新撰組の想い人 ~幕末にタイムスリップしたオメガの行方~

萩の椿

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第11話

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その後、近藤と慧は女将にお使いを頼まれた「カレン」というお店に立ち寄った。

「口紅って、これか……」

紅と書かれた白い小瓶が棚にずらりと並んでいる。

色は良く分からないので、昨日蘭が塗ってくれたものと似ている色の口紅を選んで購入した。




店を出ると、川沿いに近藤が腰を掛けて待ってくれている。

水辺で遊ぶ子どもを眺めながら、煙草をふかしている姿が様になる。

まさに慧がゲームでプレイしていた侍キャラクターのようだ。

慧は近藤の元に駆け寄った。


「あの、今日はありがとうございました。素敵な場所にも連れて行っていただいて」

「いいや、俺もいい気分転換になったよ。それと……、ほい」

近藤は小さな紙包みを慧に渡した。

「なんですか?」

「ん? いや、お菊さんに似合うと思ってよ」

紙包みを開けると、鈴のついた朱色のかんざしが入っていた。

「うわぁ! 綺麗!」

「お菊さんは華やかだからよ。なんか朱色って感じなんだよな、俺の中で」

「頂いていいんですか?」

「そりゃ、お菊さんの為に買ったんだから」

近藤は、優しく微笑む。


慧は、他人から贈り物をもらったのはこれが初めてであった。

オメガという性別のせいで、ひどい差別を受け、人と対等に扱われない生活を送っていた慧は小学校から大学まで親しい友人ができず、いつも一人で生活していた。

初めて自分を思って買ってくれた物。

例えそれが、女性の姿をした自分に対してだとしても、とてもうれしかった。

「一生大事にします……」

慧はかんざしを大切に巾着袋にしまった。




となみやまでの帰り道、近藤と慧はたわいもない話で盛り上がった。

どこの饅頭がおいしいだとか、この定食屋がお勧めだとか。

どれも、取るに足らない話なのだが慧にとっては今までで一番面白い世間話だった。


「また寄らせてもらうよ」


となみやまで慧を送り届けると、近藤は笑って去っていった。

慧は、その後ろ姿を見えなくなるまで、見つめていた。
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