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第24話「突然のモテ期、君は誰のもの?」
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翌日、教室のドアを開けた瞬間から、白石天音はスターだった。
「天音ちゃん、おはよう!」
「昨日の二人三脚、マジで神回だった……!」
「姫抱っこ、リアルでやられる日が来るなんて……」
女子たちが群がり、男子たちがチラチラと視線を送る。
体育祭でのあの一件。
凛音の独占宣言と姫抱っこ、それを受けての天音の天然スマイル――
すべてがカメラに収められ、美咲姉によって世界配信された。
その結果、天音には次々とスカウトメールが届き始めていた。
芸能事務所数件、モデル事務所、地方局のテレビ番組へのゲスト依頼。
さらには、某有名ブランドが「制服キャンペーンの顔」としてオファーしたいという内容まで。
「す、すごいよ、これ全部……私、ただ走っただけなのに……」
戸惑いながら天音は凛音の隣の席に腰を下ろす。
その一方で――
「……チッ。何が“ただ走っただけ”だ」
朝からずっと、不機嫌な男が一人。
桐嶋凛音。
あれ以来、教室の空気が妙にざわついているのを彼は肌で感じていた。
天音の机の上に置かれる、差し入れのラムネや手紙。
男子たちが代わる代わる話しかけてくる。
女子も「かわいい~」と天音の髪を触っては笑っている。
――なんだこれ。
俺の“いつもの日常”じゃない。
昨日まで、天音は自分の世界にしかいなかった。
けれど、今は周りが勝手に入り込んでくる。
そのことが、凛音の中で微かに、でも確実に、何かを揺らしていた。
「……おい、離れろ」
「え? 何?」
「机。寄ってんだよ。椅子ひとつ分は開けとけ」
「ええっ……そんな、やだ」
「……は?」
凛音が眉をひそめたその時。
悠真が机越しににこりと笑った。
「はいはい、二人とも。平和に、ね?」
「……お前、笑ってんなよ」
「怒る理由ないでしょ?」
「……ある」
悠真の笑顔の奥に何かを感じ取りながらも、凛音は言葉を切った。
だが、天音はのんびりとスケジュール帳を開きながら口を開いた。
「今日、放課後ね……スカウトの人が校門前で待ってるって」
「……は?」
凛音の声が低くなった。
「何時?」
「17時くらいかな。名前もちゃんと覚えてるよ、“水城さん”って」
「行くな」
即答だった。
天音は目を丸くした。
「え、でも、ちゃんと話を聞いた方が――」
「行くなって言ってんだろ」
その瞬間、教室の空気がピリッと張りつめた。
隣の席にいた女子が、そっとスマホを下ろす。
他の生徒たちも、話していた口をつぐんだ。
凛音の声に、重さがあった。
そして、それは彼が“本気”であることを物語っていた。
けれど天音は、あまりに天然だった。
「……え、なんで? 私が行っちゃイヤなの?」
凛音は少しだけ視線を逸らした。
答えを躊躇ったわけではない。
ただ――あまりにもストレートだったから。
「……イヤに決まってんだろ」
「そっか」
天音はそれだけ言うと、ほわっと微笑んだ。
まるで、朝露のように淡く、でも、芯のある笑顔だった。
「行かない。……凛音が言うなら、それが一番だもん」
その瞬間、教室全体から“キュン”の気配が溢れた。
「……無理……好き……」
「この2人、尊すぎて泣ける」
「ドラマ化しろ……いや、マジで」
後ろの席では、夏菜が頭を抱えていた。
その隣で、悠真が肩をすくめながら苦笑する。
「もう、クラス公認のカップルでいいんじゃない?」
「……あいつらがああなら、私たちは何だってのよ……」
ふと漏らした夏菜の言葉に、悠真は一瞬だけ目を細めた。
だが、すぐに話題を変える。
「合唱コンクールの準備、どうなってるか知ってる?」
「班長がやる気出してないから滅茶苦茶」
「じゃあ、俺たちで動くしかないね」
そう言った悠真の横顔を見て、夏菜は口元をキュッと引き結んだ。
それは、ちょっとだけ頬が熱くなるような感覚だった。
◆
昼休み。屋上。
凛音と天音は二人きりでお弁当を広げていた。
その静かな空気の中、天音が口を開く。
「ねえ、昨日……かっこよかった」
「昨日?」
「リレー。あのスピード、本当にすごかったよ。周りがびっくりしてた」
「……そうか」
「あと……お姫様抱っこも」
「……は?」
「ドキドキ、した」
その一言で、凛音の箸が止まった。
彼女の天然の破壊力は、時として爆弾よりも威力がある。
「お前……」
「うん?」
「……ああいうことは、あんまり言うな。俺が混乱する」
「えっ、なんで?」
「……俺が“好きだ”って言いたくなるからだよ」
風が、吹いた。
お弁当の海苔がひらひらと舞う。
天音の顔が、スッと赤くなった。
「そ、それは……」
「ん?」
「えっと……えっと……“好き”って、もう言ってるも同じだよ?」
「……そうか」
凛音はゆっくりと箸を動かした。
まるで何事もなかったかのように。
でもその横顔は、どこかいつもより穏やかだった。
そして、天音もまた、そっと彼の隣に身体を寄せる。
