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「旦那様、お休みになってください」
執事が執務中に声をかけてきた。
「大丈夫だ」
「あまり、眠っておられませんよね」
確かに、睡眠は浅い。
寝ても、すぐに起きてしまう。
だが、眠くはない。
寝ても覚めても、カメリアのことばかり考えている。
もう、カメリアの声も聞くことさえないのに、彼女を追っている自分がいた。
「旦那様。不躾なことだと思いますが、霊媒師を呼びましょう。そして、ゆっくり奥様には眠りについてもらいましょう」
何を言っている。
「このままでは、旦那様のお身体に触ります」
執事は鏡を持ってきた。
変わらない自分の顔が映るだけ。
「酷い隈です」
そうか?
自分ではわからない。
変わらなく思える。
「大丈夫だ。・・・霊媒師もいらない・・・」
彼女に会えなくなるなんて、嫌だ。
カメリアが死んで92日。
彼女は、椿の花の下にいた。
最近は庭で見ることが多かった。
庭は雪化粧している。
足跡一つない白銀の世界はこの世でないかのように美しかった。
月の光が真っ白な雪の粒をキラキラと輝かせていた。
白い世界に広がる椿の濃い緑の葉と紅い花びら。黄色い花芯が赤色を際立たせている。
カメリアの花。
彼女の花だ。
細い指が、そっと花に触れる様子があまりにも美しかった。
カメリアに触れたい。
あの肌に。
あの指に。
あの頬に。
あの髪に。
叶わない願い。
遅すぎた想いー。
明日で、彼女が現れ出して、100日になる。
カメリアと約束した、100日。
100日と言う日数は大事なものだった。
カメリアから東方の昔話に、恋を叶える為に100日通いつめた百日通いの話があると聞いた。
だから、カメリアのもとに通った。
話では99日まで会いに行き、そこで息絶えたと・・・。
僕は100日通い詰め、その恋を叶えた。
だが、それは潰えてしまった。
僕は探す。
彼女の姿を。
椿の花のように儚く散ろうとする彼女を。
探し回った。
彼女は、橋の上にいた。
水の流れをじっと眺めている。
彼女は何を考えている?
「カメリア」
彼女は振り向く。
その眼差しは、優しかった。
『お幸せに』
彼女の口が動いた。
言葉として発せられていなかったが、そう僕には聞こえた。
そして・・・、彼女は消えた。
今日で、99日。
彼女は最後の恋のために、僕の元にきていたのか・・・。
虚しさが込み上げてくる。
嫌だ。
嫌だ。
もう会えないなんて・・・。
いやだ。
その場で泣いた。
東の空がしらみはじめた。
君のいないこの世界に、なんの価値があるのだろうか?
僕は彼女が消えた橋の上から、川を覗いた。
カメリアが死んだ場所。
ここでカメリアは眠っていた。
もしかするとカメリアがいるのではと思った。
川面に映るのは、自分の姿しかない。
でも・・・。
カメリアは確かにそこにいた。
美しい顔で。
微笑んでいた。
確かにここにいたのだ。
僕は手を伸ばした。
カメリア。
僕を置いていかないでくれ。
身を乗り出し過ぎて、僕はー・・・。
僕の耳元で、カメリアの声が聴こえた気がした。優しい手が僕の頬に触れた気がした。
甘い吐息を感じた気がした・・・。
ーこれでずっと、一緒にいられるわねー
カメリアは笑っていた。嬉しそうにー。
そうだ。ずっと、一緒にいられる・・・。
カメリア、君と共にずっと・・・。
*******
次の日の朝刊に記事が大々的に載った。
『ローランド•ウィスラルド伯爵自殺か?
亡き妻の姿を追ったのか?妻の死で精神を病んでいた?それとも妻の愛憎の執念か?』
そして、もう一つの記事がその片隅に小さく載っていた。
『亡きカメリア•ウィスラルド伯爵夫人の妹メリッサ•アルゼルト子爵令嬢、自宅のバルコニーから転落し死亡。「お義姉様が追いかけてくる!」と叫び身を投げた!?ローランド・ウィスラルド伯爵と不倫の末、亡き姉の呪いか?』
と。
ー真実は、誰も知らないー。
ーおわりー
◇◇◇◇◇
~補足まで~
作中の『百通い』ですが、小野小町の逸話である百夜通いをもとにしております。
詳しく知りたい方は、ぜひお調べください。
執事が執務中に声をかけてきた。
「大丈夫だ」
「あまり、眠っておられませんよね」
確かに、睡眠は浅い。
寝ても、すぐに起きてしまう。
だが、眠くはない。
寝ても覚めても、カメリアのことばかり考えている。
もう、カメリアの声も聞くことさえないのに、彼女を追っている自分がいた。
「旦那様。不躾なことだと思いますが、霊媒師を呼びましょう。そして、ゆっくり奥様には眠りについてもらいましょう」
何を言っている。
「このままでは、旦那様のお身体に触ります」
執事は鏡を持ってきた。
変わらない自分の顔が映るだけ。
「酷い隈です」
そうか?
