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第25話「響け、クラスの声と恋のリズム」
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校内に再び落ち着いた空気が戻るかと思いきや、
2年C組はすでに次のイベント――合唱コンクールに向けて動き出していた。
「はい、静かに~。これからパート決めに入りまーす!」
教室前方では、音楽担当の女子・南條が、張り切って指揮棒を振る。
文化祭の成功で勢いづいたクラスは、合唱コンクールでも優勝を狙う気満々だった。
曲はJ-POPアーティストの定番バラード「君と重なる旋律」。
感情を込めた表現が求められるため、歌唱力が大きなポイントとなる曲だ。
「まずは全員で一度、歌ってみよっか」
南條の掛け声に従って、みんなが立ち上がる。
音楽室から借りてきたキーボードの伴奏に合わせて、クラス全体が一斉に歌い出す。
そして、曲のサビが近づいた時だった。
「~~き~~み~~とぉ~~~~~……」
……微妙に音がずれている。
しかも、どこからともなく不協和音が混ざっている。
誰も口に出さなかったが、全員の顔が一瞬ピクッと反応する。
「えっと……はい、いったんストップしようか!」
南條が手を挙げる。
「ちょっと、今の……最後のとこ……もう一回確認してみようか」
再び、サビ。
そして――
「~~きみ~~とおお~~~~~~~♪」
「……あれ?」
今度は誰が音を外しているか、明確に分かった。
「……天音?」
「ふぇ?」
周囲の視線が天音に集まる。
本人はきょとんとしていたが、少しして頬を染める。
「え、えっと、私……なんか変だった?」
「いや……ちょっと音が……」
「リズム……ずれてた、かな……」
みんなが遠慮がちに言葉を濁す中、
ひときわ無遠慮な声が飛んだ。
「お前、音痴だろ」
言ったのは、もちろん桐嶋凛音だった。
「り、りんね……?」
「いや、普通にリズム死んでた。正直、聞いてらんねぇレベル」
ズバリと言い切るその態度に、空気が一気に凍りかける。
だが、それ以上に凛音自身が驚いた。
――なぜ、俺はこんな言い方をした?
目の前の天音が、肩を落としてうつむいた。
その姿が、妙に胸に突き刺さった。
「……べ、別に……歌なんて、得意じゃないし……」
その小さな声が、教室に沈んでいった。
◆
昼休み。
凛音は廊下の隅に立って、ジュースの缶を握りしめていた。
(……やっちまった)
彼の中で、後悔と自己嫌悪が渦巻いていた。
音痴だったことは事実だ。
けれど、あの言い方はなかった。
しかも、天音は人一倍純粋で、些細なことに心を動かされる。
(……謝るか)
そう決意しかけた時、後ろから声がかかった。
「凛音。ちょっといいか?」
振り返ると、音楽教師の桐原が立っていた。
「何すか」
「お前の声、すごいな」
「……は?」
「この曲、ソロパートがあるんだが、ぜひお前に任せたい」
突拍子もない提案に、凛音は目を細めた。
「……目立つのは嫌だって、あれほど」
「そう言うな。お前の歌声には、人を動かす力がある。……あの子も、きっとそれを感じてる」
「あの子?」
「白石だよ」
ぐっ、と言葉が詰まる。
確かに、天音は自分の歌声を“すごい”と何度か言っていた。
(……本当に俺の声が、あいつを支えられるなら)
「……やります」
決意の声が、静かに響いた。
◆
その日の放課後。
天音は一人、教室に残っていた。
ピアノアプリを使いながら、口ずさむ。
だが、やはりズレる。
「うー……なんでこうなるの~……!」
「お前、音感ゼロか」
「うわっ!? びっくりした!」
背後から突然現れた凛音に、天音は肩を跳ね上げた。
「何してんだよ、帰んねーのか?」
「れ、練習……だよっ」
「下手なまま、歌うつもりか?」
「う……でも、練習しないともっと下手になっちゃうし……」
しょんぼりと俯く天音に、凛音は小さくため息をついた。
そして、自分のスマホを差し出す。
「このアプリ使え。リズム補正付きで、音程も確認できる。……俺のオススメ」
「りんね……?」
「夜9時から11時、お前のボイトレ手伝ってやる」
「え、いいの!? でも、時間大丈夫?」
「俺の自由時間は、そのためにあるんだよ。文句あっか」
「ううん! ありがとう!」
満面の笑み。
その表情を見て、凛音はほんの少し顔を背けた。
(……可愛すぎんだよ、お前は)
だが、顔の熱を隠すようにそっぽを向きながらも、彼の声は優しかった。
「絶対、俺の隣で歌わせてやるから」
