【R18】サディスティックメイト

皐月うしこ

文字サイズ
小 中 大 特大
8 / 32
第2章:巡る記憶の回想

第2話:仮面の下にある狂気

屋敷は古く、数百年のときを感じさせる情緒が漂っている。朝は山の濃霧に隠され、夜は不気味なほど暗い林というより森に近い木々の群生に囲まれている。そのせいで周囲は闇に包まれ、一日の大半を仄暗い靄(モヤ)が覆う洋館となっていた。
案内がなければお化け屋敷と呼称し、近付きもしないだろう。いや。稀有な性質を持っていれば、物珍しさから足を踏み入れてしまう場所かもしれない。


「まさか、ね」


階段の踊り場にある大きな窓から彼らと出会った泉が目に入った。
夜も更け、うっそうと茂る林の向こう側に見え隠れする泉は、糸のように細い月を飲み込んでしまうほどの黒をにじませている。誰が好んで寂れた辺境の洋館に住むのか謎だったが、屋敷を取り囲む木々の合間に魔法の泉があれば、興味を惹かれた一族が住み着くのも合点がいった。


「どこにいるんだろう?」


三人のいそうな場所など見当もつかない。
執事が言うには「馬車や馬が出て言った形跡はないので屋敷内か、周辺にいるらしい」ということだが、果たしてそれもどこまで信じられるのか半信半疑だった。大体、あの三人が現在進行形で一緒にいるとは考えにくい。
各々に別の場所にいると考えるのが妥当だろう。だとすれば、全員を探して与えられた部屋に戻るには相応の時間がかかるに違いない。


「はぁ」


乃亜は人知れず溜息をつく。


「斎磨、萌樹、三織」


三人の名前はかろうじて覚えている。そろって異なる美しい外見をし、同じ赤い目を持っているが、性格は三者三葉。共通して言えることは、誰も人の言うことを素直に聞くような耳を持っていないと思えるところか。


「この屋敷、広すぎる」


暗い廊下を一人で闇雲に歩き続けるには骨が折れる。等間隔に明かりが灯っているとはいえ、一寸先は闇。出来ることなら部屋に引き返して、じっと大人しくしていたい。


「うぅ」


どんな状況でもノドは渇き、胃は空腹を訴える。どうしてこんなことになったのか。屋敷内以上に外は暗闇。女一人で飛び出すには未知の世界すぎる。壁にもたれて、憂いていても始まらない。探すしかないのだ。この屋敷以外での生き場所を与えられない身としては、ここから逃げ出したところで行く当てもない。
乃亜はとりあえず、誰かがいそうな場所を片っ端から覗いていくことを心に決めた。


「誰かいますかぁ?」


迷いネコでも探すように乃亜は屋敷内を探索していく。
洋館は三階建ての落ち着いた石造りの家だった。
古くから建っているだけあって、色んな部屋が屋敷内には存在する。落ち着いた調度品に、使い込まれた暖炉に、書斎。ダイニングはもちろん、ダンスホール、ワインセラー、応接室から倉庫に至るまで。扉の数は記憶できないほど多く、迷路のように入り組んだ廊下はもう何度曲がったかわからない。


「あれ。少し開いてる?」


ちょうど一階の東に位置した一番突き当りの角部屋に乃亜は目を止める。
他は異様なほど固く閉じられている扉ばかりの中で、少し斜めに下がった取っ手が不自然に思えた。足は吸い寄せられるようにそこへ向かい、乃亜はそっと覗くようにその部屋の扉に指先を触れた。


「誰かいますかぁ?」


何が潜んでいるかわからない緊張感に、乃亜の声も小さく変わる。
床から天井まで壁一面に施された本棚と座り心地の良さそうな座椅子と机。中央にある大きな窓は中庭の噴水を一望できるように設計されていて、必要とあればそのまま中庭に出ることも可能な仕様になっている。それなりの蔵書を誇っているようだが、問題は、彼らの誰かがここを利用したかどうかということ。
一時、興味を惹かれて訪れたとしても、今もまだいるとは限らない。


「やっぱり誰もいないのかな?」


足音を吸収する絨毯張りの床のおかげで、靴は乃亜の存在を響かせずに静寂を保ったまま、夜の孤独を抱きしめているようだった。


「そこを動かないでください」

「ッ萌樹…さ…ん」

「ああ、キミでしたか」


ニコリと柔らかな物腰でたたずむ萌樹の笑顔に悪寒が走る。人畜無害なフリをしているが、勘違いでなければ、たしかに首元に鋭利な刃物が触れた気がした。


「どうかしましたか?」


無意識に、首筋に手をあてていた自分に驚く。咄嗟の状況では本能が勝手に身を守ろうとするのだろう。それに気づいた瞬間、ドクドクと鼓動が不用意に早く変わり、乃亜は萌樹から一歩体を後ろに引いた。


「乃亜?」


名前を呼ばれて肩が跳ねる。全身に鳥肌が立つ感覚を恐怖と言わずして何と言えばいいのか、それ以上に距離をつめようと一歩前に足を踏み出した萌樹の気配に、乃亜は警戒心をみなぎらせて声を殺していた。


「乃亜、どうかしましたか?」


どうやら本を読んでいたらしい。
パタン、と場違いなほど軽い音がして、萌樹の手の中で本は役割を終えたようにその身を閉じた。


「萌樹、さ…ん?」

「はい」

「本、読んでいたんですか?」

「はい」


ニコリと笑う顔は崩れない。本を読んでいた人間が刃物を首筋にあててくるとは考えにくい。気のせいだったかと乃亜は肩の荷を下ろすように、ホッと深く息を吐いた。


「探しました」

「わざわざ探しに来たんですか?」

「え?」
感想 1

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて―― 表紙

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
恋愛 完結 短編 R18
文字数:8,491
セクスカリバーをヌキました! 表紙

セクスカリバーをヌキました!

とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ファンタジー 完結 長編 R18
文字数:7,576
黒の神官と夜のお世話役 表紙

黒の神官と夜のお世話役

辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
恋愛 完結 長編 R18
文字数:82,875
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される 表紙

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
恋愛 完結 長編 R18
文字数:87,481
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる 表紙

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
恋愛 完結 長編 R18
文字数:89,128
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~ 表紙

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ファンタジー 完結 短編 R18
文字数:28,157
愛しているなら拘束してほしい 表紙

愛しているなら拘束してほしい

会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
恋愛 完結 長編 R18
文字数:114,529
親が再婚したけど、どうやら義兄弟が八人いるらしい 表紙

親が再婚したけど、どうやら義兄弟が八人いるらしい

高校二年生の八代凛(やつしろりん)は母が再婚すると同時に、新しい父親のもとに引っ越すこととなった すると、そこにはイケメンが8人いた 義兄弟が8人できるなんて聞いてないよ、お母さん!! 個性豊かで過保護な義兄弟たちとのラブコメディです!
恋愛 連載中 長編
文字数:26,916