炎光に誘われし少年と竜の蒼天の約束 ヴェアリアスストーリー番外編

きみゆぅ

文字の大きさ
8 / 62

7 雪原の幕舎

しおりを挟む

「あの、お待たせしました。うおぁ・・・」

 強い吹雪が周囲を覆っている。わずかな距離しかないはずの目の前の兵士も視認できない。

 ディアルトが足を深い雪に捕られて転びそうになり、箱をドスンと落とすと、それを慌ててフルエンサが周辺の兵士に抱えるように指示をする。そしてさっそく幕舎に運び込み開封させると、急ぎ分担して前線へと運ばせる。

「すみません・・・」

 慌てるディアルト。

「火薬玉だから濡れたら使えなくってしまう。まあ、サンアルトであれば水濡れ対策を心配する必要も無いだろうが。どんなことでも注意に注意を払うことは戦場では特に重要なこと。よく届けてくれた。」

 フルエンサがニコっと笑うと、ディアルトとレンに頭を下げた。

「サンアルトから君たちのことは聞いているよ。私は総隊長のフルエンサだ。火薬玉を依頼させてもらった。」
 ディアルトとレン、両方に順番に視線を合わせて笑う。

「はい、あ、あの、ありがとうございます。届けましたので、ここに名前を書いてください。」
 フルエンサが差し出された紙に丁寧に受領した旨を記載すると、すぐに戻ろうとするディアルト達を止める。

「これからもっと吹雪が強くなる。少しここで休んでいきなさい。」
 たしかに先程よりもっともっと風が強くなっている。雪も大きく濃くなっている。

「どうしようかな、でも簡単に止みそうも無いから、戻ろうかな。」

「うん、まあ、飛べない風ではないかな。重い荷物も無くなったし。」

 ディアルトとレンが顔を見合わす

「これからもっと吹雪が強くなる。それからすぐに雪はかなり弱くなる。それから帰ってもいいだろう。」

「え?天気がわかるの??」

「それでは、その話をしようか。こちらへおいで。」

 フルエンサが周囲の兵士達にあれこれ指示を飛ばしながら、手招きをして幕舎へと誘うと、素直にそれに従った。

「あの、その動物もこの中に?」

 幕舎を護衛する兵士がレンを見て驚く。

「そうだ。この少年の友達だ。」

「・・・へぇ。」

 珍しいものをじっとみる表情で兵士がレンに顔を近づけると、レンが大きく口を開けて甲高い雄叫びを上げた。

「僕は見世物じゃないよ。」

 雄叫びに驚いた兵士は、動物が言葉を話したことにもう一度驚くと、そのまま後ろにひっくり返った。


 幕舎は簡単な木製の太い柱と細く長い木、雪で作られており、とても暖かかった。
 幕舎の奥にフルエンサが腰を下ろすと、ディアルトに甘く温かいミルクを差し出した。

「君はなにを飲むのかね?」

 フルエンサが、ディアルトの隣でキョロキョロして落ち着かないレンをじっと見つめる。

「えっと、ディアルトと同じものが。」

「そうか。どうした?」

 同じ甘く温かいミルクを少し幅の広い容器に注いでレンの前に差し出す。

「なんか、こんなディアルトと同じようにしてもらうことって無くて。いつも表で待ってろって言われたり、鎖につながれたり。追い払われたこともあったから。アルト村の人達以外だと初めてかも。」

 フルエンサが笑う。

「姿というのはそこまで重要なのであろうか。人である、竜である、そんなことで区別をする必要が私には感じられない。現にこうして人と人は争っているわけだからな。」

「は、はあ。」

 ディアルトが誤魔化すように笑うと、ミルクをチョビチョビと口に含んだ。

「人も、竜も心が通じていれば、姿は関係ないと。まあ、頭で考えてわからなければ、これからお互いに実感していけばよいのではないかな。」

「はい、あの、ありがとうございます。」

 なんか良い言葉を聞いたと考え込んだすぐ後に、勉強みたいで面倒と感じたディアルトが頭を下げる。
 その隣で、レンが息をのんでじっと考え込んでいる。
 その若い反応をフルエンサが楽しむ。

「そうそう、天気だったね。」

 フルエンサが合図をすると、フルエンサと同年齢ぐらいの老女が色々な記号の書かれたカレンダーのようなものを持ってきてそれを広げた。

「簡単に言うと天気を予想するには、色々なものを観察するのだ。空・雲・風、鳥や動物の動き、温度の上昇降下、あとはこれだ。」

 それは、ガラスでできた4つの足のある球形の容器の中に着色された水が半分程度入れられ、その容器の下方からその水が往来できる細長い管が上方に伸びている、なんとも不思議な形状のものだった。

「これが水気圧計、この細い管の部分の水の位置で気圧というのがわかる。それも重要な情報の一つだ。」

「綺麗なガラスの製品だね。すべて均等の厚さで歪みがない。接合部も水の往来を一切邪魔しないように丁寧に作られている。これを製造した人は達人だね。アルト村でもガラス細工は作るけどこんな精密なのは作れない。」
 ディアルトが水気圧計をじっとながめると、明るい幕舎の入り口側に向けて透かしてじっと眺めた。

「ほう、君はこの水気圧計をガラス細工として見るか。実に興味深い。」

「あ、で、これで何がわかるの?」

 横からレンがディアルトの持つ水気圧計を覗き込んだ。

 そこに、先程の老女が持っていた記録紙を床に広げた。

「はいはい、このオババが教えましょう。細長い管の水面が下がったときは、晴れることが多い。上がるとその逆です。それだけでなく、空や雲、風の強さや湿った感触など、色々な条件を毎年毎年複数の場所で記録して、過去の天気と付け合わせて予報します。」

 ディアルトからみたら、その記録紙に記されたマークは子供の落書きにしか見えないが、日付を見ると毎日毎日繰り返し丁寧に記載されている。

「彼女はもう70年は記録を続けていて、高確率で天気の細かなところまで予想することができる。我らの戦略はこの天気図を元に立てることも少なくない。貴重な情報だ。しかもその先代から、ずっとその記録紙は受け継がれている。まあ、このオババこそが天気を予報する最も重要な情報だな。」

 フルエンサが誇らしげに笑うと、老女が照れた表情をして胸を張る。

 その間にも、入れ替わり兵士が戦況を伝えに幕舎に入ると、その都度、細かい指示を出す。

 こうして話している間にも、徐々に外の雪が弱まっていく。
 外の様子を眺めるために幕舎を出た。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

異世界ランドへようこそ

来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。 中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。 26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。 勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。 同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。 ――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。 「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。 だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった! 経営者は魔族、同僚はガチの魔物。 魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活! やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。 笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。 現代×異世界×職場コメディ、開園!

処理中です...