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本編
No,35 【シルヴィオ陛下SIDE XIII】
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―――……妾がかけた呪いを解くためには、犠牲が必要だった……
―――……それは、生命を賭けた愛情だ……己の全てを投げ打つ覚悟だ……
―――……妾の負けだ……盟約通り、永遠に我が呪いを封印しよう……
※ ※ ※
意識の底で、クリュヴェイエ様の“お声”が聴こえた。
詳しく問う事はしなくても、理解した。
クリュヴェイエ様は、こんな瞬間をずっと永い間、待っておられたのだ。
待ち望んでおられたのだ。
呪いを解呪する人間の出現を。
『盟約通り』と云うお言葉で良く理解る。
いつかの時の為に、自らに誓いをたてていた事が。
いつの日か、呪いを封印する事を決めていた事が。
『負け』とおっしゃりながら、そのお声は清々しいものだったから。
―――……その通りだ。
「クリュヴェイエ様…っ、…ありがとうございました…!
…本当に、ありがとうございました…っ!!
言葉には尽くせない程、感謝しております…っ!!」
―――……礼には、及ばん。
―――全ては我が夫と、長男の不始末によるもの。
―――そうして、ジェミニアーノを諌める事が出来なかった、妾の不始末。
―――……こちらこそ、礼を言いたい気分だ……
「そのような勿体ないお言葉、かたじけのうございます…っ!」
―――妾の真の姿はあまりに巨大過ぎて、人間の世に顕現する事が適わぬ。
―――ゆえに、ベルナルディーノに行かせたが。
「はい…っ、…ご配慮下さり、ありがとうございました…っ!」
―――……本来ならばレヴィに直に謝罪がてら、つかわせたかったのだが……
…………………
―――……許せ。
「…! 充分でございます…っ、…どうか、お気になさらずに…っ」
―――……そなたのような皇帝がおる事を、嬉しく思う。
―――そなたに免じて、フォルトゥニーノと歴代の神子達の魂を解放しよう。
―――天に還り、時が経てば然るべき時期に無事に転生が適うであろう。
「……っ!」
あまりの歓喜に、意識体が震えた。
―――神聖ブリュール皇国に、神々の母にして、宇宙の根源たるクリュヴェイエの祝福を。
そんなお言葉と共に、クリュヴェイエ様の気配が薄れ。
そうして、消失した。
※ ※ ※
「…陛下…陛下…聞こえますか…?」
愛しい声に意識が浮上すれば。
間近に、黒蝶石の瞳が、私を見つめていた。
「…ナツキ、ナツキ…ッ、…もう二度と離さぬ…っ!!」
もう気持ちを隠さなくとも良いのだ。
思うままに振る舞っても良いのだ。
私は思いの丈を込めて、力一杯抱きしめた…っ!
眼を白黒させているナツキは、とても可愛くて。
ずっと呼んで欲しかった愛称呼びをねだった。
この場で押し倒し、接吻しない私の理性を褒めて欲しい。
そんな私を容赦なくぶった切ってくれたのは、フレドだった。
しかし、それも仕方がない。
見れば、ベルナルディーノ様がおいでになっていらっしゃるのだから。
私が迷わず平伏すれば、フレドも隣で同じようにしている。
そうして。
『…いや…それよりも、その者は長い間、苦しんで参った…
…その分も、末永う幸せにな…
…私から、このブリュール皇国と我が名を冠する都と…そなたら夫婦に祝福を授けよう…』
ベルナルディーノ様からのお言葉を頂いた。
既にクリュヴェイエ様からの祝福を頂戴しているのだが。
我ら夫婦を祝福して頂くのは、初めてになる。
嬉しくて、平伏しているのを良い事に、遠慮なくニヤける。
その間にも、群衆から歓喜の歓声が湧き上がる。
無理もない。
女神から、直接の祝福を授けられたのだから。
広場に詰めかけた民衆の歓喜の声は地鳴りのように鳴り響き。
しばらく止む事はなかったのだった。
※ ※ ※
長い間、昏睡状態だったと云う私の身体は、魔法による攻撃の傷も含めてすっかり完治していた。侍医は『女神の奇跡』と言ったが、ベルナルディーノ様によるものよりも、クリュヴェイエ様の御力によるものが大きいだろう。
その後、無事にダリオは襲撃者を捕えた。
聞けば、ペッレグリーノの間諜で、命令違反で始末された筈の男であった。
ナツキを誘拐し、ペッレグリーノに連れ去る役目を担っていた筈が、ナツキを殺そうと企んだと言うのだから、決して楽には死なせん。ナツキがどんな目にあったかは、彼女の意識を読んだから、大体の事は把握し理解している。よくぞ無事に戻ってきてくれた。ダリオとダミアーノには、特別報奨も考えねばならん。それに反して近衛兵達は猛特訓が必要だ。人間と獣人と云う違いはあるが、もしもの時に役に立たないようでは騎士失格だ。
念願だった姫抱っこをして。
膝の上で心ゆくまで愛でて。
繰り返し繰り返し、接吻をして。
誘うように寝椅子で押し倒すが、顔色が冴えない。
ナツキの憂いを全て取り払う為に、私はペッレグリーノに関する全ての事情を。
【レヴィの神子】に対する呪いと、神話の裏側の真実を。
そうして。
異世界のナツキの、真の御母堂と御尊父の事情を打ち明けたのだった。
―――……それは、生命を賭けた愛情だ……己の全てを投げ打つ覚悟だ……
―――……妾の負けだ……盟約通り、永遠に我が呪いを封印しよう……
※ ※ ※
意識の底で、クリュヴェイエ様の“お声”が聴こえた。
詳しく問う事はしなくても、理解した。
クリュヴェイエ様は、こんな瞬間をずっと永い間、待っておられたのだ。
待ち望んでおられたのだ。
呪いを解呪する人間の出現を。
『盟約通り』と云うお言葉で良く理解る。
いつかの時の為に、自らに誓いをたてていた事が。
いつの日か、呪いを封印する事を決めていた事が。
『負け』とおっしゃりながら、そのお声は清々しいものだったから。
―――……その通りだ。
「クリュヴェイエ様…っ、…ありがとうございました…!