天音は小さく「うん……!」と頷いた。
その声は、もうすでに旋律になっていた。
【つづく】
2年C組はすでに次のイベント――合唱コンクールに向けて動き出していた。
「はい、静かに~。これからパート決めに入りまーす!」
教室前方では、音楽担当の女子・南條が、張り切って指揮棒を振る。
文化祭の成功で勢いづいたクラスは、合唱コンクールでも優勝を狙う気満々だった。
曲はJ-POPアーティストの定番バラード「君と重なる旋律」。
感情を込めた表現が求められるため、歌唱力が大きなポイントとなる曲だ。
「まずは全員で一度、歌ってみよっか」
南條の掛け声に従って、みんなが立ち上がる。
音楽室から借りてきたキーボードの伴奏に合わせて、クラス全体が一斉に歌い出す。
そして、曲のサビが近づいた時だった。
「~~き~~み~~とぉ~~~~~……」
……微妙に音がずれている。
しかも、どこからともなく不協和音が混ざっている。
誰も口に出さなかったが、全員の顔が一瞬ピクッと反応する。
「えっと……はい、いったんストップしようか!」
南條が手を挙げる。
「ちょっと、今の……最後のとこ……もう一回確認してみようか」
再び、サビ。
そして――
「~~きみ~~とおお~~~~~~~♪」
「……あれ?」
今度は誰が音を外しているか、明確に分かった。
「……天音?」
「ふぇ?」
周囲の視線が天音に集まる。
本人はきょとんとしていたが、少しして頬を染める。
「え、えっと、私……なんか変だった?」
「いや……ちょっと音が……」
「リズム……ずれてた、かな……」
みんなが遠慮がちに言葉を濁す中、
ひときわ無遠慮な声が飛んだ。
「お前、音痴だろ」
言ったのは、もちろん桐嶋凛音だった。
「り、りんね……?」
「いや、普通にリズム死んでた。正直、聞いてらんねぇレベル」
ズバリと言い切るその態度に、空気が一気に凍りかける。
だが、それ以上に凛音自身が驚いた。
――なぜ、俺はこんな言い方をした?
目の前の天音が、肩を落としてうつむいた。
その姿が、妙に胸に突き刺さった。
「……べ、別に……歌なんて、得意じゃないし……」
その小さな声が、教室に沈んでいった。
◆
昼休み。
凛音は廊下の隅に立って、ジュースの缶を握りしめていた。
(……やっちまった)
彼の中で、後悔と自己嫌悪が渦巻いていた。
音痴だったことは事実だ。
けれど、あの言い方はなかった。
しかも、天音は人一倍純粋で、些細なことに心を動かされる。
(……謝るか)
そう決意しかけた時、後ろから声がかかった。
「凛音。ちょっといいか?」
振り返ると、音楽教師の桐原が立っていた。
「何すか」
「お前の声、すごいな」
「……は?」
「この曲、ソロパートがあるんだが、ぜひお前に任せたい」
突拍子もない提案に、凛音は目を細めた。
「……目立つのは嫌だって、あれほど」
「そう言うな。お前の歌声には、人を動かす力がある。……あの子も、きっとそれを感じてる」
「あの子?」
「白石だよ」
ぐっ、と言葉が詰まる。
確かに、天音は自分の歌声を“すごい”と何度か言っていた。
(……本当に俺の声が、あいつを支えられるなら)
「……やります」
決意の声が、静かに響いた。
◆
その日の放課後。
天音は一人、教室に残っていた。
ピアノアプリを使いながら、口ずさむ。
だが、やはりズレる。
「うー……なんでこうなるの~……!」
「お前、音感ゼロか」
「うわっ!? びっくりした!」
背後から突然現れた凛音に、天音は肩を跳ね上げた。
「何してんだよ、帰んねーのか?」
「れ、練習……だよっ」
「下手なまま、歌うつもりか?」
「う……でも、練習しないともっと下手になっちゃうし……」
しょんぼりと俯く天音に、凛音は小さくため息をついた。
そして、自分のスマホを差し出す。
「このアプリ使え。リズム補正付きで、音程も確認できる。……俺のオススメ」
「りんね……?」
「夜9時から11時、お前のボイトレ手伝ってやる」
「え、いいの!? でも、時間大丈夫?」
「俺の自由時間は、そのためにあるんだよ。文句あっか」
「ううん! ありがとう!」
満面の笑み。
その表情を見て、凛音はほんの少し顔を背けた。
(……可愛すぎんだよ、お前は)
だが、顔の熱を隠すようにそっぽを向きながらも、彼の声は優しかった。
「絶対、俺の隣で歌わせてやるから」
天音は小さく「うん……!」と頷いた。
その声は、もうすでに旋律になっていた。
【つづく】
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