恋の御伽噺を異世界で

冬咲 椿

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第一章 【2人の兄編】

俺の気持ち ~レイヴン side~

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俺はこの家の長男として生まれ、5歳から木刀を握り15歳で騎士団に入った。毎日欠かさず鍛錬している甲斐があったもので、騎士団の中でも優秀だと評価され、わずか一年足らずで副隊長になった。

小規模な隊とはいえ、若干15歳にその地位を与えられることは今まで数例しかなかった。幸運と言うべきか、俺は公爵家の生まれで、体を鍛える環境は充実していた。

ただ、この家に生まれて来なければよかった、と願ったこともある。

その原因が、今俺のベッドで寝ているノエルの存在だ。

三男の末っ子として生まれたノエルは我儘に育ち、よく家族を困らせていたりもした。しかし昔はよく甘える可愛い子供で、俺にもよく抱きついて来た。

それも、鍛錬が終わり、汗を掻いた直後だ。
鍛錬後で汗臭くないか? と聞いた時には『レイヴン兄さんの汗の匂い好きだよ? それだけ頑張ったって言う証拠だもん!』と、満面の笑みを向けて来た。

それがなんとも可愛く、愛おしかった。その時直感的に、俺はノエルに恋をしたんだ、と悟った。でも俺たちは男同士な上、兄弟……この国では同性の結婚は認められているし、血を分けたもの同士の恋もなくはない。しかし、近親での恋は白い目で見られることが多い。

この時俺は自分がこの家に生まれたことを、ノエルがこの家に生まれた事実を呪った。

もし俺たちが兄弟でなく別々の家に暮らし出会っていたのなら、俺はこれほど苦しむ事はなかっただろう。

だが、歳を重ねるにつれ我儘に育ち、あまつさえこの国の第一王子に恋をした。恋を実らせるために女っぽい格好や仕草を日常的に行い、だんだんと愛おしさがなくなっていった。

本人も、俺やグレンのことを嫌っていた。だから俺はなるべくノエルを避け、視界にも入れないようにして来た。

もう可愛いノエルはいなくなってしまったし、何より苦しむことがなくなる……そう思ったからだ。

しかし、昨日ノエルが発した言葉で、ノエルがクッキーを焼いてくれた事で、無くしていた恋心に再び火が灯った。

それを自覚した時は酷く恐ろしかった。今後、俺はノエルにどう接したらいいのか、ノエルへの気持ちを抑えられるのか……。

ノエルは、こんな俺を知ったら離れてしまうのだろうかと、俺を拒絶するのだろうかと、悪い考えばかりが脳裏をよぎってしまう。

「ノエル、どうしてお前は、ここまで俺を惑わせるんだ……」

安らかな寝息を立てるノエルの頭を撫で、その温もりを手のひらで感じた。

今はこれで満足出来ているが、今後俺はどうなっていくのだろうかと、不安が胸を侵食していった。
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