ。
そして、しばらくしてから男は袋の中から金貨を一枚だけとりだした。
「これでいい」
そういうと金貨を懐に納め、小瓶の中から一粒取り出してあたしに渡した。
「これ、だけ・・・?」
一粒?たった一粒?
不安になる。
「それで十分だ。これはきっかけだけのものだ。きっかけができたからにはあとは自分を磨けばどうってことはない。あとは君次第なんだ」
紫色の粒を眺めた。
「これは飲み過ぎたらダメなんだ」
「でも・・・」
男は首を振った。
男の意思は変わらないようだった。
あたしは紫色の粒をその場で飲み込むと仕方なく帰った。
初めは父の行動が変わった。
いつものように掃除をしていると父がチラチラと視界にはいるようになった。挙動不審というのだろうか、そわそわしているのがわかった。
その二日後には今まではありえない発言をしてきたのだ。
「庶子とはいえ、伯爵の令嬢がメイドのような事をするな」と。
その言葉に誰もが驚いた。
姉たちさえも。
そしてあたしでさえも・・・。
本当に。
あたしを見てくれた。
あぁ、神様。あなたは本当にいるのね。
今まで馬鹿にしてごめんなさい。心からそう思った。
それからだ。あたしの暮らしは変わっていった。
今までのような下働きをしなくて良くなった。
髪を整えてられた。自分の部屋を与えられ、ふわふわのベッドで眠る事ができた。綺麗な服を買い与えくれたので、感激で泣いてしまったほどだ。
食事も食べたことないくらい美味しいものがでた。
自分の生活が百八十度変わった。
マナーや一般教養を学ぶ羽目になってしまったが、楽しかった。知りえなかったことを学ぶことがどんなに面白いのか。
だけど日が経つにつれて怖くなっていった。
後1週間でひと月が来る頃、恐怖しかなかった。
どれもこれも、あの薬のおかげ。
もし、この効果が切れてしまえば、また以前の生活に戻るのかもしれない。そう考えるとぞっとしてきた。一度知ってしまった心地よさを手放したくない。
無断で外出することにした。
前よりも外に出にくくなったからだ。以前はメイドたちの目がきつかった。でもどうにかこうにか理由をつければ街に行くことはできた。でも、今はその理由が通用しない。
下働きの頃に見つけた、庭の隅にある抜け穴を使い無断に外出するしかない。こんな所で今までの経験が役に立つなんて。
ボロ服を来て街へと行った。
いつもの店に行く。
店主はあたしを見てため息をついて、また二日後に来るように言った。
すぐに会えないのか・・・。
たかが二日とはいえ、いつ薬の効果が切れるのか心配でしかたがなかった。夜、寝ていても夢でうなされた。
あの悪夢がー。
冷たい水。手がかじかみ指先が切れて血が滲む。水でカサカサになり、ドブのような臭く香る手のひら。
髪はボサボサで、光沢もない。
唇は乾燥してザラザラだし、肌も日焼けと煤や汚れで汚い。
思い出すだけでも嫌だというのに、夢で見た日には吐き気がしそうだった。
あんな惨めな思いなんかもうしたくない。
二日後、再び屋敷を抜け出して店に行った。
今度は男は店の2階にいた。
前回は宿を取っていたのに?
「あんた、ここに住んでるの?」
「いや、宿提供してもらってるだけだ」
「じゃぁ、なんで前はあんな宿にいたのよ?」
前回の事を思い出して腹が立った。
「君の覚悟を知りたくて。で、どうだった?」
この男の思う壺なのだろうか?あんな治安も良くないような宿まで訪ねさせる事で、あたしを試したのか?
まあ、いい。それより・・・。
「薬頂戴」
あたしは手を差し出した。
男は意外そうな顔をした。男は小瓶を出してきただが、それはまるで勿体ぶっているように渡してはくれなかった。
「何?お金がいるの?」
あたしは父から貰った初めてのお小遣いが入った袋を置いた。
「これだけあれば買える?」
これで買える?
