バトル・オブ・シティ

如月久

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突破口

3.援軍続々

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 電話を切ってすぐにジャニスが報告した。カナが知らせてきた街は、2つあった。1つは現在の人口が69万人で、鉄道の大きな駅を中心に物流拠点として発展した「レールウエイズ」という街だった。旅客用の大きな駅には、特急から普通電車までさまざまな車両が出入りしていた。そこから2駅ほど行くと、背後に巨大な貨物ヤードを擁する貨物駅があり、その近くには問屋街や市場が広がっていた。
「これは『鉄ちゃん』の街ね」
 ジャニスは苦笑した。
「物資の輸送ではもの凄い能力を持っているよ。ここと手を結べたら、同盟国は潤うと思う」
 もう1つの街は、化学工業が異様に発展していた。街の一角には、さほど大きくはないが、多種多彩な工場や研究所が何百という数で林立し、訳の分からない化学薬品を大量に製造していた。人口は55万人で、「セントラル・シティ」に昇格したばかりだが、市の財政は裕福だった。この化学工場群がかなりの額の税金を納めているに違いない。
「俺たちがやったことと、ある意味では同じことをした街だ」
 リョウは思わず感心した。このゲームは、新しい分野を開拓した街ほど爆発的に発展するようになっている。化学工業で伸びたこの街は、他のプレーヤーがほとんど試さなかった分野の産業を集約的に発展させることで、この方面の需要をほぼ独占し、大きくなってきたのだ。
「ネオジムYAG、五酸化ニオブ、硝酸イソソルビド…。ちんぷんかんぷんだわ。この街を作った人、相当化学に詳しいわね」
「俺もさっぱりだよ、でも、こういう専門家がいるのは心強い。意外なところで、力を発揮してくれるかもしれない」

 ジャニスは早速、カナに教えてもらったメルアドに向けてメールを発信した。すぐに返事が来るだろう。
「スポーツリーグの分と合わせると、4つか5つの協力がもらえそうだ。全部がメガロポリスに進めば、人口では『プレミアム』を上回る」
「カナはあと2つか3つは何とかなりそうだって言ってたわよ」
「それは心強い。スポーツリーグの方は、何とかなりそうかい?」
「ええ。『ポーラスターズ』と『イチロー』はやる気満々よ。時間スピードを早めて、人口を増やしてもらってる。百万人到達のタイミングを測るところまできてるわ。このほかに、今口説いているのが、『ジャイアンツ』と『タイガース』、なんだかベタなネーミングだけど。2つともかなり実力あるわよ」
 ジャニスはパソコンをリョウの方に向けた。「ジャイアンツ」はバランスの取れた街だった。行政組織が機能的に発達していて、公共事業が多彩に発注されているので、土木・建設業が成長している一方、商業やレジャーなどの三次産業も成熟していた。一言で言えば、大人の街だ。
「経済学の教科書のような街ね。これを作った人は、きっと経済学部か経営学部よ」
 ジャニスは言った。
「この街は野球がとにかく強いのよ。3年連続でリーグ優勝してるの。それとは対象的なのが『タイガース』ね」
 ジャニスの言った通り、「タイガース」は「ジャイアンツ」とは全く違う特徴を持っていた。まず、街全体がごちゃごちゃして、混沌としている。大きな工場を取り巻くように、中小の会社や工場が乱雑に立ち並び、その周辺に住宅や商店街がアメーバのように増殖していた。しっかりした行政組織を中心に、計画的に発展している「ジャイアンツ」に比べ、「タイガース」は無秩序で混乱していた。だが、街全体の活力はむしろ「ジャイアンツ」よりもあり、住民の満足度は高かった。「ジャイアンツ」よりは数が少ないものの、大きな工場のほとんどは業績が好調で、周辺の中小企業もそれに右ならえしていた。
「ここの野球場はいつも超満員よ。成績は浮き沈みが激しいけど、球団の経営状況は、常に全球団中最高よ」
「何となく魅力的な街だね。こんな街が参加してくれると、うれしいな」
「2つの街は、野球を通じたライバルだけど、対プレミアムでは考え方が一致したみたい。呉越同舟なので、ちょっと心配な面はあるけど、強力な援軍には違いないわ」
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