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8 勝利と引き際
しおりを挟む「本当だ。雪が弱まった!すげーっ!!」
素直にディアルトが喜ぶと、老女が持っている水気圧計を再び受け取って空に掲げて透かしてじっと見つめた。
それからすぐに複数の場所で火薬玉が破裂する音が響くと、大きな叫び声が一斉に複数個所で発生する。
ディアルトとレンが共にからだをビクッとさせて驚くと、フルエンサが数歩前に移動して周りを見渡す。
急に静かになり陣内に緊張が広がる。
「なに、雪が弱まったら一斉に進撃する作戦だ。実は火薬玉が間に合うかヒヤヒヤしていたのだ。さて、全軍動き出したようだな。」
それからすぐに右側の方向から赤色の煙が昇ると、ほぼ同じタイミングで左側からも赤色の煙が昇る。
陣内に歓声が上がる。
「赤色の煙は奇襲成功の合図。3部隊の内、2部隊が優勢の様だ。残り1部隊、中央の主力は見合っているようだな。」
それからしばらく皆が無言のまま待つと、右の方向から兵士が駆け寄ってくる。
「第三隊、敵を打ち破り進軍中!」
「よくやった!あまり深入りしないように注意をするように伝えてくれ。それと半数を中央の第一隊に向けるようにと。」
「はい!」
その兵士は全速力で戻って行く。
それからしばらくして、中央からも赤色の煙が昇ると、全部隊が優勢となりさらに進軍を進めた。
「あの、勝ってるの?」
忙しく指示を飛ばすフルエンサ総隊長がホッと息を吐いたときディアルトが現在の戦況を記した周辺地図に陣と隊の配置を記した地図を眺める。
「油断はできないが。概ね計画通りだ。」
「へーっ。すごい。」
正直、自分たちの視界にない戦闘に実感は湧かなかった。
「じゃあ、このまま敵をやっつけるんだね。」
「ふむ。今日はこのあたりで終わろうかと思う。退却の合図だ!」
ディアルトの問いかけに考えたまま答えると、フルエンサが周囲の兵士に退却の合図を出すように指示を出す。
この本陣から白色の煙が断続的に昇る。
「え?勝ってるのに退却?なんで?」
「今日は十分に勝った。あまり勝過ぎてもよくない。引き時というのがあるのだよ。」
「ん?よくわからないけど。勝つ方がいいに決まってるよね?」
「戦の極意とは負けないこと。勝つことではないのだよ。難しいかな?」
「・・・?勝っちゃいけないってこと?なんで?」
「それは、ぜひ、自分で争いとは何かを考えて欲しい。これは私の考え。ディアルトはディアルトの考えがあるはずだ。」
「よくわからないよ。」
「まあ、今日は戦とは何かを考えるきっかけが得られたということだ。それは大切なことではないかね?」
「うん。まあ、考えてみるけど。」
「少し早かったかな。」
「いや、なんか大切な気はする。よくわからないけど。」
「何事も考えるということが大切なのだよ。よくわからないということがわかっただけでも、一つの進歩だ。」
「まあ。はい。ありがとうございます。」
正直何を言っているのか、途中からついていけなかったし、なんか、雪が弱まった空がキラキラと綺麗だということに気を取られてしまっていた。
「レン、帰ろうか。これ以上遅くなると暗くなっちゃうかも。雪が弱いうちに帰りたいし。」
「引き留めて悪かったね。また、遊びに来てくれ。」
「あの、また買ってください。」
「ああ、こちらこそ頼むよ。」
レンが勢いよく大地を蹴って羽を広げて空に舞うと、滑空してディアルトと一緒になり空を飛んだ。
上空を数回旋回してフルエンサ達に別れの挨拶をすると、一度戦場を上空から眺め、アルト村へと戻って行った。
「なかなか面白い少年だ。それに、あれがサブヒュムと言われる生き物か。しかも変わる前の白い竜。これは吉兆なのか、それとも悪い予兆なのか。いずれにしても、何かが動こうとしているのはこの年になってもワクワクするものだ。」
去っていくディアルト達をじっと眺めながら、フルエンサのからだがジワーっと震えるような熱さを感じていた。
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