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6 フラエの過去
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研究室に戻って、ここ最近研究発表のために片付けられずにいた書類をまとめていく。なんだか少しだけ、寂しい気持ちだったので、これを終えたら外へ食事に行くと決めた。
「フラエ」
声をかけられて振り返ると、ミスミが立っていた。あれ、と首を傾げると「研究発表の反省レポートだよ」と、彼の席であるフラエの真後ろの椅子に座る。少しうんざりした様子で、彼が研究発表で使用した資料と、実験結果の詳細が書かれた紙を鞄に入れている。
「お前も忘れず出せよ。十日後が締め切りだ」
「見ていろ。三日で出してやる」
冗談めかして言えば、彼は笑って「そう言って、締め切りギリギリで出すのがフラエだ」と言った。フラエは締め切りギリギリまで粘って推敲するタイプで、ミスミもそうだった。フラエも笑って、「でも今日は、疲れたな」と椅子の背もたれにもたれかかる。
「この後は、ゆっくりしたい。外食もしたい。たっぷりお湯が張られたお風呂に入りたい」
駄々っ子のように足をぱたぱた振りながら言うフラエに、ミスミは苦笑して「一緒にメシ、行くか?」と誘う。一も二もなく頷いた。
「シチューがいい」
「それじゃ、あそこの定食屋だ」
伸びをしたミスミが伸びをして、「今日はもう上がるか」とコートを羽織りはじめる。フラエもいそいそとコートを羽織り、手持ちの財布に入った金額を確認する。休日に参加した初級ダンジョン攻略で得た、報酬金が入っている。薄給な研究員の割に、多少懐は潤っていた。ダンジョン攻略は、騎士団に入団できる程度にはあるフラエの戦闘能力を生かした、ちょっとした小遣い稼ぎだ。
「行こう」
ミスミに先んじて歩き出す。彼は「酒が飲みてぇ」と唸りながらフラエの隣に並び、あくびをする。このゆるい連帯が心地よくて、フラエもあくびをした。二人で研究棟から出たところで、そういえば、とミスミが歩みを止めた。つられてフラエも足を止める。
「フラエって、グノシス殿下とどういう関係だったんだ?」
「え~……」
無遠慮な質問でも、揶揄や悪意を感じなかったので、素直に答えることにした。
「元同級生で、元親友?」
へぇ、とミスミが驚いた声をあげた。
「そもそも、フラエと殿下って同級生だったんだ」
「中級学校からの同級生だよ」
ミスミは興味深そうに頷いた。フラエは話しているうちに、なんでもかんでもぶちまけたい、投げやりな気持ちになってきた。ミスミは自分の話をなんでも聞いてくれるし、受け止めてくれる。それだけの友情が二人の間にあると、信じている。フラエは息を吸い、続けた。
「初対面から殴り合いの喧嘩になって」
「王族と殴り合いに……」
絶句するミスミに「学内では身分の平等という規則があったからね」と胸を張る。
「有名無実になっていたそれを、僕が復活させてやったんだ」
誇らしげなフラエ。彼は何かを飲み込んで、「……よく、仲良くなれたな」とフラエに続きを促す。
「僕はあそこまで徹底的に殴られたことがなかったし、殿下も歯向かわれたのが初めてだったから、お互いに興味を持ったんだ」
「コミュニケーションが独特すぎる」
というか、お前って案外実力行使するんだ……と慄くミスミに、フラエは「僕は結構武闘派だぞ」と冗談めかして言った。
「騎士団には、魔術じゃなくて身体格闘能力で入ったんだ」
同時に、フラエが騎士団内で軽んじられた理由はそれだった。
「僕を変わり者扱いして敬遠しなかったのは、グノシス殿下だけだった」
その言葉に、ミスミはどこか湿度を感じた。そうなんだ、と頷くと、フラエは寂しそうに目を伏せた。彼の緑の瞳はしどけなく潤み、ミスミは、なんだか幼い子どもを相手にしているような気持ちになる。
「好きだったんだな。殿下のこと」
「うん」
フラエに頷かれてから、ちょっと言い方がまずかったかな、とミスミは思った。少し思考する間を挟んで、訂正する。
「友達として好きだったんだな」
言い直したミスミに、フラエは曖昧に頷いた。その態度を見て先ほどよりもずっと、なんだか気まずくなった。これはきっと、友達以上の気持ちがフラエにはあったんだろうと、何も知らないミスミが察するには十分だった。それはグノシス王子も同じなのだろう。フラエは「本当に、ふざけないでほしい」と吐き捨てる。
「今更、……なんなんだよ。ふざけないで」
そう言って俯き、首を横に振る。ミスミは彼の背中が、いつもよりずっと小さく感じた。見ていられなくて、フラエの低い位置にある肩へ腕を回す。うわ、と驚くフラエの背中を叩き、「こういう時は飲むぞ」とわざとらしく拳を突き上げた。
「酒飲んで寝て、忘れようぜ」
そう言えば、フラエの強張った表情がじわじわとほどけた。うん、と頷き、微笑みながら彼も拳を突き上げる。
「飲む! あんな馬鹿のことは忘れよう」
「くれぐれも発言には、気をつけろよ」
「フラエ」
声をかけられて振り返ると、ミスミが立っていた。あれ、と首を傾げると「研究発表の反省レポートだよ」と、彼の席であるフラエの真後ろの椅子に座る。少しうんざりした様子で、彼が研究発表で使用した資料と、実験結果の詳細が書かれた紙を鞄に入れている。
「お前も忘れず出せよ。十日後が締め切りだ」
「見ていろ。三日で出してやる」
冗談めかして言えば、彼は笑って「そう言って、締め切りギリギリで出すのがフラエだ」と言った。フラエは締め切りギリギリまで粘って推敲するタイプで、ミスミもそうだった。フラエも笑って、「でも今日は、疲れたな」と椅子の背もたれにもたれかかる。
「この後は、ゆっくりしたい。外食もしたい。たっぷりお湯が張られたお風呂に入りたい」
駄々っ子のように足をぱたぱた振りながら言うフラエに、ミスミは苦笑して「一緒にメシ、行くか?」と誘う。一も二もなく頷いた。
「シチューがいい」
「それじゃ、あそこの定食屋だ」
伸びをしたミスミが伸びをして、「今日はもう上がるか」とコートを羽織りはじめる。フラエもいそいそとコートを羽織り、手持ちの財布に入った金額を確認する。休日に参加した初級ダンジョン攻略で得た、報酬金が入っている。薄給な研究員の割に、多少懐は潤っていた。ダンジョン攻略は、騎士団に入団できる程度にはあるフラエの戦闘能力を生かした、ちょっとした小遣い稼ぎだ。
「行こう」
ミスミに先んじて歩き出す。彼は「酒が飲みてぇ」と唸りながらフラエの隣に並び、あくびをする。このゆるい連帯が心地よくて、フラエもあくびをした。二人で研究棟から出たところで、そういえば、とミスミが歩みを止めた。つられてフラエも足を止める。
「フラエって、グノシス殿下とどういう関係だったんだ?」
「え~……」
無遠慮な質問でも、揶揄や悪意を感じなかったので、素直に答えることにした。
「元同級生で、元親友?」
へぇ、とミスミが驚いた声をあげた。
「そもそも、フラエと殿下って同級生だったんだ」
「中級学校からの同級生だよ」
ミスミは興味深そうに頷いた。フラエは話しているうちに、なんでもかんでもぶちまけたい、投げやりな気持ちになってきた。ミスミは自分の話をなんでも聞いてくれるし、受け止めてくれる。それだけの友情が二人の間にあると、信じている。フラエは息を吸い、続けた。
「初対面から殴り合いの喧嘩になって」
「王族と殴り合いに……」
絶句するミスミに「学内では身分の平等という規則があったからね」と胸を張る。
「有名無実になっていたそれを、僕が復活させてやったんだ」
誇らしげなフラエ。彼は何かを飲み込んで、「……よく、仲良くなれたな」とフラエに続きを促す。
「僕はあそこまで徹底的に殴られたことがなかったし、殿下も歯向かわれたのが初めてだったから、お互いに興味を持ったんだ」
「コミュニケーションが独特すぎる」
というか、お前って案外実力行使するんだ……と慄くミスミに、フラエは「僕は結構武闘派だぞ」と冗談めかして言った。
「騎士団には、魔術じゃなくて身体格闘能力で入ったんだ」
同時に、フラエが騎士団内で軽んじられた理由はそれだった。
「僕を変わり者扱いして敬遠しなかったのは、グノシス殿下だけだった」
その言葉に、ミスミはどこか湿度を感じた。そうなんだ、と頷くと、フラエは寂しそうに目を伏せた。彼の緑の瞳はしどけなく潤み、ミスミは、なんだか幼い子どもを相手にしているような気持ちになる。
「好きだったんだな。殿下のこと」
「うん」
フラエに頷かれてから、ちょっと言い方がまずかったかな、とミスミは思った。少し思考する間を挟んで、訂正する。
「友達として好きだったんだな」
言い直したミスミに、フラエは曖昧に頷いた。その態度を見て先ほどよりもずっと、なんだか気まずくなった。これはきっと、友達以上の気持ちがフラエにはあったんだろうと、何も知らないミスミが察するには十分だった。それはグノシス王子も同じなのだろう。フラエは「本当に、ふざけないでほしい」と吐き捨てる。
「今更、……なんなんだよ。ふざけないで」
そう言って俯き、首を横に振る。ミスミは彼の背中が、いつもよりずっと小さく感じた。見ていられなくて、フラエの低い位置にある肩へ腕を回す。うわ、と驚くフラエの背中を叩き、「こういう時は飲むぞ」とわざとらしく拳を突き上げた。
「酒飲んで寝て、忘れようぜ」
そう言えば、フラエの強張った表情がじわじわとほどけた。うん、と頷き、微笑みながら彼も拳を突き上げる。
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