…本当に、ありがとうございました…っ!!
言葉には尽くせない程、感謝しております…っ!!」
―――……礼には、及ばん。
―――全ては我が夫と、長男の不始末によるもの。
―――そうして、ジェミニアーノを諌める事が出来なかった、妾の不始末。
―――……こちらこそ、礼を言いたい気分だ……
「そのような勿体ないお言葉、かたじけのうございます…っ!」
―――妾の真の姿はあまりに巨大過ぎて、人間の世に顕現する事が適わぬ。
―――ゆえに、ベルナルディーノに行かせたが。
「はい…っ、…ご配慮下さり、ありがとうございました…っ!」
―――……本来ならばレヴィに直に謝罪がてら、つかわせたかったのだが……
…………………
―――……許せ。
「…! 充分でございます…っ、…どうか、お気になさらずに…っ」
―――……そなたのような皇帝がおる事を、嬉しく思う。
―――そなたに免じて、フォルトゥニーノと歴代の神子達の魂を解放しよう。
―――天に還り、時が経てば然るべき時期に無事に転生が適うであろう。
「……っ!」
あまりの歓喜に、意識体が震えた。
―――神聖ブリュール皇国に、神々の母にして、宇宙の根源たるクリュヴェイエの祝福を。
そんなお言葉と共に、クリュヴェイエ様の気配が薄れ。
そうして、消失した。
※ ※ ※
「…陛下…陛下…聞こえますか…?」
愛しい声に意識が浮上すれば。
間近に、黒蝶石の瞳が、私を見つめていた。
「…ナツキ、ナツキ…ッ、…もう二度と離さぬ…っ!!」
もう気持ちを隠さなくとも良いのだ。
思うままに振る舞っても良いのだ。
私は思いの丈を込めて、力一杯抱きしめた…っ!
眼を白黒させているナツキは、とても可愛くて。
ずっと呼んで欲しかった愛称呼びをねだった。
この場で押し倒し、接吻しない私の理性を褒めて欲しい。
そんな私を容赦なくぶった切ってくれたのは、フレドだった。
しかし、それも仕方がない。
見れば、ベルナルディーノ様がおいでになっていらっしゃるのだから。
私が迷わず平伏すれば、フレドも隣で同じようにしている。
そうして。
『…いや…それよりも、その者は長い間、苦しんで参った…
…その分も、末永う幸せにな…
…私から、このブリュール皇国と我が名を冠する都と…そなたら夫婦に祝福を授けよう…』
ベルナルディーノ様からのお言葉を頂いた。
既にクリュヴェイエ様からの祝福を頂戴しているのだが。
我ら夫婦を祝福して頂くのは、初めてになる。
嬉しくて、平伏しているのを良い事に、遠慮なくニヤける。
その間にも、群衆から歓喜の歓声が湧き上がる。
無理もない。
女神から、直接の祝福を授けられたのだから。
広場に詰めかけた民衆の歓喜の声は地鳴りのように鳴り響き。
しばらく止む事はなかったのだった。
※ ※ ※
長い間、昏睡状態だったと云う私の身体は、魔法による攻撃の傷も含めてすっかり完治していた。侍医は『女神の奇跡』と言ったが、ベルナルディーノ様によるものよりも、クリュヴェイエ様の御力によるものが大きいだろう。
その後、無事にダリオは襲撃者を捕えた。
聞けば、ペッレグリーノの間諜で、命令違反で始末された筈の男であった。
ナツキを誘拐し、ペッレグリーノに連れ去る役目を担っていた筈が、ナツキを殺そうと企んだと言うのだから、決して楽には死なせん。ナツキがどんな目にあったかは、彼女の意識を読んだから、大体の事は把握し理解している。よくぞ無事に戻ってきてくれた。ダリオとダミアーノには、特別報奨も考えねばならん。それに反して近衛兵達は猛特訓が必要だ。人間と獣人と云う違いはあるが、もしもの時に役に立たないようでは騎士失格だ。
念願だった姫抱っこをして。
膝の上で心ゆくまで愛でて。
繰り返し繰り返し、接吻をして。
誘うように寝椅子で押し倒すが、顔色が冴えない。
ナツキの憂いを全て取り払う為に、私はペッレグリーノに関する全ての事情を。
【レヴィの神子】に対する呪いと、神話の裏側の真実を。
そうして。
異世界のナツキの、真の御母堂と御尊父の事情を打ち明けたのだった。
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