29 / 39
第五章 太陽さんご無沙汰です
◇29 秘密
しおりを挟む
私がこの船に来てから、この大きな船の船長となった。
この船には、『船長権限』というものがある。私が船を降りる時に、部外者の進入を禁止することが出来たのもその一つだ。
そして、船長権限でしか閲覧出来ない情報というものがある。その中に、この船のクルーの名前が記載されている。
その中にある、とある名前。
【ヴィンセント・レイス・ウィンスト・バールス】
彼は初対面で『ヴィンス』と名乗った。そして、以前は傭兵として各地を回っていたそうだ。でも、こんなに長い名前で、愛称の方を使っている。
ファンタジーとか、外国とかで、こんなに長い名前の人って言ったら……王族とか、そういう人達だったような気がする。でも、ヴィンスが王族?
本人は、傭兵だと言っていた。じゃあ嘘を吐いた? でも、ヴィンスが嘘を吐くようなことはしないって思ってる。……いや、思いたい。
けれど……
私も、隠し事が多い。いや、多すぎる。ヴィンスと交わした約束事を見れば一目瞭然だ。
「どうした、ナオ」
「ん? ううん、何でもない。明日また豆腐作っていい? 冷ややっこ食べたい」
「い~ね~冷ややっこ。冷たくて美味いよな」
「夏にぴったりだよね」
こうしていつも夜になるとヴィンスの部屋で話をする。ベッドに並んで横になって、いろんな話に花を咲かせている。今日の事や、明日やりたいこと、昔話だって出てくる。けれど、昔話の話題はあまり出てこない。
ヴィンスは、自分の話より私の話が聞きたいと流されあまり話さない。私の方だって、話せるものと話せないものがあるから困る事もある。選んで話さなきゃいけないから、簡単に話して違う話題を引っ張り出してくる。
「そろそろ米が集まってきたよな。精米機、だっけ。明日やってみるか?」
「あ、そういえばそうだね。じゃあ朝ごはん食べた後にやってみよっか」
この船の畑は本当に優秀だからどんどん米が集まってきてる。この船にある精米機は業務用なのか凄く大きいものなんだけど、扱い方を見ておかなきゃ。壊したらどうしようもないからね。家庭用がよかったなぁ、と思ったり思わなかったり。
米がなくなってから私達はずっとパンとパスタばかりを食べていた。ヴィンスは米を気に入ってくれたみたいで、十分な量が集まるまで結構我慢していたようだ。かくいう私もそうだが。
米は、日本人にとって馴染み深いもの。大昔から食べられてきたものだ。それを、異世界人のヴィンスが気に入ってくれたのは、私にとっては結構嬉しい事だった。
けれど、この前米を畑に植えるとなった時……『田んぼは?』……とつい口から出てしまった。田んぼって? と聞かれたけれど、どこまで言っていいのかと心の中で困惑しつつも何とか説明してあげた。結局、ウチの畑がおかしいというところに落ち着いたけれど。
いっその事、全て話してしまおうか。私の出身の事と、そしてこの船に乗るきっかけとなった出来事を。それなら、嘘をついているという罪悪感から解放される。
けれど、それを言えば彼はどんな反応を示すだろう。彼は優しいけれど、心の内では何を思うか分からない。
せっかく、この船に残ってくれて、好きになってくれて、その気持ちを伝えてくれたのに。この関係が変わってしまうとなると……
……待てよ、そもそも、私は設定上とある小さな国の住民で、この船で航海してるただの小娘となっている。母国はない、というところも嘘ではない。
ヴィンスにとって私は異国の世間知らずの小娘だ。私は異世界人で、この船は別の世界と繋がっている、と言われたところで……この船の恐ろしさを身に染みて実感しているヴィンスからしたら、さして驚く事ではないのでは……?
「……ナオ?」
「え? あ、ううん、何でもない。明日のお昼ご飯は生姜焼きにしよっか」
「マジ! やった!」
言ってみる価値はある、けど……異世界と繋がっている、という事と、私が異世界人、という事は別ものだ。
私の出身を打ち明けて、ヴィンスはどう思うだろうか。一緒にいたい、って言ってくれたけれど……これを聞けば私に対する印象は多少変わるのは間違いない。
「……眠くなってきちゃった。もう寝よっか」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
私の隠し事の件は……もう少し後にしようか。
ヴィンスが、本当の事を打ち明けてくれるまで。……というのは建前なのかもしれない。自分にそれを打ち明ける覚悟がなくてビビってるだけっていうのが本音か。
ヴィンスはきっと、いつか打ち明けてくれると思う。だから、それまでに私もそれを伝える覚悟を決めないといけないね。
この船には、『船長権限』というものがある。私が船を降りる時に、部外者の進入を禁止することが出来たのもその一つだ。
そして、船長権限でしか閲覧出来ない情報というものがある。その中に、この船のクルーの名前が記載されている。
その中にある、とある名前。
【ヴィンセント・レイス・ウィンスト・バールス】
彼は初対面で『ヴィンス』と名乗った。そして、以前は傭兵として各地を回っていたそうだ。でも、こんなに長い名前で、愛称の方を使っている。
ファンタジーとか、外国とかで、こんなに長い名前の人って言ったら……王族とか、そういう人達だったような気がする。でも、ヴィンスが王族?