自分ではわからない。
変わらなく思える。
「大丈夫だ。・・・霊媒師もいらない・・・」
彼女に会えなくなるなんて、嫌だ。
カメリアが死んで92日。
彼女は、椿の花の下にいた。
最近は庭で見ることが多かった。
庭は雪化粧している。
足跡一つない白銀の世界はこの世でないかのように美しかった。
月の光が真っ白な雪の粒をキラキラと輝かせていた。
白い世界に広がる椿の濃い緑の葉と紅い花びら。黄色い花芯が赤色を際立たせている。
カメリアの花。
彼女の花だ。
細い指が、そっと花に触れる様子があまりにも美しかった。
カメリアに触れたい。
あの肌に。
あの指に。
あの頬に。
あの髪に。
叶わない願い。
遅すぎた想いー。
明日で、彼女が現れ出して、100日になる。
カメリアと約束した、100日。
100日と言う日数は大事なものだった。
カメリアから東方の昔話に、恋を叶える為に100日通いつめた百日通いの話があると聞いた。
だから、カメリアのもとに通った。
話では99日まで会いに行き、そこで息絶えたと・・・。
僕は100日通い詰め、その恋を叶えた。
だが、それは潰えてしまった。
僕は探す。
彼女の姿を。
椿の花のように儚く散ろうとする彼女を。
探し回った。
彼女は、橋の上にいた。
水の流れをじっと眺めている。
彼女は何を考えている?
「カメリア」
彼女は振り向く。
その眼差しは、優しかった。
『お幸せに』
彼女の口が動いた。
言葉として発せられていなかったが、そう僕には聞こえた。
そして・・・、彼女は消えた。
今日で、99日。
彼女は最後の恋のために、僕の元にきていたのか・・・。
虚しさが込み上げてくる。
嫌だ。
嫌だ。
もう会えないなんて・・・。
いやだ。
その場で泣いた。
東の空がしらみはじめた。
君のいないこの世界に、なんの価値があるのだろうか?
僕は彼女が消えた橋の上から、川を覗いた。
カメリアが死んだ場所。
ここでカメリアは眠っていた。
もしかするとカメリアがいるのではと思った。
川面に映るのは、自分の姿しかない。
でも・・・。
カメリアは確かにそこにいた。
美しい顔で。
微笑んでいた。
確かにここにいたのだ。
僕は手を伸ばした。
カメリア。
僕を置いていかないでくれ。
身を乗り出し過ぎて、僕はー・・・。
僕の耳元で、カメリアの声が聴こえた気がした。優しい手が僕の頬に触れた気がした。
甘い吐息を感じた気がした・・・。
ーこれでずっと、一緒にいられるわねー
カメリアは笑っていた。嬉しそうにー。
そうだ。ずっと、一緒にいられる・・・。
カメリア、君と共にずっと・・・。
*******
次の日の朝刊に記事が大々的に載った。
『ローランド•ウィスラルド伯爵自殺か?
亡き妻の姿を追ったのか?妻の死で精神を病んでいた?それとも妻の愛憎の執念か?』
そして、もう一つの記事がその片隅に小さく載っていた。
『亡きカメリア•ウィスラルド伯爵夫人の妹メリッサ•アルゼルト子爵令嬢、自宅のバルコニーから転落し死亡。「お義姉様が追いかけてくる!」と叫び身を投げた!?ローランド・ウィスラルド伯爵と不倫の末、亡き姉の呪いか?』
と。
ー真実は、誰も知らないー。
ーおわりー
◇◇◇◇◇
~補足まで~
作中の『百通い』ですが、小野小町の逸話である百夜通いをもとにしております。
詳しく知りたい方は、ぜひお調べください。
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