お金であたしの欲しいものが買えるなら・・・。
「効果はなかった?」
「あったわ。だからこそまた欲しいの」
「あれは多用するものじゃないんだけどなぁ。前回ので効いたなら、それで良かっただろう」
「ダメなの。もう前みたいな生活に戻りたくないの。だから薬を頂戴」
あたしは叫ぶように言うと、男は顎に手を当て考えこんだ。
そして、しばらくしてから男は袋の中から金貨を一枚だけとりだした。
「これでいい」
そういうと金貨を懐に納め、小瓶の中から一粒取り出してあたしに渡した。
「これ、だけ・・・?」
一粒?たった一粒?
不安になる。
「それで十分だ。これはきっかけだけのものだ。きっかけができたからにはあとは自分を磨けばどうってことはない。あとは君次第なんだ」
紫色の粒を眺めた。
「これは飲み過ぎたらダメなんだ」
「でも・・・」
男は首を振った。
男の意思は変わらないようだった。
あたしは紫色の粒をその場で飲み込むと仕方なく帰った。
130
あなたにおすすめの小説
【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?
星野真弓
恋愛
十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。
だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。
そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。
しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――
婚約破棄されてイラッときたから、目についた男に婚約申し込んだら、幼馴染だった件
ユウキ
恋愛
苦節11年。王家から押し付けられた婚約。我慢に我慢を重ねてきた侯爵令嬢アデレイズは、王宮の人が行き交う大階段で婚約者である第三王子から、婚約破棄を告げられるのだが、いかんせんタイミングが悪すぎた。アデレイズのコンディションは最悪だったのだ。
(完結〉恐怖のギロチン回避! 皇太子との婚約は妹に譲ります〜 え? 私のことはお気になさらずに
にのまえ
恋愛
夏のおとずれ告げる王城主催の舞踏会。
この舞踏会に、婚約者のエスコートなく来ていた、公爵令嬢カサンドラ・マドレーヌ(18)は酔って庭園にでてきた。
酔いを冷ましながらバラ園の中を歩き、大昔国を護った、大聖女マリアンヌの銅像が立つ噴水の側で。
自分の婚約者の皇太子アサルトと、妹シャリィの逢瀬を見て、カサンドラはシャックを受ける。
それと同時にカサンドラの周りの景色が変わり、自分の悲惨な未来の姿を垣間見る。
私、一度死んで……時が舞い戻った?
カサンドラ、皇太子と婚約の破棄します。
嫉妬で、妹もいじめません。
なにより、死にたくないので逃げまぁ〜す。
エブリスタ様で『完結』しました話に
変えさせていただきました。
永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~
畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。
五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」
オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。
シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。
ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。
彼女には前世の記憶があった。
(どうなってるのよ?!)
ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。
(貧乏女王に転生するなんて、、、。)
婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。
(ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。)
幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。
最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。
(もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)
【完結】何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので魔法で言えないようにしてみた
堀 和三盆
恋愛
「ずるいですわ、ずるいですわ、お義姉様ばかり! 私も伯爵家の人間になったのだから、そんな素敵な髪留めが欲しいです!」
ドレス、靴、カバン等の値の張る物から、婚約者からの贈り物まで。義妹は気に入ったものがあれば、何でも『ずるい、ずるい』と言って私から奪っていく。
どうしてこうなったかと言えば……まあ、貴族の中では珍しくもない。後妻の連れ子とのアレコレだ。お父様に相談しても「いいから『ずるい』と言われたら義妹に譲ってあげなさい」と、話にならない。仕方なく義妹の欲しがるものは渡しているが、いい加減それも面倒になってきた。
――何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので。
ここは手っ取り早く魔法使いに頼んで。
義妹が『ずるい』と言えないように魔法をかけてもらうことにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる