59 / 69
第58話
しおりを挟む
ぐうっ、と慧の腹の虫が鳴いた。
あれから、何時間経ったのだろうか。日が落ちて、まだ明かりがついているのは深夜まで営業しているとなみやぐらいだ。
慧は今、町から少し離れた高台にいた。ここからだと、町の様子を一望できるし、多分土方もここまでは追ってこない。
しかし、食べ物がないのはかなり痛い。急いで出てきてしまったせいで、その事に頭が回らなかった。
屯所に帰れない以上、これからは自分で食事を調達しなければならなくなってしまった。
幸い、ここに来る途中に果実のなった木を何本か見つけた。物足りないだろうが、ないよりはましだろう。
「はあー、今日は満月かー」
空を見上げると、煌々とした丸い月があった。考えることが多すぎて、もう逆に何も考えたくなくなる。
元の時代に戻ることだって、妊娠をしてしまったかもしれないことだって、もうすべて忘れてしまいたい。
月の光が降り注ぎ、明かりの消えた町が昼間の様によく見える。何気なく町中を見ていると、となみやの明かりがついに消えた。だいたい時刻は十二時くらいだろうか。
半日走り回ったせいで体の疲れがピークに達している。もう、今日は寝てしまおうと木の幹に背中を預けた時だった。
「……なんだあれ」
慧は目の前の光景に驚きが隠せなかった。
丁度となみやの通りが、ネオン色に光っていた。まるで、都会の街中の光景の様で、明らかにこの時代の光景とは思えない。
慧は急いで体を起こした。
月の光が当たっている場所だけ、その光景は広がっている。それは慧が何度も見てきた町の景色だった。
慧は走り出していた。ついに現代に帰れるかもしれない。足を必死に動かし町までを駆け下りていった。
あれから、何時間経ったのだろうか。日が落ちて、まだ明かりがついているのは深夜まで営業しているとなみやぐらいだ。
慧は今、町から少し離れた高台にいた。ここからだと、町の様子を一望できるし、多分土方もここまでは追ってこない。
しかし、食べ物がないのはかなり痛い。急いで出てきてしまったせいで、その事に頭が回らなかった。
屯所に帰れない以上、これからは自分で食事を調達しなければならなくなってしまった。
幸い、ここに来る途中に果実のなった木を何本か見つけた。物足りないだろうが、ないよりはましだろう。
「はあー、今日は満月かー」
空を見上げると、煌々とした丸い月があった。考えることが多すぎて、もう逆に何も考えたくなくなる。
元の時代に戻ることだって、妊娠をしてしまったかもしれないことだって、もうすべて忘れてしまいたい。
月の光が降り注ぎ、明かりの消えた町が昼間の様によく見える。何気なく町中を見ていると、となみやの明かりがついに消えた。だいたい時刻は十二時くらいだろうか。
半日走り回ったせいで体の疲れがピークに達している。もう、今日は寝てしまおうと木の幹に背中を預けた時だった。
「……なんだあれ」
慧は目の前の光景に驚きが隠せなかった。
丁度となみやの通りが、ネオン色に光っていた。まるで、都会の街中の光景の様で、明らかにこの時代の光景とは思えない。
慧は急いで体を起こした。
月の光が当たっている場所だけ、その光景は広がっている。それは慧が何度も見てきた町の景色だった。
慧は走り出していた。ついに現代に帰れるかもしれない。足を必死に動かし町までを駆け下りていった。
10
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
ちゃんちゃら
三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…?
夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。
ビター色の強いオメガバースラブロマンス。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる