扉の先は異世界(船)でした。~拾ったイケメンと過ごす異世界航海ライフ~

楠ノ木雫

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第五章 太陽さんご無沙汰です

◇29 秘密

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 私がこの船に来てから、この大きな船の船長となった。

 この船には、『船長権限』というものがある。私が船を降りる時に、部外者の進入を禁止することが出来たのもその一つだ。

 そして、船長権限でしか閲覧出来ない情報というものがある。その中に、この船のクルーの名前が記載されている。

 その中にある、とある名前。

 【ヴィンセント・レイス・ウィンスト・バールス】

 彼は初対面で『ヴィンス』と名乗った。そして、以前は傭兵として各地を回っていたそうだ。でも、こんなに長い名前で、愛称の方を使っている。

 ファンタジーとか、外国とかで、こんなに長い名前の人って言ったら……王族とか、そういう人達だったような気がする。でも、ヴィンスが王族?

 本人は、傭兵だと言っていた。じゃあ嘘を吐いた? でも、ヴィンスが嘘を吐くようなことはしないって思ってる。……いや、思いたい。

 けれど……

 私も、隠し事が多い。いや、多すぎる。ヴィンスと交わした約束事を見れば一目瞭然だ。


「どうした、ナオ」

「ん? ううん、何でもない。明日また豆腐作っていい? 冷ややっこ食べたい」

「い~ね~冷ややっこ。冷たくて美味いよな」

「夏にぴったりだよね」


 こうしていつも夜になるとヴィンスの部屋で話をする。ベッドに並んで横になって、いろんな話に花を咲かせている。今日の事や、明日やりたいこと、昔話だって出てくる。けれど、昔話の話題はあまり出てこない。

 ヴィンスは、自分の話より私の話が聞きたいと流されあまり話さない。私の方だって、話せるものと話せないものがあるから困る事もある。選んで話さなきゃいけないから、簡単に話して違う話題を引っ張り出してくる。


「そろそろ米が集まってきたよな。精米機、だっけ。明日やってみるか?」

「あ、そういえばそうだね。じゃあ朝ごはん食べた後にやってみよっか」


 この船の畑は本当に優秀だからどんどん米が集まってきてる。この船にある精米機は業務用なのか凄く大きいものなんだけど、扱い方を見ておかなきゃ。壊したらどうしようもないからね。家庭用がよかったなぁ、と思ったり思わなかったり。

 米がなくなってから私達はずっとパンとパスタばかりを食べていた。ヴィンスは米を気に入ってくれたみたいで、十分な量が集まるまで結構我慢していたようだ。かくいう私もそうだが。

 米は、日本人にとって馴染み深いもの。大昔から食べられてきたものだ。それを、異世界人のヴィンスが気に入ってくれたのは、私にとっては結構嬉しい事だった。

 けれど、この前米を畑に植えるとなった時……『田んぼは?』……とつい口から出てしまった。田んぼって? と聞かれたけれど、どこまで言っていいのかと心の中で困惑しつつも何とか説明してあげた。結局、ウチの畑がおかしいというところに落ち着いたけれど。

 いっその事、全て話してしまおうか。私の出身の事と、そしてこの船に乗るきっかけとなった出来事を。それなら、嘘をついているという罪悪感から解放される。

 けれど、それを言えば彼はどんな反応を示すだろう。彼は優しいけれど、心の内では何を思うか分からない。

 せっかく、この船に残ってくれて、好きになってくれて、その気持ちを伝えてくれたのに。この関係が変わってしまうとなると……

 ……待てよ、そもそも、私は設定上とある小さな国の住民で、この船で航海してるただの小娘となっている。母国はない、というところも嘘ではない。

 ヴィンスにとって私は異国の世間知らずの小娘だ。私は異世界人で、この船は別の世界と繋がっている、と言われたところで……この船の恐ろしさを身に染みて実感しているヴィンスからしたら、さして驚く事ではないのでは……?


「……ナオ?」

「え? あ、ううん、何でもない。明日のお昼ご飯は生姜焼きにしよっか」

「マジ! やった!」


 言ってみる価値はある、けど……異世界と繋がっている、という事と、私が異世界人、という事は別ものだ。

 私の出身を打ち明けて、ヴィンスはどう思うだろうか。一緒にいたい、って言ってくれたけれど……これを聞けば私に対する印象は多少変わるのは間違いない。


「……眠くなってきちゃった。もう寝よっか」

「うん。おやすみ」

「おやすみ」


 私の隠し事の件は……もう少し後にしようか。

 ヴィンスが、本当の事を打ち明けてくれるまで。……というのは建前なのかもしれない。自分にそれを打ち明ける覚悟がなくてビビってるだけっていうのが本音か。

 ヴィンスはきっと、いつか打ち明けてくれると思う。だから、それまでに私もそれを伝える覚悟を決めないといけないね。

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