本人は、傭兵だと言っていた。じゃあ嘘を吐いた? でも、ヴィンスが嘘を吐くようなことはしないって思ってる。……いや、思いたい。
けれど……
私も、隠し事が多い。いや、多すぎる。ヴィンスと交わした約束事を見れば一目瞭然だ。
「どうした、ナオ」
「ん? ううん、何でもない。明日また豆腐作っていい? 冷ややっこ食べたい」
「い~ね~冷ややっこ。冷たくて美味いよな」
「夏にぴったりだよね」
こうしていつも夜になるとヴィンスの部屋で話をする。ベッドに並んで横になって、いろんな話に花を咲かせている。今日の事や、明日やりたいこと、昔話だって出てくる。けれど、昔話の話題はあまり出てこない。
ヴィンスは、自分の話より私の話が聞きたいと流されあまり話さない。私の方だって、話せるものと話せないものがあるから困る事もある。選んで話さなきゃいけないから、簡単に話して違う話題を引っ張り出してくる。
「そろそろ米が集まってきたよな。精米機、だっけ。明日やってみるか?」
「あ、そういえばそうだね。じゃあ朝ごはん食べた後にやってみよっか」
この船の畑は本当に優秀だからどんどん米が集まってきてる。この船にある精米機は業務用なのか凄く大きいものなんだけど、扱い方を見ておかなきゃ。壊したらどうしようもないからね。家庭用がよかったなぁ、と思ったり思わなかったり。
米がなくなってから私達はずっとパンとパスタばかりを食べていた。ヴィンスは米を気に入ってくれたみたいで、十分な量が集まるまで結構我慢していたようだ。かくいう私もそうだが。
米は、日本人にとって馴染み深いもの。大昔から食べられてきたものだ。それを、異世界人のヴィンスが気に入ってくれたのは、私にとっては結構嬉しい事だった。
けれど、この前米を畑に植えるとなった時……『田んぼは?』……とつい口から出てしまった。田んぼって? と聞かれたけれど、どこまで言っていいのかと心の中で困惑しつつも何とか説明してあげた。結局、ウチの畑がおかしいというところに落ち着いたけれど。
いっその事、全て話してしまおうか。私の出身の事と、そしてこの船に乗るきっかけとなった出来事を。それなら、嘘をついているという罪悪感から解放される。
けれど、それを言えば彼はどんな反応を示すだろう。彼は優しいけれど、心の内では何を思うか分からない。
せっかく、この船に残ってくれて、好きになってくれて、その気持ちを伝えてくれたのに。この関係が変わってしまうとなると……
……待てよ、そもそも、私は設定上とある小さな国の住民で、この船で航海してるただの小娘となっている。母国はない、というところも嘘ではない。
ヴィンスにとって私は異国の世間知らずの小娘だ。私は異世界人で、この船は別の世界と繋がっている、と言われたところで……この船の恐ろしさを身に染みて実感しているヴィンスからしたら、さして驚く事ではないのでは……?
「……ナオ?」
「え? あ、ううん、何でもない。明日のお昼ご飯は生姜焼きにしよっか」
「マジ! やった!」
言ってみる価値はある、けど……異世界と繋がっている、という事と、私が異世界人、という事は別ものだ。
私の出身を打ち明けて、ヴィンスはどう思うだろうか。一緒にいたい、って言ってくれたけれど……これを聞けば私に対する印象は多少変わるのは間違いない。
「……眠くなってきちゃった。もう寝よっか」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
私の隠し事の件は……もう少し後にしようか。
ヴィンスが、本当の事を打ち明けてくれるまで。……というのは建前なのかもしれない。自分にそれを打ち明ける覚悟がなくてビビってるだけっていうのが本音か。
ヴィンスはきっと、いつか打ち明けてくれると思う。だから、それまでに私もそれを伝える覚悟を決めないといけないね。
16
あなたにおすすめの小説
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
山賊な騎士団長は子にゃんこを溺愛する
紅子
恋愛
この世界には魔女がいる。魔女は、この世界の監視者だ。私も魔女のひとり。まだ“見習い”がつくけど。私は見習いから正式な魔女になるための修行を厭い、師匠に子にゃんこに変えれた。放り出された森で出会ったのは山賊の騎士団長。ついていった先には兄弟子がいい笑顔で待っていた。子にゃんこな私と山賊団長の織り成すほっこりできる日常・・・・とは無縁な。どう頑張ってもコメディだ。面倒事しかないじゃない!だから、人は嫌いよ~!!!
完結済み。
毎週金曜日更新予定 00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる