3 / 6
3.
しおりを挟む
次の日には、屋敷中にカメリアの亡霊がでると、広まっていた。
僕たちの他にも屋敷の侍女やメイドも幾人か見ていた。
「気にするな。カメリアは死んだんだ。あれはシーツか何かだ」
そうだ。それしかない。
カメリアが死んでなお、現れるはずはない。
そう思うようにした。
たが、それは現れた。
悲鳴があがり、駆けつけてみると彼女はいる。
ほんの一瞬、僕を振り返る。
その顔はいつも微笑んでいた。
そして消えてゆく。
10日ほど経ち、わかった事があった。
彼女は夜中に出ること。
屋敷の中を彷徨い歩き、僕が彼女の姿を見つければ、すぐに消えると言う事だ。
僕が見つけない限り、姿を消さない。
ずっと、僕が気づくのを待っているかのようだった。
この事は、街中にも徐々に広がった。
メリッサも噂を聞きつけ、やって来た。
「お姉様の亡霊ですって!死んでも厄介な女だわ!!!」
厄介?
メリッサ、君はそう思っていたのか・・・。
その晩、メリッサは屋敷に泊まった。
「お義姉様に文句を言うのよ。ローランド様は私のものだと言ってやるわ」
私のもの?
なぜか嬉しくなかった。
どうしてだろうか・・・。
あんなにまで愛し合っていたと言うのに。
メリッサは私に一緒に寝ようと誘ってきたが、そんな気分になれず断った。
メリッサは文句を言ったが、仕方ないだろう。
応接室で二人で彼女が出るのを待つことにした。メリッサ一人が喋り続けた。
いつも、何を喋っていたのだろう・・・。
・・・そうか、僕はカメリアや家、仕事の小さな不満を言っていたのだ。メリッサに共感してもらえる事で、自分を正当化していたのだ。
深夜を回ったころ。
微かに物音がした。
廊下に出ると、音が少しだけ大きく聴こえてきた。
コト コト コト・・・
歩くような音が廊下に響く。
どこだ?
威勢のいい事を叫んでいたメリッサは怖気づいたのか、僕の背中を押すようにしてブルブル震えながら、歩いてついてきた。
三階へ行く階段の踊り場にある大窓の下に、彼女はいた。
窓から差し込む、月の光が白い彼女を照らしていた。
白い髪が月の光にキラキラと反射していた。
教会のステンドグラスに描かれている女神か、神託を受ける聖女を思わせた。
メリッサは彼女を見るなり、悲鳴をあげ走り去る。
彼女と視線があった。
昨日とまでとはうって変わって、悲しみに溢れていた。
ゆっくり顔を背けると薄くなり、やがて彼女は消えた。
知っていたのか・・・。
彼女は僕とメリッサの関係を知っていたのだと確信した。
メリッサは朝を待たずして帰って行った。
そのことにほっとした。
カメリアの顔が忘れられずにいた。
あまり寝られずにいる為か、時折うとうととする。
微睡むたびにカメリアが夢にでてきた。
花を抱え微笑む彼女。
プレゼントをあげれば目を細め喜ぶ姿があった。
思い出すのは彼女の笑みだけだった。
いつからだ、その笑みがなくなったのは・・・。
そうだ。メリッサと関係を持つようになってからは、見ていない。
どんな顔をしていた?
思い出せなかった。
ただ、旅行前に見せた笑みだけは思い出せた。
カメリアは微笑んでいた。
カメリア、君は何を思って、その微笑みを向けていた?
目が覚めると、僕は泣いていた。
彼女の笑顔がみたい・・・。
カメリアが死んで25日。彼女が現れてから24日。
「奥様、妊娠されていたのに、お可哀想に・・・」
食堂の前を通りかかった時、中から声が聞こえてきた。メイドたちが掃除をしているようだった。
「でも、よかったんじゃないの。奥様もあまり喜んでいらっしゃらなかったし。旦那様が浮気してたの知ってたみたいだしね」
「本当に事故かな?」
「自殺でしょう。
まぁ、どっちでもいいんじゃない?死んだんだし。死人に口無しよ。
旦那様も奥様が亡くなってよろこんでるんじゃないの?」
「だから奥様の幽霊がでるんじゃない?不気味だし、そろそろ辞め時かな?」
「かもね」
妊娠?
カメリアが?
死に顔を思い出していた。
美しい笑みをたたえた美しいカメリアの表情。
子供を身に宿していながら、あんな表情ができるのか?
