54 / 72
二章 過去編
第52話
土曜日、久しぶりに時間が出来たので、アキラと行きつけのバーで会った。先日の大輔との一件を話すと、それみたことかと笑われる。
「だから、言ったろ。無理だって」
アキラが、頼んだウイスキーを一口飲んで言った。
「それに、お前あのお嬢様から好かれてないだろ?」
「これから好かれるんだよ」
辰美はギロリとアキラを睨み返して、注文した酒を飲み干す。
帰ってくる言葉は何となく分かっていたが、どうしても誰かに相談したい気分だった。
「玲子お嬢様の事を思えよ。あの子の幸せは、同じレベルの財閥相手と結婚することだろ?」
「そんなの分かんねーだろ」
辰美はやけになって、また酒を飲み干す。
「あー、お前酔ってんな」
「酔ってねーよ」
アキラが辰美の持っているグラスを取り上げながら、面倒くさそうに頭を掻いた。
「まあ、女の事は女で忘れろよ。最近ご無沙汰だろ?」
肩に回された手を振り払う。
確かに玲子に好意を寄せてからというもの、そういうことはご無沙汰だ。
でも、今はそんな気分じゃない。
「まあまあ、いい女呼んでやるからよ」
アキラはそう言って勝手に携帯を取り出し、誰かに電話をかけている。
どうしてもそういう気分になれない辰美は、帰ろうと立ち上がった。その瞬間、くらりと視界が反転する。
「おい、辰美? 辰美———」
辰美は唐突な眠気に襲われて意識を手放した。
◇◇◇
甘ったるい香水の匂いが鼻をかすめる。その匂いに誘われて目を開けると見知らぬ天井が映った。
「あ、辰美君。起きた?」
聞き覚えのない女性の声が聞こえ、顔を下げると、辰美の両足の間に女性が座り、今まさにベルトを外している。
漆黒の髪の毛に、華奢な肩。雰囲気が一瞬玲子に似ていて、急いで体を起こす。
しかし、微笑みかけてくる女性は全くの別人だった。
飲み込めない状況に混乱しつつも、女性に尋ねる。
「ここは?」
「ラブホだよ」
「何でこんな場所にいるの?」
「あー、えっと順を追って説明すると、まずアキラ君から連絡が来たの。それで、呼び出されたバーに行ってみたら、辰美君倒れてて。最近、辰美君ご無沙汰だから相手してやってってアキラ君に頼まれて、ここにいる」
余計なお世話だ。アキラをぶん殴ってやりたい衝動にかられ、体を起こそうとした瞬間、女性が馬乗りになってきた。
「なに」
辰美の冷ややかな視線にも負けず、女性は微笑む。
「アキラ君から色々聞いたよ。叶わない片思い中なんでしょ。よかったら、私で溜まったもの発散しなよ。アキラ君曰く、私、辰美君の片思いの女の子に雰囲気似てるらしいし」
ふふっと女性は笑う。
玲子はこんなにバカっぽい喋り方はしない。もっと、華があって凛々しい女性だ。しかし、どことなく、玲子の影がこの女にちらつく。
体のサイズだろうか、それとも横顔だろうか。良く分からないが、一瞬、一瞬、たまに玲子に映るときがある。
「いいよ、俺別にそんな気分じゃないから」
「えー、いいじゃん、私をその女の子だと思っていいからさ」
女性は、辰美の上でブラウスを脱いだ。キャミソール姿になり、改めて辰美と視線を交わらす。
「ねえ、ヤろ?」
その一瞬、玲子がちらついた。分かっている、雰囲気が似ているだけの女性なのだと。けれど、まるで玲子に誘われている気がして、心臓がドキリと跳ねた。
あなたにおすすめの小説
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
(第一章完結)ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン