傲慢溺愛王子様は僕を孕ませたいらしい

鳥羽ミワ

文字の大きさ
18 / 22

18 幕間:グノシスの採用面接

しおりを挟む
 散歩と称して王立研究所付近をうろついていたグノシスは、王宮に戻ってすぐ王宮騎士団への入団を希望した。あまりにも突然な要望に、急遽騎士団長と王太子、グノシスの三者面談が開かれることとなった。国王は出席の意思を示したが、公務のために欠席である。

 グノシスは椅子にふんぞりかえり、「王族としての責務を果たす心づもりが決まったのだ」としらじらしく述べる。それはあくまで建前であり、本当の理由が別にある。そう確信したダリアスと騎士団長は、顔を見合わせた。ダリアスに至ってはうっすら彼の本音を察してすらいた。

 また、彼が王立研究所の研究員に入れあげているのは、王宮内の公然の秘密である。

 ダリアスは彼の恋愛相談にのっていたし、彼という歪んだ鍋にはフラエという大らかな蓋が必要だと確信している。
 従って特に深入りせず、いいんじゃないか? と適当なタイミングで認める準備を整えはじめた。グノシスにはフラエに認められる努力をして、さっさと彼の心を手に入れてほしい。

「どうして、今になって騎士団に入ろうと? もちろん歓迎はいたしますが」

 戸惑った様子の騎士団長に、妙なところで素直なグノシスがあっさり白状する。

「実は、好いた人に『あなたが真っ当な人に変わらない限り、お付き合いを考えられない』と言われたのだ」

 フラエがここにいれば、「そんなことは言っていません」「都合のいいように考えないでください」と白い目で咎めただろう。しかしここに彼はいないので、ダリアスは、多少なりとも彼らに進展があったのだろうと内心微笑んだ。

 騎士団長は、暗にグノシスへ「あなたは真っ当ではない」と言い放ったらしい、噂の彼の思い人へ思いを馳せた。

「……つまり、色恋沙汰であると。そのような理由での入団は、許可できません」

 当然ながら厳格な彼は、そんな浮かれた理由を許さない。彼は厳めしい表情で「殿下」と改めてグノシスに向き直る。

「恐れながら申し上げます。我らの務めというものは、生半可な覚悟で務まるものではございません。また王族であろうとも、我々と同様の訓練を受けていただきます」

 王宮騎士団は、国境警備に当たる諸騎士団以上に過酷な訓練を科すことで有名だ。国の中央部を守り、また地方へ赴き、現地の騎士団では手に負えないダンジョンを攻略するのが彼らの務めである。

「ダンジョン攻略の際、殿下に遠方への遠征へ参加していただくこともあるでしょう。警護には万全を期すとはいえ、時には大きな危機に瀕することもあり得ます」

 それでも入団を希望するのか? と、老練の騎士は実直に問いかける。

「騎士団とは、色恋に浮かれて入る場所ではございません」

 強い諫言で締め括った騎士団長に、内心ダリアスは同意せざるを得なかった。しかし、それではグノシスは何も変われない。何かしらのきっかけがなければ、彼は奔放で愚かな王子のままだ。

「……それでもだ」

 ダリアスの思惑をよしに、グノシスは膝に置いた手へ力を込めた。騎士団長を真っすぐに見据える。彼は絞り出すように、本心を告白した。

「確かに私は、好いた人のために、騎士団に入ろうとしている」

 あまりにも愚直な告白だった。幼い頃から王子たちを見守ってきた騎士は、グノシスを「殿下」と、僅かに咎める声色で呼んだ。それを振り切るように彼は続ける。

「私が好いた人は、あなたのために変わってみせると言う私に、『酢になった酒は酢のまま』と言った」

 恐らく、堕落しているグノシスは堕落したまま変われるわけがない、という意図の言葉である。臣下が王族にかけるとは思えない辛辣な言葉だ。
 忠誠心に厚い騎士は眉をひそめたが、ダリアスは内心、拍手喝采をフラエに送った。それくらい遠慮容赦ない性格でなければ、この服を着た傲岸不遜とは付き合えない。

「彼は、私が深い傷をつけてしまったために、私は変わることができると信じられないのだ」

 グノシスは悔いるように告白する。普段の彼からあふれる根拠のない自信は、すっかりなりをひそめていた。

「散々傷つけ、振り回した。それでも私は、彼を手に入れたい」

 そして背筋を伸ばして胸を張り、真っ直ぐ、懇願する瞳を騎士団長へ向ける。

「男として、……人として、立派な人物になりたい。頼む」

 どこまでも私利私欲だ。結局のところ、彼はフラエに認められたいがために騎士団への入団を希望している。
 しかしそれは、わがまま放題に暴れ回っていた王子が、王家に忠誠を誓う騎士へと初めて聞かせた、自分を省みる言葉だった。

 しばらくの沈黙。騎士団長は柔らかく目元を緩め、掌で膝を強く叩いた。小さく、覚悟を決められたのですな、と呟く。そして、「王宮騎士団の訓練は、かなり過酷なものです」と改めて念を押し、グノシスの目を見た。

「殿下に対してであっても、我々は容赦しません。あなたは、あなたよりも若い新人に混じり、基礎から心技体を鍛えることとなります」
「なんでもいい。私は、変わりたい」

 誠実な老騎士は、さらに踏み込む。

「殿下の思い人が、それで確実に殿下へ振り向かれるという保証はありません。それはその方のお心次第です。仮に思いが通じ合ったとして、あなたと思い人が結ばれることは、ないかもしれない」

 不都合な真実を真摯に突きつける彼に、ダリアスは唸って腕組みをした。しかし、「構わない」とグノシスは即答する。

「少なくとも私が行動しなければ、何も始まらない」

 その言葉に、騎士団長は深く頷いた。大きゅうなられましたな、と彼がこぼした言葉は、どこか温かい響きを持っていた。

「善行はその日に行え、と言います。今から訓練の見学にいらっしゃいますか?」
「ああ。よろしく頼む」

 グノシスは頷いて立ち上がり、騎士団長もそれに続いた。二人は部屋を出ていき、残されたダリアスは天井を見つめる。

 仮にフラエとグノシスの思いが通じ合ったとして、彼らが婚姻関係に至ることが非常に難しいのは事実だ。ダリアスは四人の弟たちに甘い兄である。そしてそれ以前に、クアルトゥス王国の次期元首である。

 ダリアスにとって、愛する弟たちは将来への不安要素でもあった。文武ともに優秀であり、同じ正室の子であるが、怠惰と評されているグノシスはその最たるものである。御しやすい駒と見て彼にすり寄る者がいることを、知っている。

 正直、彼が入りたいと言い出したのが騎士団で、ダリアスは内心安堵したのだ。グノシスが中途半端に政務に関わろうとした場合、ダリアスは彼に仕事を諦めるよう仕向けただろう。
 いずれにせよ、ダリアスの目的は一つだ。フラエへの恋心でグノシスの目が眩んでいる今のうちに、どうにか彼を片付けなければいけない。
 普段は穏やかな目が、狡猾に光った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

処理中です...