誰にも見せない、二人だけの距離。
そこに、恋の真実が確かにあった。
【つづく】
「天音ちゃん、おはよう!」
「昨日の二人三脚、マジで神回だった……!」
「姫抱っこ、リアルでやられる日が来るなんて……」
女子たちが群がり、男子たちがチラチラと視線を送る。
体育祭でのあの一件。
凛音の独占宣言と姫抱っこ、それを受けての天音の天然スマイル――
すべてがカメラに収められ、美咲姉によって世界配信された。
その結果、天音には次々とスカウトメールが届き始めていた。
芸能事務所数件、モデル事務所、地方局のテレビ番組へのゲスト依頼。
さらには、某有名ブランドが「制服キャンペーンの顔」としてオファーしたいという内容まで。
「す、すごいよ、これ全部……私、ただ走っただけなのに……」
戸惑いながら天音は凛音の隣の席に腰を下ろす。
その一方で――
「……チッ。何が“ただ走っただけ”だ」
朝からずっと、不機嫌な男が一人。
桐嶋凛音。
あれ以来、教室の空気が妙にざわついているのを彼は肌で感じていた。
天音の机の上に置かれる、差し入れのラムネや手紙。
男子たちが代わる代わる話しかけてくる。
女子も「かわいい~」と天音の髪を触っては笑っている。
――なんだこれ。
俺の“いつもの日常”じゃない。
昨日まで、天音は自分の世界にしかいなかった。
けれど、今は周りが勝手に入り込んでくる。
そのことが、凛音の中で微かに、でも確実に、何かを揺らしていた。
「……おい、離れろ」
「え? 何?」
「机。寄ってんだよ。椅子ひとつ分は開けとけ」
「ええっ……そんな、やだ」
「……は?」
凛音が眉をひそめたその時。
悠真が机越しににこりと笑った。
「はいはい、二人とも。平和に、ね?」
「……お前、笑ってんなよ」
「怒る理由ないでしょ?」
「……ある」
悠真の笑顔の奥に何かを感じ取りながらも、凛音は言葉を切った。
だが、天音はのんびりとスケジュール帳を開きながら口を開いた。
「今日、放課後ね……スカウトの人が校門前で待ってるって」
「……は?」
凛音の声が低くなった。
「何時?」
「17時くらいかな。名前もちゃんと覚えてるよ、“水城さん”って」
「行くな」
即答だった。
天音は目を丸くした。
「え、でも、ちゃんと話を聞いた方が――」
「行くなって言ってんだろ」
その瞬間、教室の空気がピリッと張りつめた。
隣の席にいた女子が、そっとスマホを下ろす。
他の生徒たちも、話していた口をつぐんだ。
凛音の声に、重さがあった。
そして、それは彼が“本気”であることを物語っていた。
けれど天音は、あまりに天然だった。
「……え、なんで? 私が行っちゃイヤなの?」
凛音は少しだけ視線を逸らした。
答えを躊躇ったわけではない。
ただ――あまりにもストレートだったから。
「……イヤに決まってんだろ」
「そっか」
天音はそれだけ言うと、ほわっと微笑んだ。
まるで、朝露のように淡く、でも、芯のある笑顔だった。
「行かない。……凛音が言うなら、それが一番だもん」
その瞬間、教室全体から“キュン”の気配が溢れた。
「……無理……好き……」
「この2人、尊すぎて泣ける」
「ドラマ化しろ……いや、マジで」
後ろの席では、夏菜が頭を抱えていた。
その隣で、悠真が肩をすくめながら苦笑する。
「もう、クラス公認のカップルでいいんじゃない?」
「……あいつらがああなら、私たちは何だってのよ……」
ふと漏らした夏菜の言葉に、悠真は一瞬だけ目を細めた。
だが、すぐに話題を変える。
「合唱コンクールの準備、どうなってるか知ってる?」
「班長がやる気出してないから滅茶苦茶」
「じゃあ、俺たちで動くしかないね」
そう言った悠真の横顔を見て、夏菜は口元をキュッと引き結んだ。
それは、ちょっとだけ頬が熱くなるような感覚だった。
◆
昼休み。屋上。
凛音と天音は二人きりでお弁当を広げていた。
その静かな空気の中、天音が口を開く。
「ねえ、昨日……かっこよかった」
「昨日?」
「リレー。あのスピード、本当にすごかったよ。周りがびっくりしてた」
「……そうか」
「あと……お姫様抱っこも」
「……は?」
「ドキドキ、した」
その一言で、凛音の箸が止まった。
彼女の天然の破壊力は、時として爆弾よりも威力がある。
「お前……」
「うん?」
「……ああいうことは、あんまり言うな。俺が混乱する」
「えっ、なんで?」
「……俺が“好きだ”って言いたくなるからだよ」
風が、吹いた。
お弁当の海苔がひらひらと舞う。
天音の顔が、スッと赤くなった。
「そ、それは……」
「ん?」
「えっと……えっと……“好き”って、もう言ってるも同じだよ?」
「……そうか」
凛音はゆっくりと箸を動かした。
まるで何事もなかったかのように。
でもその横顔は、どこかいつもより穏やかだった。
そして、天音もまた、そっと彼の隣に身体を寄せる。
誰にも見せない、二人だけの距離。
そこに、恋の真実が確かにあった。
【つづく】
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