公爵様が信じるのは奴隷だけ

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朝、目を覚ますといまだ見慣れない部屋。
この屋敷に来て、もう1週間がたつというのに未だ慣れなかった。


ベッドも机も部屋の中にあるすべてが一級品である。
足りないものがないかと言われたが、どう見ても足りないものなどなく、十分すぎるほどにしか思えなかった。



身支度を整えて、部屋からおずおずと出る。


「おはようございます、ユーリ様」

廊下に出ると、屋敷中の鎧戸を開けているのだろうネアがユーリに向かって挨拶と頭を下げる。

「…おっ、…おはようござい、ます」

ユーリはびくっと身体を震わせるが、小さな声で答える。

未だ慣れない。
これでもようやく自分に向けられる言葉に少しずつ返答ができるようになってきたのだ。


ぺこりと頭を下げ、足早にその場を離れる。


階段を降り、食堂のドアを開けるとまた自分に言葉が向けられる。

「「ユーリ様、おはようございます」」

食堂には今日の食事の準備をしていたのだろう、ルディとノアが入り口にいるユーリに挨拶をする。

「…っ!」

その言葉にまた驚きで身体を震わせる。
未だ慣れることのないユーリはドアノブに手をかけたまま身体が動かなかった。



「ユーリ?」


後方から自身の名を呼ばれる。
その声にすぐ振り向くこと等できず驚きで身体を強張らせるしかなかった。


反応しないユーリを不思議に思ったのか、自身の肩にポンと手が置かれる。

それに自分の体が一番大きくびくついた。



その反応に肩に置かれた手はすぐにひっこめられる。

「…っ。…急にすまないな」

愁いを含み沈んだ声で告げられた謝罪の言葉に、ユーリはばっと後ろを振り向いた。

そこには気まずそうな視線を向ける、あまりにも突然に自身の養母となったイザベルがいた。


「あっ…、ち…がっ」

ユーリはすぐに弁明しようとするが、きちんと説明できるような言葉も、聞こえるような声も出なかった。

口から出たのは誰にも聞こえない様な掠れ声だけ。



イザベルの耳にはその声は届いていなかった。


「…ユーリ、食事にしよう」

俯き、その身を震わせるユーリを見て、イザベルは少しだけ困ったような表情を浮かべて、食堂の中へユーリより先に足を踏み入れた。


その背中をみて、ユーリは狼狽える。




あ、違う

ちがう違う違うのに!

驚いただけ。本当にただ驚いただけだったのに



何か言わないと!早く伝えないとダメなのに!




そう焦る感情とは裏腹に、ユーリの口から何か言葉が出てくることはなかった。
















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