ふらつきながら、執務室に帰る。
仕事の為にきた執事に聞く。
「カメリアは妊娠していたのか?」
「・・・・・・」
視線を逸らす。
無言。
答えないのが答えだった。
「・・・いつわかった?」
「旦那様が出張に行かれてすぐです」
「喜んでいたか?」
「・・・いえ、戸惑っておられました」
そうか・・・。
そうなのか・・・。
僕に、教えてもくれなかったのか。
一人で抱えて、逝ったのか。
言いたくなかったのか?
何を思っていたのか・・・。
僕は、それを聞いて、喜んだのだろうか・・・。
「カメリア・・・」
その夜、彼女に謝りたかった。
でも、自分の気持ちに整理がつかず、なにに対して謝りたかったのか分からず、最後まで言えなかった。
彼女はすっと、目を逸らし消えていった。
その日は、彼女の笑みを見る事はなかった。
僕たちの他にも屋敷の侍女やメイドも幾人か見ていた。
「気にするな。カメリアは死んだんだ。あれはシーツか何かだ」
そうだ。それしかない。
カメリアが死んでなお、現れるはずはない。
そう思うようにした。
たが、それは現れた。
悲鳴があがり、駆けつけてみると彼女はいる。
ほんの一瞬、僕を振り返る。
その顔はいつも微笑んでいた。
そして消えてゆく。
10日ほど経ち、わかった事があった。
彼女は夜中に出ること。
屋敷の中を彷徨い歩き、僕が彼女の姿を見つければ、すぐに消えると言う事だ。
僕が見つけない限り、姿を消さない。
ずっと、僕が気づくのを待っているかのようだった。
この事は、街中にも徐々に広がった。
メリッサも噂を聞きつけ、やって来た。
「お姉様の亡霊ですって!死んでも厄介な女だわ!!!」
厄介?
メリッサ、君はそう思っていたのか・・・。
その晩、メリッサは屋敷に泊まった。
「お義姉様に文句を言うのよ。ローランド様は私のものだと言ってやるわ」
私のもの?
なぜか嬉しくなかった。
どうしてだろうか・・・。
あんなにまで愛し合っていたと言うのに。
メリッサは私に一緒に寝ようと誘ってきたが、そんな気分になれず断った。
メリッサは文句を言ったが、仕方ないだろう。
応接室で二人で彼女が出るのを待つことにした。メリッサ一人が喋り続けた。
いつも、何を喋っていたのだろう・・・。
・・・そうか、僕はカメリアや家、仕事の小さな不満を言っていたのだ。メリッサに共感してもらえる事で、自分を正当化していたのだ。
深夜を回ったころ。
微かに物音がした。
廊下に出ると、音が少しだけ大きく聴こえてきた。
コト コト コト・・・
歩くような音が廊下に響く。
どこだ?
威勢のいい事を叫んでいたメリッサは怖気づいたのか、僕の背中を押すようにしてブルブル震えながら、歩いてついてきた。
三階へ行く階段の踊り場にある大窓の下に、彼女はいた。
窓から差し込む、月の光が白い彼女を照らしていた。
白い髪が月の光にキラキラと反射していた。
教会のステンドグラスに描かれている女神か、神託を受ける聖女を思わせた。
メリッサは彼女を見るなり、悲鳴をあげ走り去る。
彼女と視線があった。
昨日とまでとはうって変わって、悲しみに溢れていた。
ゆっくり顔を背けると薄くなり、やがて彼女は消えた。
知っていたのか・・・。
彼女は僕とメリッサの関係を知っていたのだと確信した。
メリッサは朝を待たずして帰って行った。
そのことにほっとした。
カメリアの顔が忘れられずにいた。
あまり寝られずにいる為か、時折うとうととする。
微睡むたびにカメリアが夢にでてきた。
花を抱え微笑む彼女。
プレゼントをあげれば目を細め喜ぶ姿があった。
思い出すのは彼女の笑みだけだった。
いつからだ、その笑みがなくなったのは・・・。
そうだ。メリッサと関係を持つようになってからは、見ていない。
どんな顔をしていた?
思い出せなかった。
ただ、旅行前に見せた笑みだけは思い出せた。
カメリアは微笑んでいた。
カメリア、君は何を思って、その微笑みを向けていた?
