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38 流布された真実
しおりを挟む不穏な空気が漂っていた。
浮足立つ兵士たち、そしてラン大陸の民衆。
「おい、聞いたか? イルエスタから原石っていう強力な爆弾が運び込まれるらしい。どうも、それでコラン大陸を吹き飛ばすつもりだとか。」
「聞いた聞いた。国王たちは恐れて逃げていったって噂だ。」
「もうイルエスタの大軍が、ラン大陸に上陸しているらしいぞ。」
「降伏すれば助かるが、逆らえば八つ裂きにされて、あんなことやこんなことをされるって……うわぁーーー!」
「今のうちに逃げるのがいい。すでに大勢の人々が逃げ始めているらしい。」
「どうやって逃げたらいいんだか、わからんわぁ。」
「イルエスタに協力すれば、報奨金がもらえるって話もあるぞ。」
「でもさ、国王とその側近が逃げたら、もう戦えないだろ。指揮官がいないんだから。命令系統もバラバラだ。勝てない戦なんて、するだけ無駄だよ。」
「せっかく貯めた財産も、どうせイルエスタのものになるなら、全部使っちまおう。」
それは、ラン大陸全土で同時に発生した混乱だった。
その発信源は特定できない。だが、カラン、コラン、キラン、ケラン――四つの大国の首都とその周辺を狙った噂であった。
コラン王以外の王がすでにイルエスタに向かったという情報もあり、
民の間では「すべて真実だ」と信じられ始めていた。
そして、コランでも王とその最側近ジーンが国を離れていたため、暴動に近い混乱が起こっていた。
その知らせは、遠く離れた地にいるコラン王とジーンの元にも届いた。
「コラン国が心配だ。私は至急戻る。」
コラン王は体調を押して、身支度を整えた。
「ジーンよ、お前も戻れ。」
迷いを見せるジーンに、キーンが言う。
「カランの港を守らねば、このラン大陸が終わる。私はここに残る。それにしても、このタイミングで噂を流すとは、イルエスタの仕業だな。」
「お前が残っても何も変わらない。行くなら早く行け。最低限の兵士は残していけよ。」
ミクシアが手を振りながら、そっけなく言った。
「年上に生意気なやつだな。……まあ、確かにその通りか。俺の兵士はすべて置いていく。」
「別に、そこまで残さなくてもいい。」
ジーンは軽く笑ってから、真剣な声で言った。
「ひとつ言っておく。お前も十分警戒しているだろうが、周囲には気を付けろ。この情報の流布、用意されたものだ。」
「ああ、わかってる。」
それからすぐに、ジーンとコラン王は国へ戻っていった。
入れ替わるように、上空からディアルトとレンが姿を現した。
「ここ、探しにくいんだよね。」
リヴィエラが高い位置から軽やかに飛び降りると、すぐ隣に深紅の竜レンが着地して羽をたたんだ。
「それで、どうだった?」
「ああ、見つけたよ。すっごく光ってるから、遠くからでもすぐにわかった。」
「そうか。それなら砲撃しやすいな。」
リヴィエラが小首を傾げる。
「難しいと思うよ。こっちの大陸から移動する船がたくさんあるからね。撃ったら、その船に当たっちゃうかも。
それに、敵の船を爆破したら爆弾が誘爆して……いろんなものを巻き込んで大惨事になると思う。」
「なに? 船が?」
ミクシアが山の中腹から、カランの港の方角をじっと見つめる。
かすかに灯る光の列。
船は霧のような薄明かりに包まれ、遠くからでは航路が判別できなかった。
「やられた。そう来たか!」
ミクシアが唇を噛む。
「このタイミングでの噂の流布。民間の船を利用して、イルエスタの船を守るのが狙いだったか!」
「ハズレ。狙いはここだよ。」
その声と同時に、背後から冷たい金属の感触が押し当てられる。
コラン兵の一人が、ミクシアの背中に銃口を突きつけていた。
「はい、動かないで。武器を捨てて、両手を上げてね。」
落ち着いた若い女性の声。
コランの鎧の下には、黒いフードが深く被られており、顔は見えない。
ミクシアは静かに両手を上げた。
一斉に、周囲のコラン兵たちが剣を抜き、身構える。
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