新撰組の想い人 ~幕末にタイムスリップしたオメガの行方~

萩の椿

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第10話

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「大丈夫かい、お菊さん」

近藤は、腕の中で震えている慧に問いかけた。

「え? あ、はい……」

慧の返事はどこかうつろだ。顔は青白く、今にも泣きだしそうなほど瞳に涙をためている。

「お菊さん、ちょっと時間あるかい?」

近藤は穏やかな口調で尋ねる。

「え? はい。少しなら……」

そう言って顔を上げた慧の頭をなでて、近藤は慧の手を引いた。

















「うわぁ」

目の前に広がる景色に、慧は驚嘆の声を上げた。

青空の下、辺り一面、純白の花が咲き誇っている。

景色を邪魔する建物など一切なく、どこまでも花の絨毯が続き、春の温かい風に吹かれ、花びらが舞う。


「今まで、こんなきれいな景色見たことないです」

「大げさだなお菊さんは」

近藤が豪快に笑う。

「いえ、本当に。綺麗です……」

慧はうっとりと辺りを見つめた。

都会育ちなだけあって、今まであまり自然の光景を目にすることがなかった。

慧は心を奪われ、瞬きをするのも忘れて目の前の景色に見入っていた。


「ああ、本当に綺麗だな」

近藤は慧の横に並び呟いた。





しばらくして、慧は近藤に視線を移し問いかけた。

「あの、ずっと気になってたんですけど、その腰にさしてるのって……」

「刀か?」

「はい……」

男ならきっと誰しも興味を持つ所だろう。

なにせこの時代の戦闘器具だ。

それに慧は、大のゲーム好きで、特に侍が出てくる戦闘ゲームに目がなかった。

「その、本物ですよね……?」

近藤は一瞬目を丸くして、その後豪快に笑った。

「刀に、本物も偽物もあるか?」

「そ、そうですよね。何言っちゃってるんだろう、まったく」

そうは言いながらも、本物の刀なんて普段絶対に見れないものだからまじまじと見てしまう。

そんな慧の様子を見て、近藤は微笑んだ。

「持ってみるか?」

「え?いんですか!」

「さやは抜いちゃだめだぞ」

「はい!」

(やばい、僕、近藤勇の刀を持った人って自慢できちゃう)


近藤は腰から刀を抜き慧に手渡す。

すると、同時に慧の腕が下に沈んだ。

「あ……、重い!」

「まあ、お菊さんの様な華奢な子には、ちと重いかもな」

慧から刀を受け取った近藤は、一歩前に出て刀を振った。

「俺はこの刀で、日本を守るんだ」

風を切る音が耳に響く。

「異国から、不逞浪士から」

刀を振っている人物を生で見たのは初めてだった。

鍛え上げられた腕から振り下ろされる刀の音が予想以上に耳に響く。

ゲームとはまるで違う、張り詰めた空気。

ぶれない太刀筋から伝わる芯の強さ。

「かっこいい」

「……そうか?」

慧が無意識に漏らした声に、近藤は照れくさく笑った。


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