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第22話「恋の疾走、俺だけのもの」
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秋晴れの空が眩しい。
陽光が白線を照らし、グラウンドに立つ生徒たちの額に汗が光る。
校舎の窓という窓は開け放たれ、校庭には応援の歓声と熱気が渦を巻いていた。
桐嶋学園、年に一度の体育祭。
だが
――今年は、例年と少しばかり様子が違っていた。
まず、来場者の人数が明らかに多い。
そして、その中にひときわ目立つ黒塗りの高級車の列があった。
その先頭車両から降りてきたのは、完璧なメイクにロングコートを纏った一人の女性。
桐嶋美沙。
凛音の母親であり、元トップモデルにして、今や芸能プロダクションの女帝である。
その背後には、今をときめく人気モデル、若手アイドル、敏腕カメラマンが続々と続く。
同行スタッフを含めれば、軽く30人以上の一団が校門から校庭へと雪崩れ込む様は、まるでフェス会場だった。
「ほんとに来た……凛音の家族……」
「てか、あれ業界関係者じゃね?なんでこんなに……」
「うちの学校、今日でバズるかもな……」
生徒たちは半ば呆然としながらもスマホを構え、あちらこちらでシャッター音が鳴り響いた。
そして
――その中に、これまた圧倒的な存在感で現れたのが、桐嶋三姉妹である。
◆由依(長女)
鋭いスーツ姿で、受付に乗り込み、教師たちと安全管理の話を始める。
◆美咲(次女)
大画面タブレットを掲げ、SNSで“弟ライブ”をリアルタイム配信。
「本日、#弟無双DAY開催中♡」のタグが瞬く間に拡散されていく。
◆紗奈(三女)
キャンバス片手にグラウンド最前列に正座。
「りんりんの運動中の汗が……尊い……」と呟き、白目を剥く寸前で耐えている。
その“桐嶋帝国”がもたらした異様な熱気に、校内はすでに騒然だった。
◆
そして始まる
――二人三脚競技・最終ペア。
9クラス対抗。
悠真&夏菜のペアが1着でゴールした直後、注目の的となる最終ペアがコールされる。
「さあ、最終組は……2年C組、桐嶋凛音&白石天音ペア!」
黄色い歓声があちこちから飛び交う。
美沙の連れてきたアイドルたちが立ち上がり、うちわを振って叫んだ。
「凛音くーんっ!!ファイトー!!!」
「脚長すぎて反則ー!!」
天音はその様子に内心ドキドキしていた。
(す、すごい応援……でも、なんか……)
ちょっぴり不安と、ちょっぴりの嫉妬が混ざる。
凛音の手をぎゅっと握り返す。
スタートの合図が鳴る。
ふたりの脚が同時に動き出す。
「左、右、左、右!」
「……焦んな。俺に合わせろ」
俺様な声。
でも、なぜか心地いい。
天音は息を合わせ、凛音のリズムに身を任せた。
脚が、心が、重なっていく。
……だが、ゴールが見え始めたその瞬間だった。
「――きゃっ!」
足がもつれた。
砂に引っかかり、天音の身体がバランスを崩す。
顔から転びそうになるその瞬間――
凛音が天音の身体を引き寄せた。
そして、二人はそのまま地面を転がるように3回転。
砂埃が舞い上がり、スローモーションのように、
凛音の腕が天音をしっかりと抱きしめていた。
会場が一瞬、凍りついた。
その後、まるで割れたダムのように
――歓声が爆発した。
「きゃあああああ!!」
「かっこよすぎる!!!」
「今の角度!!カメラマン、撮ってた!?!?」
当然、美沙のカメラ班は連写モード。
シャッター音が無数に響く。
「……この構図、絵になりすぎて映画超えた」
「CMじゃない、これは長編作品だ……」
天音が驚いた目で凛音を見上げる。
「ご、ごめん……」
「……動くな」
凛音はゆっくりと立ち上がる。
その腕の中には、傷一つつけさせなかった天音の身体。
抱き上げたまま
――お姫様抱っこ。
「これは俺だけのだから」
「余計な男たちの目には、触れさせねぇ」
一瞬。
世界が止まった。
そして
――次の瞬間、爆発するような黄色い声援。
失神する女子数名。
男子はひれ伏し、スマホを取り落とす。
美咲の配信はコメント数が桁を超え、サーバーに負荷がかかる始末。
「#俺だけのだから」「#姫抱き凛音」「#天音天使」などが即トレンド入り。
スカウトマンがにじり寄る。
「す、すみません! 白石天音さん、ぜひ芸能界に――」
「――無理」
凛音の一言で空気がピタリと止まる。
「スカウトは要らねぇ」
「俺が、俺の手で守る。
……そいつは、俺のもんだから」
美沙はその後ろ姿を見つめ、ぽつりと呟く。
「……さすが、私の息子ね」
そして隣で鼻血を垂らしかけている美咲が叫ぶ。
「凛音、まじでプロポーズした!!世界配信OK!!!」
◆
競技は終わらない。
いよいよ
――全校対抗リレー決勝。
学年ごとに3クラス、合計9クラスによるガチ勝負。
凛音は、2年C組アンカーとして登場する。
スタート直前、観客席から女子アイドルたちが声援を送る。
「凛音くーんっ!ファイト♡」
「私のために勝ってー!!」
天音はそっと口を尖らせていた。
(……なんか、モヤッとする)
その気配を察知した凛音は、スタートラインの直前で天音に囁く。
「お前の声援だけあれば、俺は――世界にも勝てる」
心臓が跳ねた。
天音の目に、ふわりと涙がにじむ。
彼の背中が、走り出す。
