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しおりを挟むカメリアが死んで83日。
「ローランド様。この街を出ましょう」
メリッサがやってきて、開口一番にそう叫んだ。
目の下には濃い隈ができていた。
首には幾つものゴテゴテしたネックレスをかけ、身体の至る所に怪しげな札を貼っていた。
魔除けだと言ったが、そんなものが効果があるのだろうか?
「なぜだ?」
「幽霊が出ると街中、有名になってるわ。屋敷の小間使いやメイドたちも辞めていってるそうじゃないの。こんなお化け屋敷にしがみつかなくてもいいじゃないの。
本当に義姉ながら迷惑だわ」
迷惑?
そんな事ない。
カメリアとの時間を思い出させてくれる。
笑い合ったこと。僕が失敗したのを慰めてくれたこともあった。
泣いた事もあった。
「僕はここから離れないよ」
離れない。
離れたく、ない。
カメリアがいたのだから。
「もう、お義姉さまは亡くなったのよ!私と一緒になりましょう。お義姉様なんて忘れましょう。私を思い出してよ!!」
カメリアと結婚して二年目、メリッサが屋敷にやってきた。
カメリアはわずかに眉を寄せていた。嫌悪感があった。
なぜ、そんな顔をするのかわからなかった。
メリッサは、明るくはきはきしていた。
カメリアと正反対と言ってもよかった。
穏やかな生活に入ってきた、騒がしさ。
一度それを知れば、穏やかさが物足りなく思えた。
メリッサからの誘いに乗ったのだ。
不貞はわかっていた。
わかっていたからこそ、スリリングな生活だった。
充実した毎日に思えた。
「ローランド様っ!」
でも、自分の求めていたものではない。
「お義姉様はいつも私をいじめてたの。あんな悪女は死んで良かったじゃない!
いつもウジウジして、根暗なおんなが、死んでもなお、あなたに縋って、私を追い詰めて、醜い女だわ。
いつまでも、あんな女に未練を残さないで!私を見て!!」
ウジウジ?根暗?
カメリアが虐め?
矛盾している。
第一・・・・・・。
あるわけないだろう。
するわけないだろう。
あのカメリアがそんな事をするはずはない。
ずっと一緒だったから知っている。
カメリアは心優しい女性だ!!
カメリアを貶めるな!!
「ローランド様、どうされたのですっ」
「メリッサ・・・・・・。君でもカメリアを悪く言うのは許さない」
「なによ。私と浮気をした時点でお義姉様はこの館の者たちから見放されてたわよ!」
パンッ
メリッサに手をあげていた。
「ローランド様・・・」
赤くなった頬を手で押さえていた。
自分の行いに唖然とした。
こんな事をするつもりはなかった。
でも、謝るつもりはなかった。
メリッサは泣きながら帰って行った。
これまでは、メリッサと一緒にカメリアの悪態をついても、どうも思わなかったのに・・・。
今は、カメリアの悪口に怒りが湧いた。
都合の良い自分が不気味な生き物に感じた。
「カメリアは肩身がせまかったのか?」
執事に聞いた。
彼は少しの間、黙っていた。そして、ゆっくりと口を開く。
「確かに、そういった面もございました。奥様はメリッサ様との事を、知っておりました。ですが、知らないふりをしておいででした。・・・旦那様を愛しておいででした」
僕はなにも知ろうとしていなかった。
カメリアは何を思っていたのか?
僕は何をしていた?
その夜、彼女は庭にいた。
月が冷たく輝いていた。
吐く息が白い。
夜露に濡れた草花が月の光で輝いていた。
寒さで、かじかみそうな手を擦り合わせた。
以前なら、カメリアの冷たい手を握り合い、互いに温め合った。温かな息をかけ、二人で笑っていた。
今は、もうその手に触れることができない。
彼女は今日も僕に微笑み、消えていった。
寂しかったー。
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