傲慢溺愛王子様は僕を孕ませたいらしい

鳥羽ミワ

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17 第三の男

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 フラエは浮かれていた。騎士団時代の同期が(騎士団にいた頃は、割とどうでもよかった人なのだが)友達になろう、と提案してきたので、フラエはそれをのんだ。彼は人から真っ直ぐな好意を向けられると、すぐ絆される。

「ディールは成長したんだな」

 あんなに僕のことを馬鹿にして……煽って……魔力を見せびらかしていたのに……としみじみするフラエに、ディールは顔を赤くした。

 フラエには関係ないことなのだが、最近のグノシス王子といえば、王宮騎士団に入ったらしい。日々訓練に真面目に励んでいるとのことだ。まだ十代の見習い騎士たちと並んで基礎訓練を受けている、というまことしやかな噂は、フラエには関係ないことなのだ。
 ディールは研究所担当の文官ということもあり、フラエの職場で会う機会もそれなりに多かった。時には食事をともにすることもあり、彼とフラエの「友達付き合い」は順調と言えた。

「フラエはさ、ヘイリー卿のこと、どう思ってるの?」
「友達」

 即答するフラエ。噂好きのミジーが、わざわざ自分の机で休憩中のフラエの元へやってきて尋ねたのだ。その声に、向こうの島のミスミがこちらへ振り向く。まだ昼休みではないのだが、たまたまこの日は皆、やることが既に終わっていた。

「……友達って距離感、かな」

 疑問を呈するミジーに、「近すぎるよな」とミスミが首を突っ込んできた。ミスミはディールのことが気に食わないらしく、たびたびフラエと彼が二人きりになるのを厭う。

「ミスミ、なんでそんなにヘイリー卿に当たりが強いの?」

 からかうようなミジーの声色に、ミスミは「なんかいけすかないんだよ」と顔をしかめ、頭を掻いた。

「ヘイリー卿の目、なんか……その……熱っぽくないか?」

 手をわきわき動かしながら、彼は言葉を選んでいるようだった。

「友達に向ける目か? アレが?」
「そりゃ、アンタ……」

 恋愛の話題の気配にミジーの声が弾む。フラエは雰囲気が怪しいのをそれとなく察し、逃げる算段をつけはじめた。フラエは本当に、ディールのことは何とも思っていない。だからこそ彼との関係を噂されるのは、いくら親しい同僚とはいえ気まずかった。

「フラエ?」

 なんとなく居心地悪そうな彼に気づいたのか、ミジーは少し申し訳なさそうな顔になる。「私、はしゃぎすぎちゃったかも」と肩をすくめた。

「ごめんね」
「ううん、いいよ」

 フラエがミジーを許す。ミスミは脚を組み、唸っていた。通りすがりのギックが小声で「色目つかいやがって」と毒づく。それにミジーが目を釣り上げて向かっていく。

「ちょっと、こっちに来なさい」

 怒り肩のミジーに、廊下へ連行されるギック。それを見送るフラエに、どこからともなくカシエが声をかける。

「リンカー、ちょっと」

 突然声をかけられ、驚いて椅子からわずかに浮くフラエに加え、ミスミも驚いて椅子から落ちかけた。二人の大袈裟な驚きように、彼は苦笑する。ごめん……と謝る二人に、「いいっていいって」と彼は温厚に言う。

「ヘイリー卿、来てたよ。声かけなくていいの?」

 それを聞いて、フラエは「カシエも?」とげんなりした。あまりにも顔に出ていたのか、「ごめんね……」と特に特徴のない、善良そうな顔立ちの彼はすまなさそうに頬を掻く。

「でも、仲はいいんだろう? エイラさんも言ってたよ、騎士団で元同期だったんだって?」

 その時、生体研究室の扉が開く。ちょうど職員全員の視線がそちらへ向けられ、一斉に注目を浴びたディール=ヘイリーが気まずそうにした。そして誰かの姿を探し、辺りを見渡す。

「リンカー研究員に用事が」
「ディール」

 フラエは立ち上がり、ミスミとカシエの間を抜けてディールの方へ寄る。彼はフラエの姿を認めて微笑み、廊下に出つつ「一緒にご飯、食べよう」と誘った。

「昼?」
「うん」

 フラエとディールは並んで歩き、食堂へと向かう。相変わらず質素な食事が乗ったトレーをとり、机に向かい合って座る。食べ始める前に、「ディールはそれで足りるの?」とフラエがふと尋ねた。彼は「足りるさ」と微笑む。

「胸がいっぱいで」
「お腹は……?」

 首を傾げるフラエに、ディールは切なそうに目を細めた。そのフラエの隣に、いつのまにかやってきたミスミがトレーを起く。そして人好きのする笑みで、「俺もご一緒していいですか」とディールに尋ねた。

「……それは、もちろん、いいですよ」

 有無を言わせないミスミに、ディールの顔が少し引き攣る。フラエは気にした風もなく、パンをちぎって口に入れた。そしてディールも無言で食事を始め、つられてミスミも無言になった。周りの職員たちは気まずくて、むしろ饒舌になる。

「グノシス殿下が騎士団に入ったって、本当なのかな」

 ぴくり、とフラエの手が止まる。

「騎士団の知り合いはマジって言ってたよ」
「あの方が十代の見習いに混じって素振りしてんの?」
「そういえば、事務の友達も言ってた。いきなり入団を申し出たんだって」

 緑の瞳がわずかに揺らいだ。フラエの向かいに座っているディールが、そっと彼の様子を窺う。彼らは動揺するフラエに気づかず、噂話を続けた。

「なんでいきなり。これまで散々そういうのから逃げ回ってたのに」
「そりゃ、……」
「こないだの発表会で……」
「ねぇ……」

 視線が、一斉にフラエに向けられる。フラエが彼らを睨み返すと、皆そそくさと食事に戻った。ふん、と鼻を鳴らすフラエに、「フラエさぁ」とミスミが話しかけた。食事中の発言にぎょっとするディールに構わず、「うん。何?」とフラエは食事の手を止める。

「グノシス殿下のこと、嫌い?」
「うん」

 即答するフラエに、ミスミは「そっか」と気のない返事をする。不敬罪、という指摘を全員が忘れるほど、あっさりした答えだ。

「じゃ、ヘイリー卿は?」
「好き」

 ぴく、とディールの指が跳ねる。それを後目で見ながらミスミが「友達として?」と尋ねると、フラエは頷いた。

「もちろん。友達としてだよ」

 ディールは熱っぽい瞳でフラエを見つめている。ミスミは彼を一瞥して、かなり意地悪な質問をするか悩んだ。フラエはグノシスとヘイリー、どちらがより好きなのだろう。
 さすがにそこまで俺も性格悪くないな、とミスミはその質問をやめた。そう質問してしまえば、フラエもきっと傷つくだろうことは、予想に難くないのだし。

 それはそれとして、と、フラエに蕩けるような笑みを浮かべるヘイリーを見る。コイツもろくでもない奴だ、と目を細めた。
 熱心にフラエのもとへ通い、あからさまな態度を取る彼。意識的かは知らないが、フラエの外堀は確かに、ディール=ヘイリーによって埋められつつある。
 フラエが外堀を埋められた程度でどうにかなるタマとは、ミスミは全く思わない。でも、つらいだろうなとは思う。
 フラエにはもう「王子様」がいるのに。グノシスの名前を聞くたびに切ない顔をする、かわいい友人。その背中を、ミスミは「お前はそうだよな」と叩いた。
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