まるで風のように。
その疾走が
――この日、
全国のSNSに火をつけた。
【つづく】
陽光が白線を照らし、グラウンドに立つ生徒たちの額に汗が光る。
校舎の窓という窓は開け放たれ、校庭には応援の歓声と熱気が渦を巻いていた。
桐嶋学園、年に一度の体育祭。
だが
――今年は、例年と少しばかり様子が違っていた。
まず、来場者の人数が明らかに多い。
そして、その中にひときわ目立つ黒塗りの高級車の列があった。
その先頭車両から降りてきたのは、完璧なメイクにロングコートを纏った一人の女性。
桐嶋美沙。
凛音の母親であり、元トップモデルにして、今や芸能プロダクションの女帝である。
その背後には、今をときめく人気モデル、若手アイドル、敏腕カメラマンが続々と続く。
同行スタッフを含めれば、軽く30人以上の一団が校門から校庭へと雪崩れ込む様は、まるでフェス会場だった。
「ほんとに来た……凛音の家族……」
「てか、あれ業界関係者じゃね?なんでこんなに……」
「うちの学校、今日でバズるかもな……」
生徒たちは半ば呆然としながらもスマホを構え、あちらこちらでシャッター音が鳴り響いた。
そして
――その中に、これまた圧倒的な存在感で現れたのが、桐嶋三姉妹である。
◆由依(長女)
鋭いスーツ姿で、受付に乗り込み、教師たちと安全管理の話を始める。
◆美咲(次女)
大画面タブレットを掲げ、SNSで“弟ライブ”をリアルタイム配信。
「本日、#弟無双DAY開催中♡」のタグが瞬く間に拡散されていく。
◆紗奈(三女)
キャンバス片手にグラウンド最前列に正座。
「りんりんの運動中の汗が……尊い……」と呟き、白目を剥く寸前で耐えている。
その“桐嶋帝国”がもたらした異様な熱気に、校内はすでに騒然だった。
◆
そして始まる
――二人三脚競技・最終ペア。
9クラス対抗。
悠真&夏菜のペアが1着でゴールした直後、注目の的となる最終ペアがコールされる。
「さあ、最終組は……2年C組、桐嶋凛音&白石天音ペア!」
黄色い歓声があちこちから飛び交う。
美沙の連れてきたアイドルたちが立ち上がり、うちわを振って叫んだ。
「凛音くーんっ!!ファイトー!!!」
「脚長すぎて反則ー!!」
天音はその様子に内心ドキドキしていた。
(す、すごい応援……でも、なんか……)
ちょっぴり不安と、ちょっぴりの嫉妬が混ざる。
凛音の手をぎゅっと握り返す。
スタートの合図が鳴る。
ふたりの脚が同時に動き出す。
「左、右、左、右!」
「……焦んな。俺に合わせろ」
俺様な声。
でも、なぜか心地いい。
天音は息を合わせ、凛音のリズムに身を任せた。
脚が、心が、重なっていく。
……だが、ゴールが見え始めたその瞬間だった。
「――きゃっ!」
足がもつれた。
砂に引っかかり、天音の身体がバランスを崩す。
顔から転びそうになるその瞬間――
凛音が天音の身体を引き寄せた。
そして、二人はそのまま地面を転がるように3回転。
砂埃が舞い上がり、スローモーションのように、
凛音の腕が天音をしっかりと抱きしめていた。
会場が一瞬、凍りついた。
その後、まるで割れたダムのように
――歓声が爆発した。
「きゃあああああ!!」
「かっこよすぎる!!!」
「今の角度!!カメラマン、撮ってた!?!?」
当然、美沙のカメラ班は連写モード。
シャッター音が無数に響く。
「……この構図、絵になりすぎて映画超えた」
「CMじゃない、これは長編作品だ……」
天音が驚いた目で凛音を見上げる。
「ご、ごめん……」
「……動くな」
凛音はゆっくりと立ち上がる。
その腕の中には、傷一つつけさせなかった天音の身体。
抱き上げたまま
――お姫様抱っこ。
「これは俺だけのだから」
「余計な男たちの目には、触れさせねぇ」
一瞬。
世界が止まった。
そして
――次の瞬間、爆発するような黄色い声援。
失神する女子数名。
男子はひれ伏し、スマホを取り落とす。
美咲の配信はコメント数が桁を超え、サーバーに負荷がかかる始末。
「#俺だけのだから」「#姫抱き凛音」「#天音天使」などが即トレンド入り。
スカウトマンがにじり寄る。
「す、すみません! 白石天音さん、ぜひ芸能界に――」
「――無理」
凛音の一言で空気がピタリと止まる。
「スカウトは要らねぇ」
「俺が、俺の手で守る。
……そいつは、俺のもんだから」
美沙はその後ろ姿を見つめ、ぽつりと呟く。
「……さすが、私の息子ね」
そして隣で鼻血を垂らしかけている美咲が叫ぶ。
「凛音、まじでプロポーズした!!世界配信OK!!!」
◆
競技は終わらない。
いよいよ
――全校対抗リレー決勝。
学年ごとに3クラス、合計9クラスによるガチ勝負。
凛音は、2年C組アンカーとして登場する。
スタート直前、観客席から女子アイドルたちが声援を送る。
「凛音くーんっ!ファイト♡」
「私のために勝ってー!!」
天音はそっと口を尖らせていた。
(……なんか、モヤッとする)
その気配を察知した凛音は、スタートラインの直前で天音に囁く。
「お前の声援だけあれば、俺は――世界にも勝てる」
心臓が跳ねた。
天音の目に、ふわりと涙がにじむ。
彼の背中が、走り出す。
まるで風のように。
その疾走が
――この日、
全国のSNSに火をつけた。
【つづく】
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