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29 偽りの死と、小国の選択
しおりを挟むイルエスタからの使者がチャクミに着く前に、ミクシアは旅立つことになった。
使者がミクシアを知っている者であれば、面倒になる可能性があるためである。
自宅に戻り、すばやく旅支度をしていると、ミクシアの母が入ってきて、何も言わずに座った。
ミクシアも座り、お互いに深くお辞儀をした。
「ごめん。」
謝るミクシアの手を握り、母が頭を下げた。
「私は誇らしい。ただ、からだにだけは気を付けてね。」
「ありがとう。」
ミクシアも再び頭を下げる。
そこに父も現れ、三人で昔話をわずかな時間、楽しんだ。
旅支度を終えたミクシアを、父と母がチャクミ村の入り口で見送る。
「後のことは任せろ。」
どこからかスパルの声が聞こえた。
「かっこいいわよ。」
見えないが、ルビトの声も聞こえる。
村の看板に向かったミクシアは、深々と頭を下げた。
村の外から怒鳴り声が聞こえた。それも複数。
「うちらをおいていくつもりですか!?」
それは工作場の従業員、仲間達だった。
背中に重そうな荷物を背負った仲間達が20人、普段の作業着姿とは違う旅支度をして、ミクシアを出迎えた。
「おまえら、そんなに荷物背負って…旅の格好じゃないよな、それ…」
「工具はおれらの命だから、全部持ってきましたよ。工作場の引っ越しです。」
みんな笑った。
「仲間っていいなぁ。」
ディアルトはそれを見て、うれしくなった。
そして何も言わずに、ミクシアは急ぎ足で村を旅立った。
イルエスタの使者に会わないように、できるだけ小さな道を隠れながら進む。
重たい荷物を背負った従業員達は、どたどたと音を立てながらゆっくりと歩く。思うように進めない。
しかし、誰も工具を置いていこうとする者はいなかった。
工作場の従業員達にとって、この工具は守りたいものの一つであり、自分達の手足のようなものだからだ。
「俺が持ってやるから、渡せ。」
「大丈夫です。」
唯一の女性であるララから、強引にガチャガチャ音のする荷物を取り上げると、ミクシアが肩に担いだ。
「本当に引っ越しだな。」
ミクシアが先頭を歩き、振り向いて止まると、後ろをついてくる仲間を見て笑う。
「なんか、楽しいね。」
ディアルトも笑った。
空を見上げると、レンが旋回して、ゆっくりと飛行していた。
ミクシア達が去ったすぐ後、本当にわずかな差でイルエスタの使者がチャクミに到着した。
豪華な馬車に偉そうな役人。それを護衛する複数の重騎兵。
国王であるミクシアの父がその役人と交渉し、準備した宝石や貴金属を受け渡す。
その結果、スパルとルビトの二人がイルエスタ本国に送られることになった。
これは、スパルとルビトが自ら申し出たことであった。
また、使者にはミクシアは病死したと伝えられた。
これは渡した宝石の力で、特に検証もされずに記録された。
表向きは、チャクミ第三王子エクシアの代わりの人質であるミクシアが死亡したため、スパルおよびルビトが人質となる、ということで許され、宝石や貴金属はすべて知識部門長のエクシアの財産になったという。
チャクミはバブの元で三人の新たな代表が選出され、また新たな国づくりが始まった。
束の間の平和を、再び取り戻したのである。
小国は、大国への理不尽を抱えて暮らしていく。
そして、大国への服従に対するささやかな抵抗が歴史を動かすことは、限りなく低い可能性であるが、ゼロではない。
それが歴史の面白いところである。
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