バトル・オブ・シティ

如月久

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救出作戦開始

3.加速

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 早速、リョウは自分のパソコンで「シティ」を起動した。リョウの「リョウⅣ」はまだ「メガロポリス」ではないので、ゲームを休んでいる間はゲーム上の時間を停止させることができる。なので、マチは昨日の夜の状態のままだ。人口は四万五千二百人。農業を中心としたのんびりとしたマチのままだ。高速道のインター付近に農産物の集出荷施設があり、隣接して農産物の小さな加工場が整備されたばかりだ。
「随分、のんびりとした街なのね」
 ジャニスが画面を覗き込んで微笑んだ。「でもリョウらしい」
「これを『メガロポリス』にするには、かなりの時間がかかりそうだ」
「でも、ヨッシーは3日もかからずに作ったでしょう」
「カジノや風俗店街、何でもありだったからね。なりふり構わなければ短期間で人口百万はいくかもしれない。それに、『メガロポリス』になる前なら、時間の経過を自由に設定できるのさ」
「時間の経過?」
「そう、通常モードだと、1年が1時間という設定だけど、プレーヤーの好みで遅くしたり、早くしたりできるんだ。最大10倍だね。1時間で10年が過ぎるってことさ」
「じゃあ、『メガロポリス』は意外に早いかも」
「いや、そうとは言えない。1時間で10年が過ぎるってことは、それだけプレーヤーのメンテナンスの入り込む余地が減ってしまうってことだ。DVDを10倍で早回しするようなものだから、間違いに気付いてもストップをかけている間に、大事な場面をやり過ごしてしまう。方向性を間違えたら、あっという間に街は潰れるよ。ゆっくり細かく手入れした方が、堅実に育つんだ」
「でも、普通のスピードでやってたら、時間がかかってしょうがないわね」
「うん、ヨッシーの裁判は今夜にも最高裁まで行きそうだ。それまでには何とかしなくちゃ」
「じゃあ、あと5、6時間?」
「そんなところかな。いずれかの時点で、10倍のスピードにするしかないよ。だから作戦が大事だと思う」
 ジャニスは首を傾げた。
「作戦?」
「そうだよ。人口百万に乗ったとしても、ただ人口を増やしただけなら、『メガロポリス』に昇格した途端、『ネバーランド』のように、すぐに叩き潰されてしまう。ヨッシーのときのように、互角の戦いじゃないんだ。何たって、こっちは百万、相手は今や3百万の巨大都市、いや巨大国家だからね」
「昇格する前に軍備を整えることは出来ないの」
「ルール上は無理だ。国家じゃないから軍は持てない」
「それじゃ、『プレミアム』に潰されるだけじゃないの」
 リョウは頷いた。だが、リョウには一つの考えがあった。
「軍隊は駄目でも、警察組織は持つことができる。昇格前に警察組織をできるだけ、大きくしておくよ。昇格したらそれをすぐに武装させる。そうしたら、少しはマシな戦いになる。あとは、すぐに軍事施設に転用できるような設備をたくさん作っておくことも大事だ」
「例えば空港とか?」
「そう。1つや2つじゃすぐに潰されちゃうから、大きな空港だけでなく、農道空港を街のあちこちに配置しておくよ。ちょっと整備すれば、戦闘機や爆撃機も離陸可能にできるだろう。あとは防御の備えだ」
「防御?」
「さっきいろいろと調べてみたら、『プレミアム』は空母艦載機だけじゃなく、陸から攻めてくる戦力が充実している。要するに戦車と歩兵だよ。これを自分の領域に入れないためには、何か防御壁がいるだろう。要塞のように壁で囲むことはできないけど、街の周囲をぐるりと用水路で固めたら、濠の役目を果たすだろう。どの方角で『プレミアム』と接するか分からないから、街全体を用水路で囲むよ。それで侵攻を食い止める時間が稼げる」
「その間に軍備を整える訳ね」
 リョウは無言で頷いた。
「でも、守ってばかりだったら、勝ちはないでしょう。講和を図るようじゃ、ヨッシーは救えないわ。勝って、こちらの法律でヨッシーの裁判を終わらせなきゃ。攻撃の作戦も必要じゃない?」
 ジャニスの言うのはもっともだ。「ネバーランド」が昇格直後に悲惨な末路をたどった反省から、防御への備えは考えたが、攻撃となると、何も打つ手がなかった。
「大量破壊兵器は使えないんでしょう」
「ああ、実際には使えない。使ったら、ゲームが終わってしまうからね。核兵器なし、というのは、ヨッシーの戦争で証明された。だから、プレミアムが使ったようなブラフも効果なしさ」
「じゃあ、普通のやり方で、3倍の戦力の相手に勝てる方法を考えなきゃならないのね」
「そうだよ。予算に限りがあるから、際限なく兵器を購入することはできない。軍事費が限界を超えたら、街、じゃないね、自分の国が破綻する。3倍の相手に勝つのは簡単じゃないよ」
 2人はしばらく黙って画面を見つめていた。「リョウⅣ」は人口がやっと5万人になった。リョウは黙ったまま、小学校をひとつ作った。
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