目が覚めると、僕は泣いていた。
彼女の笑顔がみたい・・・。
カメリアが死んで25日。彼女が現れてから24日。
「奥様、妊娠されていたのに、お可哀想に・・・」
食堂の前を通りかかった時、中から声が聞こえてきた。メイドたちが掃除をしているようだった。
「でも、よかったんじゃないの。奥様もあまり喜んでいらっしゃらなかったし。旦那様が浮気してたの知ってたみたいだしね」
「本当に事故かな?」
「自殺でしょう。
まぁ、どっちでもいいんじゃない?死んだんだし。死人に口無しよ。
旦那様も奥様が亡くなってよろこんでるんじゃないの?」
「だから奥様の幽霊がでるんじゃない?不気味だし、そろそろ辞め時かな?」
「かもね」
妊娠?
カメリアが?
死に顔を思い出していた。
美しい笑みをたたえた美しいカメリアの表情。
子供を身に宿していながら、あんな表情ができるのか?
ふらつきながら、執務室に帰る。
仕事の為にきた執事に聞く。
「カメリアは妊娠していたのか?」
「・・・・・・」
視線を逸らす。
無言。
答えないのが答えだった。
「・・・いつわかった?」
「旦那様が出張に行かれてすぐです」
「喜んでいたか?」
「・・・いえ、戸惑っておられました」
そうか・・・。
そうなのか・・・。
僕に、教えてもくれなかったのか。
一人で抱えて、逝ったのか。
言いたくなかったのか?
何を思っていたのか・・・。
僕は、それを聞いて、喜んだのだろうか・・・。
「カメリア・・・」
その夜、彼女に謝りたかった。
でも、自分の気持ちに整理がつかず、なにに対して謝りたかったのか分からず、最後まで言えなかった。
彼女はすっと、目を逸らし消えていった。
その日は、彼女の笑みを見る事はなかった。
221
あなたにおすすめの小説
【完結】幸せの終わり
彩華(あやはな)
恋愛
愛人宅で妻の死を聞いた僕。
急いで帰った僕は死んだ妻の前で後悔した。だが、妻は生きていた。
別人のように笑う妻に魅入られていく。
僕はいつしか・・・。
際どい場面こみのホラー的内容になっていますのでご注意ください。
*『亡くなった妻〜』の姉妹版に近いかもしれません。
別れ話をしましょうか。
ふまさ
恋愛
大好きな婚約者であるアールとのデート。けれど、デージーは楽しめない。そんな心の余裕などない。今日、アールから別れを告げられることを、知っていたから。
お芝居を見て、昼食もすませた。でも、アールはまだ別れ話を口にしない。
──あなたは優しい。だからきっと、言えないのですね。わたしを哀しませてしまうから。わたしがあなたを愛していることを、知っているから。
でも。その優しさが、いまは辛い。
だからいっそ、わたしから告げてしまおう。
「お別れしましょう、アール様」
デージーの声は、少しだけ、震えていた。
この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。
悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。
ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」
ぱんっ。
愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。
甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。
──え?
打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。
わたしはただの道具だったということですね。
ふまさ
恋愛
「──ごめん。ぼくと、別れてほしいんだ」
オーブリーは、頭を下げながらそう告げた。
街で一、二を争うほど大きな商会、ビアンコ商会の跡継ぎであるオーブリーの元に嫁いで二年。貴族令嬢だったナタリアにとって、いわゆる平民の暮らしに、最初は戸惑うこともあったが、それでも優しいオーブリーたちに支えられ、この生活が当たり前になろうとしていたときのことだった。
いわく、その理由は。
初恋のリリアンに再会し、元夫に背負わさせた借金を肩代わりすると申し出たら、告白された。ずっと好きだった彼女と付き合いたいから、離縁したいというものだった。
他の男にとられる前に早く別れてくれ。
急かすオーブリーが、ナタリアに告白したのもプロポーズしたのも自分だが、それは父の命令で、家のためだったと明かす。
とどめのように、オーブリーは小さな巾着袋をテーブルに置いた。
「少しだけど、お金が入ってる。ぼくは不倫したわけじゃないから、本来は慰謝料なんて払う必要はないけど……身勝手だという自覚はあるから」
「…………」
手のひらにすっぽりと収まりそうな、小さな巾着袋。リリアンの借金額からすると、天と地ほどの差があるのは明らか。
「…………はっ」
情けなくて、悔しくて。
ナタリアは、涙が出そうになった。
わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。
ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」
人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。
「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」
「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」
一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。
「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」
「……そんな、ひどい」
しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。
「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」
「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」
パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。
昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。
「……そんなにぼくのこと、好きなの?」
予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。
「好き! 大好き!」
リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。
「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」
パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、
「……少し、考える時間がほしい」
だった。
※この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。
──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。
ふまさ
恋愛
伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。
「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」
正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。
「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」
「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」
オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。
けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。
──そう。
何もわかっていないのは、パットだけだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる