29 / 62
28 兄の名にかけて
しおりを挟むミクシアの意思を理解したもの、特に工作所の仲間が怒りに震えて大きな声で叫び暴れた。
それを周囲がどうにか取り押さえようとするが、暴動はさらに増大していく。
全体的に判断すると、ミクシアを人質に出すことに賛成の人が多かったのだが。
「提案する。」
奥から静かなバブの声が聞こえた。
静かだが、神聖な響きを持つその声に反応し、周囲はシーンと静まる。
「決議を守らない者は国外追放とし、王族であれば身分剥奪、永久にこの地を踏ませないこととする。」
静まった傍聴者やルビト、スパル、ミクシアもその提案に驚き、再び言葉を失う。
だが、すぐにミクシアは小さく笑う。
「それは厳しいかと。」
ルビトが言葉を探す。
今まで決議で反対されることはほぼなかったため、守らなかった場合の罰則はなく、形式的になっていた。
ここまで厳しい内容の決議は初めてだった。
以前、エクシアをイルエスタに送ったときも決議はあったが、それも形式的であり、実際はすでに決定していた内容であった。
エクシアも納得のうえだった。
「賛成だ。」
戸惑う周囲をよそに、真っ先に手を挙げたのがミクシアだった。
バブの提案であったことから、つられてルビトとスパル、傍聴者も手を挙げた。
「決議の結果をまとめよ。」
再びバブの静かな声が響いた。
それを聞き、ミクシアが発言する。
「イルエスタへのエクシアの代わりの人質はミクシアとし、それを受け入れない場合、俺は身分剥奪、永久にこの地を踏まないことを約束する。」
周囲から、戸惑いながらも賛成の拍手が起こった。
ルビトもスパルも納得していないのは明らかだった。
そして、解散が宣言され、バブと代表3人とディアルトがその場に残った。
「お疲れ。」
表情一つ変えず、見下すようにルビトとスパルに告げるミクシア。
「初めからこの地を去るつもりだったのね?」
ルビトが何かを悟ったようにささやいた。
「残された者はどうなるか考えたことがあるか?」
スパルも疲れたようにつぶやく。
しばらく沈黙の時間が過ぎる。
正直なところミクシアも、チャクミの民のことを思うと、どうしていいか分からなかった。
ルビトとスパル、二人が正しいのだろうと本心から思った。
自分も立場が違えばチャクミを守るだろう。自分一人の意志で500人を危険にさらしている自覚はあった。
沈黙は一人の男によって破られる。
ミクシアの父は大きな袋を抱え、ドスンとミクシアの前に置くと笑った。
そしてその袋を開けて、中の宝石や高級そうな指輪などを見せる。
「これをイルエスタの使者に渡せば、人質の件について説得できるだろう。」
袋を逆さにして、中身をすべて出すミクシア。
「イルエスタの知識部門長のエクシアがチャクミからの人質を要求しているのであれば、あいつなら買収できる。どこの国でもやっていることだ。ましてやこんな辺境の地、そんな真剣に考えもしないだろう。」
ミクシアの父が少し名残惜しそうにちらっとその宝石を見る。
「ミクシア、お前の覚悟を受け止めた。俺も父としてできることは援護する。」
ミクシアは緊張が緩んだのか、肩の力を抜き、机に手を突いた。
「決めた。」
バブ、ルビト、スパルを順に見回し、拳を握り締める。
「俺はイルエスタを倒し、エクシアの敵を討つ。父も賛成してくれたことだ。」
ディアルトもその真似をして、拳を握り締める。
深く息を吐くと、小さく笑った。
「やっぱり、国のためって考えても駄目だった。俺はエクシアの兄貴なんだ。だから俺が敵を討ってやらないと。あいつは俺のかわいい弟だからな。」
それを聞いてディアルトが大きな笑みを浮かべる。
「エクシアのためにイルエスタを討つ!そして父さんを助ける!」
ディアルトが満足の笑顔でミクシアに近づく。
ミクシアの父も拳を突き出し、ミクシアと拳をぶつける。
それを見ていたルビト、スパルも輪に入り、拳をぶつけた。
それをバブは黙って見ている。
あらかじめ、ミクシアの父はバブだけに、息子ミクシアの考えがイルエスタ討伐にあると告げていた。
そしてこの村を離れるだろうことも。
その後押しをしたバブの提案は、ミクシアの覚悟を確固たるものとした。
「それは死ぬよりも大変なことだぞ。一人が巨大な国を討つ、その覚悟はあるのだな。」
バブの声が響く。
それにミクシアがうなずく。なんかわからないが、つられてディアルトもうなずく。
「分かっているのです。頭では。チャクミを守ることの大切さ。エクシアの思いも。
でも、俺は俺の大切なものを守りたい。どうしても、心が、心が痛い。なにかが沸き上がる、それが止められないのです。すみません。」
「それは使命感だ。若さゆえの。」
バブも笑う。
「そんな感じです。すみません。」
ミクシアはディアルトの頭をくしゃくしゃとなでると、バブに向かい深く頭を下げた。
父とともにこの場を去っていった。
34
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる