新撰組の想い人 ~幕末にタイムスリップしたオメガの行方~

萩の椿

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第58話

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ぐうっ、と慧の腹の虫が鳴いた。


 あれから、何時間経ったのだろうか。日が落ちて、まだ明かりがついているのは深夜まで営業しているとなみやぐらいだ。

 慧は今、町から少し離れた高台にいた。ここからだと、町の様子を一望できるし、多分土方もここまでは追ってこない。

 しかし、食べ物がないのはかなり痛い。急いで出てきてしまったせいで、その事に頭が回らなかった。

 屯所に帰れない以上、これからは自分で食事を調達しなければならなくなってしまった。

 幸い、ここに来る途中に果実のなった木を何本か見つけた。物足りないだろうが、ないよりはましだろう。

「はあー、今日は満月かー」

 空を見上げると、煌々とした丸い月があった。考えることが多すぎて、もう逆に何も考えたくなくなる。

  元の時代に戻ることだって、妊娠をしてしまったかもしれないことだって、もうすべて忘れてしまいたい。

 月の光が降り注ぎ、明かりの消えた町が昼間の様によく見える。何気なく町中を見ていると、となみやの明かりがついに消えた。だいたい時刻は十二時くらいだろうか。


 半日走り回ったせいで体の疲れがピークに達している。もう、今日は寝てしまおうと木の幹に背中を預けた時だった。


「……なんだあれ」


 慧は目の前の光景に驚きが隠せなかった。

 丁度となみやの通りが、ネオン色に光っていた。まるで、都会の街中の光景の様で、明らかにこの時代の光景とは思えない。

 慧は急いで体を起こした。

 月の光が当たっている場所だけ、その光景は広がっている。それは慧が何度も見てきた町の景色だった。

 慧は走り出していた。ついに現代に帰れるかもしれない。足を必死に動かし町までを駆け下りていった。
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