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親切なα
しおりを挟む予算会議まで残り数日。
僕は先輩達から渡された資料を読み込み、何度も当日のリハーサルを脳内でしていた。
図書室で受付をしている間も、時間があれば資料を手に取って読み込む。
そんな事をしていたから、本を借りに来た生徒が居ることに気づくのが送れた。
「そんなに熱心に何を読んでいるんだ」
「っ・・・!あ、ごめんなさい」
「いや、いい。何か面白い本でも見つけたのかと思ってな」
「雁染先輩・・・!」
見上げるほど高い身長をした生徒は見覚えのある人物だった。雁染遼、この学園の風紀委員を務める男は鈴の2つ上の先輩だ。
短く切られた黒髪は清潔さを醸し出し、その端正な顔立ちを引き立たせている。同じ学生とは思えないほど良い体格、制服の上からでも分かる筋肉は正にαの象徴。
そう、雁染は生粋のαだ。
「伊野瀬のおすすめの本があればまた教えて欲しい」
にこりと笑う雁染に周りの生徒が見惚れていた。
普段は硬派であまり笑顔を浮かべることの少ない雁染は、本を借りに来る時こうして惜しみない笑顔を鈴に向けてくれる。
「あの、これ本じゃないんです。実は今度の予算会議に僕が出席する事になって、その資料を読み込んでました」
「伊野瀬が?予算会議は本来委員長が出席するはずだろう。何故、1年生がするんだ。まさか、押し付けられたりしたのか」
途端、雁染の表情が険しいものになる。
慌てて立ち上がり弁解した。
「ちっ違うんです!先輩達はどうしても外せない用事があるみたいでっ・・・!資料もちゃんと貰えましたし先輩が心配してくださるような事では無いので・・・!」
「そうか、それなら良かった。だが、予算会議に1年生が出るのはかなりの苦労だろう。当日は風紀委員長である俺も出席する。困ったことがあれば何でも言うといい」
「あ、ありがとうございます」
雁染の手が肩に置かれる。
すり、と撫でるような仕草に驚き、咄嗟に礼を言いつつ避けた。
αからの接触は本能的に警戒心を抱いてしまう。
本来、風紀委員長の雁染と接点などある筈がない鈴だが、雁染は度々図書室に姿を現すのだ。
どうやらかなりの読書好きらしく、鈴が受付当番の日は決まってきている。
その度、何かおすすめの本は無いか?問うてくるのだ。
αで優秀な雁染に鈴がおすすめする本は合うだろうかと不安だったが、どうやら気に入ってくれたらしい。
その後も、学園内ですれ違えば声をかけてくるほどの仲になった。
匠にその話をすればあまり良い顔はされない。
それはそうか、Ωである鈴とαの雁染が接触すれば何が起きるか分からないのだ。
「雁染先輩はただ後輩として接してくれているだけだよ」
「・・・分からないだろ。向こうはαなんだから、鈴に気があるかもしれないのに」
「心配しすぎだって。それに、僕には匠だけだから」
「鈴・・・」
それ以降、なるべく雁染とは接触しないよう注意を払っていた。
だが、図書室に来る雁染を無視することは出来ない。図書委員として、後輩として接していた。
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