バトル・オブ・シティ

如月久

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迫るタイムリミット

2.最終判決

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 連合国の貧弱な総攻撃は、わずか1、2分で終了した。連合国側は、残っていた石油タンクのいくつかを破壊したほか、高速道を何カ所か使用不能にできた。しかし、派遣した爆撃機は1機も帰ってこなかった。爆撃機の護衛についた戦闘機も、同じ運命だった。結局、互いに戦闘機を50数機失った計算だ。
「このあとの反応で全てが決まる。向こうがすぐに総攻撃をし返してきたら、俺たちは耐え切れない。でも、すぐに反撃してこないとなると、『プレミアム』には、もう戦う余力がなくなっている可能性がある」

 2人はそれぞれのパソコンを注視していたら、突然、ジャニスが「あっ」と声を漏らした。
「見て、判決がでたわ」
「プレミアム・シティ・プレス」は例によって号外を発行した。見出しだけの簡単な文言だが、二人はその内容を読み、息を飲んだ。

<『ヨシダ』被告の死刑確定―執行は来月5日>
 予想通りとは言え、実際にその見出しを目にしたリョウは焦りを感じた。
 死刑執行まではあと1時間…。これが過ぎてしまったら、ヨッシーは帰って来ないかもしれない。今のこの世の中で、ゲームで死刑などありえないことなのだが、ありえないリアリティを持ったこのゲームに没頭している今のリョウはそれが現実になるかもしれないと信じる気持ちに支配されていた。
「これが本当のタイムリミットだ」
 リョウは唸った。ジャニスは無言のままでパソコン画面を凝視している。

 ヨッシーの裁判は結審してしまった。しかし、もう一つの心配事には、幸い全く変化はなかった。「プレミアム・シティ」には、無傷の空母が3隻あり、その艦載機や陸上発着の戦闘機が百数十機、陸には戦車が百両以上残っていたのに、反撃にでる気配はなかった。「シティ」のホームページから、「プレミアム」の国内を探っても、それらの大軍はほとんど動いておらず、爆撃被害地の復旧も手付かずのままだった。
 連合国の知恵袋「ケミカル」からメールが入った。
<相手は身動きが取れない状況のようですね。そろそろ交渉を始めましょうか? 常任理事会で、『プレミアム』に停戦を呼び掛ける決議をして、相手との条件交渉を進めたらいかがでしょうか。相手への条件は取り合えず国連への加盟だけでいいと思います。加盟さえ認めたら、即刻、理事会で戦犯処刑の停止を勧告しましょう。相手は恐らく禁輸措置の解除を求めてくるでしょうが、軍の指揮権を理事会に渡すまでは禁輸解除はできません。とにかく時間がありません。すぐに行動を起こしましょう>
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