【完結】わたしの大事な従姉妹を泣かしたのですから、覚悟してくださいませ

彩華(あやはな)

文字の大きさ
40 / 42

40.カルロ視点

しおりを挟む
 ー話は前に戻るー


 日が経つにつれ、僕はセイラに対する違和感が大きくなり、アフタル殿下に恥を忍んで聞いてみた。

 殿下は読みかけの本を閉じ机に置くと、ため息をつきながら呼び鈴を鳴らした。

「やっと気づいたのか」
「では・・・」
「悪いが、今からお前は療養期間にはいる」
「はい?」

 殿下の答えを聞く前に従者が入ってきて、僕は拉致られるように檻のある部屋に入れられた。

 あとはきついものだった。

 禁断症状というのだろうか。レイチェルに
会いたくて触りたくてしかたなかった。あの匂いに包まれたく、何度も叫んだ。
 でも部屋から出ることはできない。食事を持ってくる者に助けを求めても無視される。僕は一人もがき苦しんだ。

 それでも、ある時を境に自分の行動がおかしいものであったのではと、思うようになっていく。

 時おりくる白衣の男性が紙を見せてくる。

 レイチェルがどんないじめを受けたかを書いた紙。なぜそんなものを見せてくるんだ?と初めは思っていたが、次第に矛盾に気がついた。
 時系列があからさまにおかしい。

 なぜ気づいていなかったのだ。なぜ疑問にも思わず、当然のように信じていたのか?

 それに気づいた時、自分がセイラに行ってきた行いに愕然とした。

 あんなにまで愛おしく思っていた相手にひどい言葉をかけたのか?彼女を悲しませたことに罪悪感が込み上げる。

「やっとまともになったか?」

 アフタル殿下とシェリナ皇女殿下がやってきた。自分の症状の改善を見に来たのだろう。
 僕は柵を握りしめ殿下に聞いた。

「殿下!セイラにセイラに合わせてください。彼女に謝りたいのです」

 セイラに謝りたい。できることなら、元の関係に戻りたかった。
 そんな僕の気持ちに気付いたのだろう。シュリナ皇女殿下が冷たく言い放った。

「無駄ですわ。あなたとセイラの婚約はすでに破棄されました」
「えっ・・・」

  ーそんな・・・
      いつの間にそんなことになっていたのか・・・

 全身の力が抜け座り込む。

 そんな絶望感に打ちひしがれる僕にお二人はなおも追い討ちをかけた。

 自分の症状のこと。
 それにより、今の自分の立場がどうなったか。
 他のレイチェルの取り巻きたちの話。
 セイラと思っていた方の本当の名前と身分。そして、セイラが皇太子殿下の婚約者になったことーを。

 自分の愚かさにから笑いする。

 レイチェルを憎みたかった。

 それより、薬の特性を聞いて自分の心が弱かったことを一番憎くく思う。

 自分の大事だった者を自らの手で捨てたのだ。

 
 数日後、セイラの従姉妹というミシェル様が会いにくる。
 確かにセイラに似ていた。
 だが、目力が違う。セイラに比べ少しきつい雰囲気もする。

「やっとまともになったみたいね」
 
 言い方も違う。セイラはこんな言い方などしない。もっとやさしい。もっと柔らかだ。
もっと・・・。

「セイラに会いたい?」

 ミシェル様の言葉に僕は頷く。

「そう。じゃあ、一度だけ。ダンスパーティがあるから、シェリナ様とアフタル殿下の従者として参加しなさい。ただし声をかけないように」

 彼女はそれだけ言って去っていった。

 ー見るだけなんて


 ダンスパーティでアフタル殿下とシェリナ様の後ろにいた僕は入り口で、セイラに会えたと思い、ミシェル様に声をかけてしまう。  
 約束を破った僕に冷たい声を浴びせかけられた。
 僕はもう近づくことさえできず、セイラを遠目から見るしかない。

 美しいドレスをまとったセイラは綺麗だった。

 レイチェルが霞むくらい輝いててみえる。

 ミシェル様たちの断罪は僕にとって辛かった。
 僕の他にレイチェルの取り巻きたちもなんとか回復したもののそれぞれ後遺症と戦いながら過ごしていくという。それを聞くだけで苦しく思った。

 なのに当の元凶であるレイチェルの身勝手さ。支離滅裂な彼女の話を聞いていると、なぜこんな人のせいで自分の人生が狂わされてしまったのかと、泣きたくなった。
 
 僕はただ、終わるまで見ているだけ。

 連れていかれるレイチェルは自分の今を嘆くだけで僕に謝ることさえなかった。 

 レイチェルたちがいなくなったあと、ミシェル様が通る声でセイラたちに声をかけた。

「皇太子殿下、セイラ様。おめでとうございます」

 ミシェル様が首を垂れる。

 その瞬間、僕は自然と敬礼していた。

 皇太子殿下とセイラ様が皇帝という頂にたつ姿を僕は見た気がしたのだった。


しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

婚約破棄されてイラッときたから、目についた男に婚約申し込んだら、幼馴染だった件

ユウキ
恋愛
苦節11年。王家から押し付けられた婚約。我慢に我慢を重ねてきた侯爵令嬢アデレイズは、王宮の人が行き交う大階段で婚約者である第三王子から、婚約破棄を告げられるのだが、いかんせんタイミングが悪すぎた。アデレイズのコンディションは最悪だったのだ。

(完結〉恐怖のギロチン回避! 皇太子との婚約は妹に譲ります〜 え? 私のことはお気になさらずに

にのまえ
恋愛
夏のおとずれ告げる王城主催の舞踏会。 この舞踏会に、婚約者のエスコートなく来ていた、公爵令嬢カサンドラ・マドレーヌ(18)は酔って庭園にでてきた。 酔いを冷ましながらバラ園の中を歩き、大昔国を護った、大聖女マリアンヌの銅像が立つ噴水の側で。 自分の婚約者の皇太子アサルトと、妹シャリィの逢瀬を見て、カサンドラはシャックを受ける。 それと同時にカサンドラの周りの景色が変わり、自分の悲惨な未来の姿を垣間見る。 私、一度死んで……時が舞い戻った? カサンドラ、皇太子と婚約の破棄します。 嫉妬で、妹もいじめません。 なにより、死にたくないので逃げまぁ〜す。 エブリスタ様で『完結』しました話に 変えさせていただきました。

永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~

畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。

五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」 オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。 シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。 ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。 彼女には前世の記憶があった。 (どうなってるのよ?!)   ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。 (貧乏女王に転生するなんて、、、。) 婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。 (ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。) 幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。 最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。 (もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)

【完結】何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので魔法で言えないようにしてみた

堀 和三盆
恋愛
「ずるいですわ、ずるいですわ、お義姉様ばかり! 私も伯爵家の人間になったのだから、そんな素敵な髪留めが欲しいです!」  ドレス、靴、カバン等の値の張る物から、婚約者からの贈り物まで。義妹は気に入ったものがあれば、何でも『ずるい、ずるい』と言って私から奪っていく。  どうしてこうなったかと言えば……まあ、貴族の中では珍しくもない。後妻の連れ子とのアレコレだ。お父様に相談しても「いいから『ずるい』と言われたら義妹に譲ってあげなさい」と、話にならない。仕方なく義妹の欲しがるものは渡しているが、いい加減それも面倒になってきた。  ――何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので。  ここは手っ取り早く魔法使いに頼んで。  義妹が『ずるい』と言えないように魔法をかけてもらうことにした。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

処理中です...