美しきモノの目覚め

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セドリックとカールが去り、ヨハンの腕に抱かれたままのアディリナはようやく落ち着きを取り戻し、今の状況を理解した。

はっと気づき自身の兄であるロドリクに視線を向ける。
こちを見つめているロドリクとは容易く視線が交わった。

そして、アディリナ満面の笑みをロドリクへと向ける。

「ロドリク兄様!」

ヨハンはそんなアディリナの様子に驚き、思わずロドリクに視線を向けるが、ロドリクは変わらずに微笑んだままだった。

「…ああ。久しぶりだね、アディリナ」

その言葉にアディリナはロドリクに向かって更に笑みを深くした。






――――――――――――――――――――――――





ロドリクの生みの母である第三妃エルザ・ル・イヴァノフ。
エルザはイスマエルの従妹、前国王の弟の娘だった。

王家直系の血筋を少しでも残す、そのためだけにイスマエルの妻として選ばれた存在だった。


イスマエルとエルザの間に愛はない。
しかしそれでも親愛の情は少なからずあった。



エルザはひどく退屈していた。

生まれてから今も王族として王宮で過ごす日々。決められた相手との結婚。

エルザの人生はずっとずっと周りに決められて生きていた。


決められた結婚相手であるイスマエルに、親愛の情はあるが、燃え上がるような熱情が沸きあがることは決してなかった。

それでも周囲の期待に応え、エルザは息子であるロドリクをイスマエルとの間に設けた。




ロドリクを生んでも、エルザの心中は満たされない。
息子に対しての愛はある。大事に大事にエルザは育てた。


退屈。しかし、退屈だった。
エルザの渇きは子供が生まれてすら満たされることはなかった。



そんな妃としての生活の中、エルザの人生を変える出会いがあった。


自身の後の第五妃として迎えられたフェリシナの存在。


最初は幼い頃より知っているイスマエルが寵愛を向け、狂わせるフェリシナに純粋な興味が沸いただけだった。


しかし、そんなわずかな興味

それをエルザがフェリシナに狂うきっかけになるとは、その時想像だにしていなかった。




「フェリシナ、この菓子はどう?お茶もあなたのために準備をさせたのよ」

「エルザ様、ありがとうございます。とても美味しいですっ」

エルザの宮の庭園で2人そろってお茶を楽しむ。
フェリシナの美しい笑みを自分が作っていると思うと、エルザは喜びが胸の中に染みわたってたまらなかった。


イスマエルの妻の中で家の後ろ盾もなく、身分がずば抜けて低いフェリシナがアディリナを身ごもり、無事出産までたどり着けたのは、イスマエルの寵愛のほかに、第三妃であるエルザがフェリシナの最大の後ろ盾となって守っていたからである。


















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