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18 不安の献上
しおりを挟む既に夕方。
案内した兵士は屋敷の入り口に立つと、その屋敷を専属に警備している体型のがっちりした、いかにも屈強な兵士たちに布袋を渡して、深く頭を下げ足早に、元の持ち場へと戻って行った。
奥から黒色の正装をした執事が現れると、小さく頭を下げた。
「ご案内いたします。こちらへどうぞ。」
「は、は、はい。」
店主が直立不動で応えると、執事が手を差し出して案内をする。
広い広い屋敷の中を迷路のようにまっすぐ行ってから右に曲がり左に行って上に昇り降りて右へ左へ曲がり、なんか広い廊下をまっすぐ進むと、その突き当りの扉を執事が開く。
「こちらで少々お待ちくださいませ。」
「は、は、はい。」
店主が深く頭を下げると、その部屋の扉がバタンと閉める。
「ふぅぇあぁえぇあ。緊張した。」
「ちょっとガチガチすぎじゃない?」
ようやく二人になり、店主がフニャフニャと崩れるように床に座り込む。
広い部屋。おそらく店主の店の2倍以上あるだろうか。よくわからない絵画や悪趣味な人形、壺とか宝石が丁寧に並べられている。
不気味なのが太い剣を構えた銀色の重厚な鎧が3セット。動き出したら・・・と考えるとブルブルっとからだが震える。
それでも、その鎧のセットに挟まれた、ふかふかの黒色の椅子にドスンと腰かけるディアルト。
緊張して立っていることしかできない店主は辺りを見渡すと、血をふき取った跡のようなものが多数有ることに気付き、さらに顔をこわばらせる。
そんなこんなしながら時間が経つ。
店主がテーブルの上に用意された果物をパクっと食べる心の余裕ができると、深く椅子に腰かける。
それからさらにどれくらい経っただろうか。外が真っ暗になってからしばらく経つ。
さすがの店主も緊張を完全に切らせると大きなあくびをして、テーブルの果物を食べ尽くすと、部屋の配線などをいじりながら退屈を紛らわした。
扉からコンコンという小さな音が響く。
そして、ゆっくりと扉が開くと、先程の執事が小さく笑ってから部屋に入ってくる。
「エクシア様が参られました。」
突然の声に驚いて立ち上がる店主。
それに見習いディアルトもその場に立って迎えた。
荒々しくドタドタと入ってきたのは黒い帽子を被り、長い口ひげを生やした男。
ディアルトが想像していた知識部門長の想像とは違い、戦士のような筋肉質な体型と荒々しい動作、少し疲れた表情。
そして、その後ろにはディアルトよりも少し年上だろうか、3冊の本を抱えた男の子が立っていた。
ディアルトがお辞儀をすると、返すようにお辞儀をした。
「なにか良い物を献上してくれるらしいな。」
椅子に座ると同時に店主の持つ布袋を催促した。
それに促され、店主は持っていた布袋から中身を取り出した。
そこには、赤く輝く宝石が入っていた。
「これは、いつも我々のために苦労をされているエクシア様への御礼でございます。これからも、商売繁盛、よろしくお願いいたします。」
エクシアの顔がほころぶ。
「そうか、そうか、これは今までの苦労が吹き飛ぶわ!」
笑ってそれを受け取るエクシア。それを見ていた店主がディアルトにも促す。
「あの、これを!」
ディアルトもあらかじめ店主に持たされていた重い布袋と、エクシアと書いた布袋の二つを手渡した。
先にジャラリと重い布袋を開いて、中から金貨を取り出すと喜んでディアルトに笑顔を返す。
続いて、もう片方の軽いエクシアと記載された布袋を開くと、その中には、布袋の中にも同じく、エクシアと書かれた布が入っていた。
それもかなり古いもので字が滲んでおり、大変汚いものであった。辛うじて読める程度の古さ。
首を傾げるディアルトの横では店主が驚いて目を丸めている。
「これは何だ?」
エクシアがディアルトに問いかけるが、ディアルト自身も何もわからなかった。
訳もわからずに立ち尽くすディアルトを横目で見ながら、店主が笑った。
「この子はエクシア様を尊敬しているのです。なので、この子の精一杯の贈り物です。」
「そうか。それは嬉しい。」
とっさに出た店主の言葉であったが、贈り物を受け取ってご機嫌なエクシアは、笑ってその布を受け取り、ディアルトに礼を言った。
「この布に心あたりはありませんか?」
せっかく場を取り持って安心した店主の顔が再び強張る。
じっとその布を見るエクシアだが、首を傾げ、横に立っていた男の子にその布を渡した。
「何か私にはわからん。教えてくれるか?」
少し機嫌が悪い顔をしたエクシアがディアルトに問いかけた。
「私にもわかりません。」
不思議がって困った顔をするディアルト。
「・・・ええと、私に何をしてほしいのかな?」
少し子供を気遣う仕草をするエクシア。
「この布を知らないですか?あの、これです。」
ディアルトが男の子からエクシアと記された布を奪う様に握ると、再びエクシアにそれを見せた。
「だから、わからんと言っているのだが。」
「でも!」
店主がディアルトを抑えて引き剥がすが、明らかに不愉快になったエクシアは立ち上がり、兵士に何かを告げると先ほど受け取った宝石を持ち、部屋の外へ向かい歩く。
その横で先程の男の子がエクシアにすぅーっと近づいて深く礼をする。
「このディアルトは私の昔の知り合いなのです。本日は私の家に泊めてもよろしいでしょうか。」
「駄目だ。何の役にも立たん。」
「昔、この者の父親に恩があります。どうか。」
出て行こうとするエクシアの前に立ちはだかり、深く男の子が頭を下げる。
「勝手にしろ!朝になったら追い払えよ。」
その男の子の肩を掴むと力任せに強引に床に突き倒したエクシアは、急ぎ足でドタドタドタと部屋を出て行った。
男の子は床に手を突いて素早く立ち上がると、エクシアが去ったのを扉の外を覗いて確認する。
その様子を眺めていた執事と視線が合うと、男の子が深く頭を下げてから、店主とディアルトに手で合図をしてゆっくりと屋敷の外に歩き出した。手には、執事から受け取った蝋燭が入った灯り。
「今日はもう遅い。僕の家に泊まっていくといい。」
「いや、エクシアに用があって!」
それに黙ったまま、男の子が暗闇の中をわずかな手に持った灯りだけで進み、今のエクシアの屋敷から少し離れた一軒の家にたどり着いた。
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