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しおりを挟む「ヨハンお兄様、お兄様は神語理論の分野がお好きなのですか?」
ヨハンをお茶に誘うことの出来たアディリナはヨハンへと尋ねる。
「別にそんなわけではない…」
ヨハンはまた冷たく返答してしまった自分に顔を小さく歪めた。
「もう書庫の史学や語学、哲学理論などは読んでしまったから読んでいるだけだ。」
そう言葉を続けたが、自身の返答のつまらなさにヨハンは自分でも呆れてしまった。
「まあ!」
しかし、アディリナはヨハンの言葉を受けて目を輝かした。
「あれだけ多くの書庫の本を出すか?お兄様は本当に凄いです!それにいつも読まれている難しい本も1回で理解してしまっているし…。私はなんて先程の部分が理解できなくて、5回も同じ本を読んでしまったのですの。」
尊敬を含み、ただヨハンを慕うアディリナの言葉にヨハンはどう反応していいのか分からなかった。
――――――――――――――――――――――――
ヨハンは自身でも自覚しきれていない明敏な頭脳の持ち主である。
普通であれば学習に努力が必要な分野も、ヨハンは一度集中して本を読むだけで理解できてしまう。
そのあまりに優れた才は、幼い頃から一人で本を読んで過ごすことばかりで、母や周囲の者たちは実兄のセドリックにばかり期待していたから気づかれていなかったのだ。
本ばかり読んで書庫に篭っている卑屈な王子だと評価されていた。
しかしヨハンは、兄たちに幾分武術の際は劣るが、明敏な頭脳の持ち主である。
それは、王位候補として申し分のない能力だろう。
――――――――――――――――――――――――
ヨハンは慣れていない純粋な賞賛に居心地が悪くなり、無理矢理に話題を変えた。
「お前こそ、急に神語理論を読んでどうした。普段は哲学理論の分野を読んでいたと思ったが。」
「ヨハンお兄様が神語理論の本を読んでいたので、私も読んでみたのです。やはりわたしには少し難しかったですが…」
照れた様に少し小さな声の返答に、ヨハンは面食らった。
―わからない。なんでこいつはそこまで俺に構うんだ。分からない―
少し俯き、黙ってしまったヨハンに、アディリナは自身が何かまずい事を言ってしまったのかと思い、話題を変えることにした。
「私は哲学理論を読むことが多いのですが、ヨハンお兄様は好きな学者様や理論はありますか?私はシトラヴィスの理論が好きでよく読んでいましたの。」
ヨハンはその質問にやっと自身の感情を揺さぶられる事なく安堵して返答した。
「俺もシトラヴィスの理論は嫌いじゃない。この国ではモットラム理論派の方が支持されているがな。」
「モットラム理論も読みましたが、私はやはりシトラヴィスの理論の方が好ましいです。シトラヴィスの身分が低かった事で正当な評価を受けていない事がとても残念です。」
「ああ、俺もそう思う。イヴァノフ王国の女神信仰にも、シトラヴィスの理論の方が親和しやすいだろう。」
2人は意識していなかったが、この共通の話題で多くの言葉を交わし合った。
普段は口数の少ないヨハンも自身の知識に共感して、言葉を交わし合える者に初めて出会ったのだ。
時間はあっという間に過ぎていった。
――――――――――――――――――――――――
「…あっ、もうこんな時間。ヨハンお兄様、私楽しくてこんなに長くお引き止めしてしまって、ごめんなさい。」
ふと時計に目を止めたアディリナは、過ぎた時間の長さにハッと驚き、申し訳なさそうに謝罪した。
「いや、気にするな。時間を見ていなかったのは俺も同じだ。」
ヨハンは自分がこんな時間を忘れる程夢中になっていることに驚くしかなかった。
「あっ、あの、ヨハンお兄様!」
椅子から立ち上がろうとしたヨハンにアディリナは思い切って声をかける。
「…また一緒にお話ししてくださいますか?」
ヨハンに断られるのが不安だという様に両手を握りながら少し俯く。
ヨハンはやはり、なぜアディリナが自分に好意的なのかがわからない
「最初に言った様に俺と話しても得なんてないが。……それでもよければまたな、アディリナ。」
ぱっと上がった顔に見えるアディリナの満面の笑み。
ヨハンはアディリナがなぜ自分に好意的なのかわからない。
しかしただ一つ分かったのは、今のアディリナの美しい笑みは俺に向けて、俺の言葉が笑顔にさせた
それだけはヨハンは理解できた。
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